次世代の若い表現者を発掘し、新しい表現の実験的な場を提供しようとするのが、このガーディアン・
ガーデン演劇フェスティバルのコンセプト。厳しいコンペティションを勝ち抜いて選ばれた三団体が、果たして本番でどのような作品を創り出すのか?
そしてその稽古場の実態は? 今年も例年同様、前回出場団体の主宰者が、稽古場をこっそり覗き見。作品の裏側に秘める真実を赤裸々にレポートします。
第二週目は「マダム・ゴールド・デュオ」。稽古場に「APE」主宰の楠原竜也氏が潜入しました。
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レポーター:APE 楠原竜也さん
楠原:のぞき部屋をやろうと思ったのは、最初にどこからインスピレーションを得たんですか?
太田:まあ……、風俗。
楠原:やはり(笑)。
太田:風俗ののぞき部屋は、一度にたくさんの人が覗けるらしいんですけど……僕は行ったことが無いのでわからないんですが、僕らは一人の人の為だけにみんなで……。
楠原:はい。
太田:原宿の方に部屋がいくつもあるギャラリーがあって。
楠原:はい。
太田:その部屋で「のぞき部屋」みたいなことをやったのが始まりで。
楠原:それってデザインフェスタの?
太田:はい。
楠原:いつ頃ですか?
太田:2003年の……。
小林:7月ですね。
太田:思いついたのが一ヶ月前(笑)。
楠原:そのときは何作品くらいだったんですか?
太田:6作品。作家が……。 小林:5人ですね。
楠原:だいたい1人1作品って感じですね。一作品5分くらいですか?
小林:5分はないですね。一番短いのだと1分で終わりました。
楠原:今日、こうやって見てたじゃないですか(穴をのぞく仕草)。その時に映像ってこういうものなのかなって思ったんですけど、もしかしたら映画とかを前にやられていたんですか?
小林:やったことないですね。やったこと無いからやってみたいなと思ってるんですけど。
楠原:今日稽古見てて「(穴を)覗いてみたいな〜」ってすごく思って(笑)。
小林:言うの忘れていました。すみません! ホントすみません! 楠原(笑)でも「これは本番前に見ちゃいけないかな」って思いました。下にエリアがバミってありましたけど、あのサイズなんですよね。
小林:見切れが多いので、エリアが三角形なんですよ。だから最初に来た役者はびっくりしますよね。「これしかないの!」って(笑)
楠原:のぞき部屋っていうのは、壁で囲われてるんですよね?
小林:囲われてますね。
楠原:あのアングルでどう見られているかっていうのは、役者自身は確認できないんですか? ビデオで撮影すると違うものになるんですか?
小林:試してはいるんですけど……。本当は役者全員に見せてあげるのがいいと思うんですけどね。
楠原:応募ビデオを見せていただいたんですけど、ビデオでの見え方と実際での見え方は大体同じですか? 違いますか?
太田:違いますね。多分、あんまり面白くないと思うんですよ。
小林:絵的に違うし、多分「今、私の為にやってるんだ」っていう緊張感が面白いところだと思うんですよ。贅沢感っていうか。
太田:それから、すごくシリアスな芝居の隣で「ワー!」とかやってる同時進行が……。
楠原:遊園地にあるいろんなアトラクションみたいな感じですよね。もしくは、僕の田舎は埼玉なんですけど、秋の祭りの頃だったと思うんですけど、寺がありまして、寺の周りにいっぱい屋台とかが出たりして、その中に、奇人変人……超人の……、そういうのがあったんですけど(笑)。ちょっとそんなようなものに近い何か……、見世物系?
太田:見世物小屋。
楠原:でも高級な感じですよね。1人にやるから。ある意味、今、何でも安くなってるけど、その分高いものは高くなってるじゃないですか。だから贅沢なものといえば贅沢なものになり得るのかな、と。
太田:のぞき部屋にお金を入れると「チャリーン」っていい音がするんですよ。それで、その後、タイトルが書いてある札がポトって落ちてきて、役者が群がって「何だ何だ、次は何をやるんだ」ってなるんですよ。
楠原:それまでわからないんですか?
太田:わからないです。お金を入れて、お客さんが決めるんです。
楠原:その場で決めるんですか? じゃあ、役者はずっといくつもの芝居をスタンバイしてなきゃいけないんですか?
