次世代の若い表現者を発掘し、新しい表現の実験的な場を提供しようとするのが、このガーディアン・
ガーデン演劇フェスティバルのコンセプト。厳しいコンペティションを勝ち抜いて選ばれた三団体が、果たして本番でどのような作品を創り出すのか?
そしてその稽古場の実態は? 今年も例年同様、前回出場団体の主宰者が、稽古場をこっそり覗き見。作品の裏側に秘める真実を赤裸々にレポートします。
第一週目は「ラ・サプリメント・ビバ」。稽古場に「らくだ工務店」主宰の石曽根 有也氏が潜入しました。
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レポーター:らくだ工務店 石曽根有也さん
石曽根:「らくだ工務店」の石曽根です。よろしくお願いします。
石 井:「ラ・サプリメント・ビバ」の石井です。よろしくお願いします。
石曽根:すみません、僕あの……、二次会に、二次会じゃないや。二次審査会のときに伺えなかったんですけど、二次審査会のレポートを見させていただいたのと、今日稽古を見せていただいて、……面白かったです。
石 井:ありがとうございます。
石曽根:大変ですよね。
石 井:作業は大変ですね。
石曽根:本番は音響さんが操作するんですか?
石 井:普段は音響さんにやってもらってるんですけど。
石曽根:石井さんも出演するんですか?
石 井:出ますね、ちょっと。だから僕が舞台上で操作できたらって。たら、ですけど。
石曽根:まだ仮定?
石 井:はい。それも含めて演出で……、どうなのかな?
石曽根:あの作業っていうのは、普通に家でやるんですか?
石 井:はい。自分で編集してます。
石曽根:録ってくる素材は?
石 井:いろんなものですね。たまに例外もあるんですけど。普通は一本のものから、台詞を拾って。
石曽根:ドラマとかを見て、「これ面白いな、使えるな」っていうのをダビングして。
石 井:はい。それからはもう、とりあえず台詞という台詞を、使う使わないに限らず全部とって、それをまとめてから、使うものは使って、使わないものは使わない。
石曽根:それも全部自宅で?
石 井:もう、その姿はホントに誰にも見せられないですよ。
石曽根:ははは(笑)。
石 井:ホントに家で独りで。今の時期は炬燵に入って小さくなりながら。
石曽根:ひたすらドラマ見て。
石 井:ドラマ見て、録って、その音を聞きながら、文字に起こして。
石曽根:その作業は、……言ってみれば演劇の人の作業では……。
石 井:(笑)ないですね。
石曽根:普通、台本を書くのって、そういう作業じゃないですよね。
石 井:そうですね。
石曽根:こういう形態でずっとやられてきたんですか?
石 井:もともと7年くらい前に音楽をやっていて、演劇も平行してやっていたんで。演劇は劇団に所属したりして活動していて、それとは別に音楽もやっていて。
石曽根:じゃあ、一方で音楽をやっていて、一方で芝居をやっているっていうのが、どこかで結びつくきっかけがあったんですか?
石 井:そうですね。平行してやっていたんですけど、まぁ、何ですかね……。
石曽根:ご飯と煮物みたいなものだったのが、突然「ご飯と煮物を口で合わせれば、ますます旨いじゃん!」みたいなことになった訳ですよね。
石 井:はは(笑)そういうことですね。多分、知らず知らずだと思うんですけど……、気づいたらこんな感じだったから、「一緒に食べてみたら美味しいんじゃない?」ってきっかけのような感覚はないですね。
石曽根:以前の公演も今回みたいなスタイルですか?
石 井:去年1年間は、今のスタイルですね。
石曽根:「ラ・サプリメント・ビバ」として始めたときから?
石 井:いや、「ラ・サプリメント・ビバ」の発足は音楽ユニットなんですよ。
石曽根:「ラ・サプリメント・ビバ」っていう音楽ユニット?
石 井:そうですね。サンプラーを使って、クラブでテクノ系のイベントみたいなのをやっていました。もう一人相方がいるんですけど。
石曽根:はい。
石 井:彼が就職するからって言って、20歳の頃だったから独りでやる気力もあんまりなかったんで、「じゃ、音楽はとりあえずいっか」って感じで、ちょっと芝居の方に専念しようかな、と。
石曽根:「ラ・サプリメント・ビバ」の 名前の由来を。
石 井:それはですね、音楽ユニットをやっていたときに、ちょっとしたイベントに出ることになったんですよ。そのとき、イベントの主催者に「名前は?」って言われて。それで適当につけなきゃいけないと思って。その当時、サプリメントウォーターっていうのの出始めで、よく飲んでたんです。で、「このサプリメントって言葉は、この先くるぞ」って。
石曽根:その時点で既にキテませんでした?
