冨士山アネット
上手にひと組の男女。男女が手をつなぐと、その手の部分に別の男が、粘度の高い液体を垂らす。そしてその握り合った手はビデオカメラに収められ、背景のスクリーンにリアルタイムで投射される。やがて下手後方で、言い争いをするひと組の男女。その声はスピーカーを通して発せられている。また舞台中央では、ひと組の男女のダンサーが踊りだす。3組の男女、背景の映像が、同時に進行していく。
- 沼野
- 今回、主宰の長谷川が来てないので、僕が質疑応答に出ることになりました。
- 坂口
- 映像なしで、やろうと思ったことはありませんか?
- 沼野
- はじめはなかったんです。長谷川的に趣向が深まって、テキストの、コミュニケーションのねっとりした感じを、手で深く伝えようということで、映像が出てきたんだと思います。
- 渡辺
- 台詞をしゃべってた人も、メンバーなんですか?
- 沼野
- 冨士山アネットは主宰者と衣裳の山下、二人のユニットです。あとはそのつど、彼が集めてきます。そのうち動ける人がいたり、ダンスの人もいたり。台詞をしゃべってた人は、よその役者さんです。
- ウニタ
- もとに何かテキストがあって、それをいろんな位相に分けて同時進行的に表現してるって捉え方でいいんですよね。ただ、見てるほうとしては、当然どこに神経を集中していいか、気が散ってしまう。それは見る人にまかせる、って戦略だと思うんですけど。最近の冨士山アネットはこういう手法をとってるんですか?
- 沼野
- そうですね、多面的に見せていく方法をとっています。本公演で1時間、2時間やる場合は、このまんま同時進行っていうよりは、体だけの部分もあるし、生中継だけの部分も、あったりしますね。
- 堤
- テキストがベースとのことですが、場面作りは、長谷川さんが全部構成や演出をしていくんですか? それとも、パフォーマーからもアイディアを出したり、エチュードをした中でピックアップしてまとめていったりとかは?
- 沼野
- テキストに対して役者が、エチュードとか自分から出てきたものを、長谷川との対話で作り上げていくって感じで。一方通行ではないですね。