小林:だからひとつの作品を同じ部屋でやり続けると、同じ役者が毎回やらなくちゃならなくて、休憩もとれなくなっちゃうんですよ。でもかといって、作品が5本も6本もあると、「俺、出番がずーっと来ねーよ。つまんねーなー」って思う役者さんもいる訳で、どうやら3本がベストらしい(笑)。
太田:着替えをして、テーマ曲みたいなのを15秒くらい流して始まるんです。
小林:ジャンルがラブストーリーとかスポーツとか5ジャンルあって、各部屋ごとに3作品ずつあるんです。
楠原:今日のモデル風の彼がやっていたのはラブストーリーですか?
小林:太田さんの?
太田:あれはラブですね。
楠原:当日、スフィアメックスでどうなってるのかを見るのが楽しみですね。
楠原:あの、役者さんが40人出演するって聞いたんですけど、どういう人たちを集めてきたんですか?
太田:各自で……。
楠原:(笑)知ってる人とか?
小林:知ってる人もですけど、せっかくこういう公演ができるんだから、クオリティーは下げたくないなって思って、ギリギリまで粘って、本が出来てから役者を呼ぼうっていうことにしてたんですよ。「とりあえず人を集めればいいや」ってことはしませんでしたね。
楠原:そうなんですか(笑)。
小林:結局、穴から見える情報として与えられてるのがこの辺(上半身)だけなので、その人の顔だったり、人となりによるところがすごく大きいんです。クオリティ=人のクオリティみたいなのがあるかな。だからそこはいい加減にやっちゃいけないなと思ってますね。
楠原:作ってる最中に聞くのもなんですけど、次はこんなことをやりたいっていうのはありますか? のぞき部屋じゃなくてもいいんですけど。
小林:僕、普通に劇場でやりたい(笑)。普通に演劇やりたいっていうと、太田さんに「ふざけんなよ」っていわれるんですけど。
楠原:代表は……小林さんなんですよね。
小林:はい。
太田:一応「最終的に誰に責任があるの?」ってなったときに「じゃあ」って……。
楠原:じゃあって(笑)。
太田:じゃあって(笑)。
小林:もともと、呼ばれた身なのに(笑)。
楠原:太田さんはのぞき部屋以外で何かありますか?
太田:全然無いや、俺(笑)。
楠原:何か、次どんなことを考えてるのかなーと、ちょっと興味あったので。
小林:のぞき部屋を展開させていきたいですね。せっかく「原宿物語」っていってるんだから、原宿を制覇したいなーと。
楠原:色んな場所で出来るような気がしますよね。
楠原:チラシに書いてありますけど、いろんな団体の役者さんがいますね。
太田:そうですね……。
小林:素人で、ホントにすごいいい顔してる人とか、おじいちゃんとか、子供とか出したいんですけど。
太田:なかなか、今は手一杯になってます。例えばアイドルとか。……そこを覗かないと見れないアイドルとか。
楠原:(笑)希少価値のある。それでそのアイドルに人気が出たらいいですね(笑)。すごいなー、それ。何かそうやって、役者だけじゃなくて、アイドルもそうですし、おじいちゃんとか子供とか、いろいろ見てみたいと思いますね。
小林:いろんなところから覗けたらいいってことをよく言われるんですね。例えば2人で別の穴から覗きたいとか。
楠原:僕もそれは思いました。
太田:いや、覗いてみたら多分違う。1回、覗かせてみたんですけど、何か違うなって。
小林:前やったときに、仲良しの女の子2人組が半分半分で覗いたこともあったんですけど、最初はすごく楽しそうに見てたのに、後半、取り合いになって(笑)。
太田:結局あんまり面白くなかった。多分カメラ目線だから笑えるんだと思います。
小林:上が空いてるから外の人には音だけが聞こえるんですけど。
太田:見終わったときに並んでいる人から、「何! 何見たの!?」とか(笑)。
小林:実際「やってみたらいいんじゃない?」っていうことはあると思うんですけど、何て言うか、
ハードの面白いさってあると思うんですけど、例えば「ここでのぞき部屋やってるよ」っていったら「えっ!」って振り返る人がいるのはいるわけで、
目新しいものって、何ていうか衝撃はすごく強いんだと思います。でも、実際見てみたら「あーあ」っていう事が世の中には多いような気がして、
僕はせっかく最初に「えっ!」って思ってくれたんだったら、それをつなぎ止められる様なソフトを作ってきたいな、と。
太田:マンガを読んでるとき、自分だけニヤニヤしたりして。あの感覚がいいなーと。
小林:やっぱり1人で覗くからいいんだと思うんですよ。2人で覗くのはちょっと……。
楠原:僕は足だけのアングルが見たいって、最初にちょっと思ったんですけど。
太田:1回やりましたよ。
楠原:やりました?