石 井:いや、まだ。……ちょ、ちょっとキテた(笑)。
石曽根:ちょっとだけキテた。今ほどはキテなかった、と。
石 井:まあ、だいぶキテたと思うんですけどね。
石曽根:どっち(笑)。
石 井:まぁ。今ほどはキテなかった。だからサプリメント。で、「ザ・サプリメント」だったら、「ラ・サプリメント」だよね、みたいな消去法で、「ラ・サプリメント」。「でも何かちょっと尻つぼみな感じだね」ってことになって、ビバつけて……。
石曽根:ケツ上げて。
石 井:(笑)「ケツ上げよう」ってなって。「ラ・サプリメントって、何かちょっと尻落ちる感じだから、ビバつけて上げとこうか」っていう感じで、「ラ・サプリメント・ビバ」。
石曽根:(笑)今の実話ですよね?
石 井:そうです。実話です。そのイベントの主催者に、「10分くらいで決めてくれ」って言われてたので、目の前で決めたんですよ。
石曽根:へー。10分間で、「ラ・サプリメント・ビバ」。ちょっと脱力な感じが、僕は面白いなと思って。 石曽根:客演の方がほとんどじゃないですか。そのチョイスはいつもどんな感じなんですか?
石 井:……そうですね。「ラ・サプリメント・ビバ」が演劇で活動することになった2年前の頃は、ホントに誰も知らない状態だったんですけど、最近は、もうほとんど固定メンバーですね。今まで出てくれた人、前回出てくれた人で今回出演していない人は、日程の都合が合わなくて出られないだけで。だから出られるんだったら、もうホント、みんなに出て欲しいですね。
石曽根:大変じゃないですか?客演さんがたくさんだと。
石 井:そうですね。出演者が変わっちゃうと作品も変わっちゃう恐れがありますから。
石曽根:それよりも作品を作っていく中で、うちは固定メンバーが5〜6人いるから、「まあ、いいか、あいつにやらせとけば」みたいないろいろな甘えがあったりするんですけど、全員客演さんだと、そういう訳にはいかないですよね?
石 井:いや、それが逆にですね、僕が独りだからって、みんなが客演なのに協力体制でやってくれるんですよ、逆に。これがもし、2人とか3人の劇団で、客演が8人とかだと、そうはいかないかもしれないんですけど、今は1対12っていう感じなんで。
石曽根:(笑)「あいつ独りだぜ」と。
石 井:「あいつ独りで台本書いて、家で炬燵入りながらMD編集したりして、折り込みの手配までしたりして、いろいろやってるらしいぜ。何かちょっと手伝えることあったらやった方がいいんじゃない?」的な感じで、みんなから手伝ってくれるんですよ。
石曽根:みんないい人ですね。
石 井:みんないい人なんですよ。僕より年上の人が多いんです。
石曽根:ごめんなさい。石井さんはお幾つですか?
石 井:僕、28です。
石曽根:じゃあ他のみなさんは30代とか?
石 井:同い年か、29、30ぐらい。下が3人くらいいるだけですね、今回のメンバーは。
石曽根:そうなんですか。
石 井:だからみんなお兄さん面してくるんですよ。
石曽根:上手いことしましたね(笑)。
石 井:みんないい人で、助かってます。ホントにみんなに感謝してます。そうですね、今は甘えてます、みんなに。
石曽根:今日、突っ込みの方が2人いたじゃないですか。
石 井:はい。
石曽根:あれは、完全に突っ込み目当てで、呼ばれたんですか?
石 井:いや、今、まだ稽古に参加してない人がいるんですけど、もう一人、突っ込みがいるんですよ。
石曽根:はい。
石 井:で、僕も、突っ込みなんですよ。
石曽根:(笑)
石 井:だから突っ込み4人体制みたいな感じなんです。
石曽根:へー、突っ込み4人衆(笑)。
石 井:でもその4人は、実は誰も突っ込みたくないんですよ、やっぱりボケたいんです。
石曽根:ボケたい……。
石 井:できれば突っ込みをやりたくないっていうモードを出してくるんですよね。
石曽根:あはは(笑)。何となくわかります。
石 井:わかります?「やるからにはボケたい」って気持ち。だから今日の二人も、まぁ突っ込みのポジションだから、そういう役割でやってるんですよね。もともと得意っていうのもあるんですけど。
石曽根:僕、今日の突っ込みの方のある一言が特にヒットしてとても面白かったんですけど。
事務局:何て言葉ですか?
石曽根:○○に関して突っ込むじゃないですか。多分演出的には違うところなんだと思うんですけど。すごく、細かい仕草とかが、ちょっといいなって思って。でもあれは稽古場でも突発的な台詞ですよね。
石 井:はい。
石曽根:僕も毎回それで悩むんですが、その場では抜群に面白いんだけど、本番にいったら違うだろうなーって……。
石 井:そうですね。ああいう感覚を稽古しちゃうと、初めて聞いたときの感覚じゃなくて、段取りになっちゃうんですよね。だからとっていって、毎回その突発的な感じで5ステなりをノーガードな状態、ラフな感じで出来るっていうかというと、よほどのベテランとか達人じゃないと、できないですよね。相手から返ってくる言葉は全部同じだから。
石曽根:相手、要するにボケは、寸分狂わず……。
石 井:寸分狂わず来ますから(笑)。
石曽根:同じ音程できますからね(笑)。それに対して突っ込みがすごい生だと……、もしかすると結果としてボケに対して突っ込んでる方がボケになっている?
石 井:そうですね。
石曽根:そのズレがちょっと面白いな、と思って。
石 井:たまに本番で、ボケた段階で結果が出てるときってありますよね。ボケた瞬間に笑いが起こるとき。
石曽根:はい。
石 井:そのときに突っ込むと、「ヒュウ」ってなるじゃないですか。「わかってるよ」って。
石曽根:はい。ありますよね。
石 井:あれ、辛いですよね(笑)。
石曽根:(笑)辛いですよね。
石 井:だからそういう台詞は僕はカットしますね。ボケの時点で完成していたら……、突っ込みは何も言わないって。これ、最近感じてるんですよね。二次審査のときも、別に何も言わなくてもよかったのかなって。
石曽根:例えば特許みたいな。今までもネタとしては使ってきてる手法だとは思うんですけど、例えばサンプラーで叩くのは「ラ・サプリメント・ビバ」みたいな(笑)。
石 井:サンプラーといえば!
石曽根:喪服と言えば親族代表、みたいなそんな感じで(笑)。
石 井:(笑)サンプラーっていうのは、そんなに浸透してないですかね。
石曽根:自分達のジャンルっていうか、自分達の芝居を一言で説明するような言葉ってありますか?
石 井:観た人がいってくれて、どんどん勝手に言われるんだったらいいですけど、自分からいうのは無いですね、言葉としては。
石曽根:コントだと違う?
石 井:いや、やっぱり演劇っていうカテゴリーにはいたいんですよ。
石曽根:その、「お笑い」っていうジャンルではない。そこはあくまで演劇?
石 井:そこは演劇のカテゴリーにいたいですね。「お笑い」ではないですね。
石曽根:何かあったら呼んでください(笑)。いやまあ、あの……、出れるものには出たいんですけど(笑)。
石 井:じゃあ出てください(笑)。今日ちょっと、やってもらえばよかったですかね。「じゃあ石曽根さん、やってください」って。
■石曽根さんから出演者への質問
■ 石曽根:僕は「笑い=ズレ」だと考えています。そこで、あなたにとっての「ズレ」とは何ですか?
石本真一朗:むつかしいですよね、そのへんは。 遠藤友美賀:女の子だったら、「ズレてるよね」は褒め言葉ですよね。
カオスティックコスモス:仕事とかミスすると、ズレてると感じますよね。
鈴真紀史:お客さんの裏をかく。
露口健介:どこにでもあるんだけど、気づきづらいようなもの。
中澤功:演出の言う通りやらない事
成川了右:わかりません
芳賀晶:勢い。
宮本彩香:素のままでいること。
森啓一郎:俺はズレない
八尾ホップ:座右の銘です。
山下純:日常への批評性。
石井進:ズレ=ズルイ。
・・・探り探りだ。
少し広めの稽古場。そこにきちっと並ぶ出演者の方々。
演出席には石井さん。その右手にはサンプラー。
稽古場に大勢で押しかけられるというのはいい感じのするものではない。
僕なら制作途中のものを見られるというのは少なくとも緊張する。
静かに淡々と進む稽古。口数少な目の石井さん。その右手にはサンプラー。
意識してか、少し硬い感のする出演者の面々。それに負けじと意識して
「笑ったら負け・・」とかいう勝手なルールを自分に課し、顔を硬直させる僕。
それを知ってか知らずか黙々と同じリズムで指を叩く石井さん。そしてサンプラー。
・・・笑っちゃった。
イメージしていたコント創りの現場とは違い、淡々とそしてどこか無機質な、朴訥と
した雰囲気がなおさら拍車をかける。止まらない。ニヤけた顔がもとに戻らない。
笑ったポイントが石井さんの意図と合致していたかどうかはわからないけど、明らか
に僕には突っ込みたくなる箇所がいくつもあった。出来ることなら突っ込みたかった。
そこには間違いなくルールがあり、そのルールが崩されたり守られたりすることによ
って生まれる非常に上品なズレ。それは時には音楽のようでもあり、演劇のようでも
ある。YMOのようでもあり、シティーボーイズのようでもあり。電気グルーブのよう
でもあり、ザ・スライドショーのようでもあり。そしてサンプラーがあり・・。
石井さんの分身といっても過言ではないサンプラー。
ラ・サンプラーメント YMボーイズ ビバ グルーブ ショー・・・。
「トップバッター」脳が揺れること間違いなしです。
石曽根有也(らくだ工務店)
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