小林:結局面白いものって、ソフトで生き残ってるものじゃないですか。プレイステーションが生き残って、セガサターンが去っていったり(笑)。だから、ハードをどんどん先に出していっちゃうと、結局、そればかり期待するようになっちゃうんだと思うんですよ。「今度はどんな見せ方してくれるの?」「今度はどんな?」って。中身を煮詰めていける方向に進んでいかない気がするんですよね。今回、作品数がすごく多くて、正直しんどいんですけど(笑)、これをやることによって、いろんな可能性も見せられるし。3分っていう枠で、すごくお手軽な感じがするとは思うんですけど、ソフトが良ければ3分でも、いろんな方向に行けるんだろうなと。だから……、そういう意味では、僕らは、腰をすえてこのプロジェクトをやらなくちゃいけないんじゃないかな、という気はします。あんまりいろいろなことをやり過ぎないで。
小林:覗き穴と部屋の中の関係って、こういう実生活で話してる人の距離なんですよ。だから「この人怒ってる」とか「あー、何も考えてないなー」とか、滅茶苦茶わかるんですよね。怖いですよ、役者としては。僕も出たことがあるからわかるけど。すぐそこに目があって、目が笑ってるか怒ってるか、すぐわかっちゃう。ものすごくシビアなお客さんの目線。つまんないときは……、いなくなっちゃったりとか(笑)。
楠原:覗いている途中でも、それはありなんですか?
太田:そうです。
小林:人によりますね。「見なくちゃいけない」って思っている人と、「テレビだ」って思ってる人と。
太田:例えば結構ハードな動きをする作品があって、それを見た子の友達が、「じゃあ、次ぎも同じことするのかなー」って、またオーダーして。その子の感想が「何かちょっと疲れてた」だって。
楠原:ははは(笑)。
太田:で、その次の子がまた同じ作品をオーダーして……。
小林:だんだん声がかすれてくんです(笑)。
楠原:それはライブならではですね。テレビじゃない(笑)。
楠原:お二人の演出の仕方は、全然違う感じですね(笑)。雰囲気がまったく違うのが面白いなって思って。
小林:あはは(笑)。 楠原:太田さんが「ここからでも聞こえないよ」っていうくらい小さな声でコミュニケーションしてたり、小林さんは、ちょっと緊張した感じが。
小林:僕ですか。
楠原:僕もそうだったけど、稽古場に見学の人が来ると。
小林:緊張しますよね。
楠原:それがあらわに出てました。
小林:あー……。
楠原:ちょっと強くいってる感じとか。
小林:やだなー。
楠原:「演出家です」っていう感じがあって、そういうのが面白いなと思って。
小林:気をつけます(笑)。
楠原:いえいえ。
小林:はーい。すみませーん。
楠原:いやいや(笑い)。そりゃ、あの距離でいたら、嫌ですよね。あんな距離でいたら。
小林:いや、目をなるべく合わさないようにしようと思って。「こっち側を見ちゃいけない」っていうので、硬くなったんでしょうね。
太田:演出家って普通、座ってやるじゃないですか。でも僕らはここ1〜2年くらい座ったことないんですよ(笑)。
八畳くらいのスペースに10人が稽古をしていた。その中に、一脚を立て、上にカメラのレンズ位の大きさのピンクの円柱を付け、のぞき込みながら演出をしている小林さんがいた。その姿は異様な雰囲気だった。これが例ののぞき穴のアングルか、と。私はその真横で見学させていただいた。どうやらこのスペースがワンボックスらしい。こんな間近で稽古を見たのは久しぶりで、汗やら唾やらがとんできてびっくり。この狭いスペースで踊りまくるってのもすごいエネルギーでおもしろいかも、とふと勝手に自分の仕事にも置き換えてみたり。
そうこうしているうちに次々作品がチェンジして稽古が行われい く。時折、稽古場のドアが開き、出演者らしき人が入ってくる。15人を超える人が出 たり入ったりしていた。そういえば40人くらいいるんだっけ、と思い出しつつ。そこはまるでトキワ荘ならぬ、昔ながらの集合住宅の共有スペース(居間)のようだった。住人が自由に出入りする場所、憩いの場。しかも皆、個性的でほのぼのした雰囲気で、テレビドラマというより漫画に出てきそうなキャラ立った人々。
話はまだまだ尽きないので‥。
本番、のぞき穴から見られる光景が今から楽しみです。
楠原竜也(APE)
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