company izuru

パーカッション、チェロの演奏に合わせて、女流能役者がたたずんでいる。パーカッションは、生音をサンプリングさせて、コンピュータでリアルタイムで加工されている。やがてチェロ奏者が退場し、しばらくパーカッションのソロが続き、女流能役者が、謡曲『融(とおる)』の謡と舞をはじめる。

結城
company izuruの演出家、結城です。今やったのは次回公演の試演です。ベケット作『クラップの最後のテープ』と、謡曲の『融(とおる)』、ともに過去の記憶を扱った二つの作品をモチーフにしました。「クラップ」っていう人間が人生の節々に、テープにいろいろ吹き込むんですね。過去の記憶に執着したせいで晩節を汚すっていう孤独な老人。『融』は、もともとは皇族出身の「融」という人が、清和源氏で臣下に下り、そして皇位継承争いになったときに、自分が天皇になれないと知って、無念のうちに死んでしまう。『融』は、華やかな演目なんですけど、そういう無念があったから化けて出たきたと思う。そういう意味で、二つのテーマの共通性を洗って今回出したんです。後ろにいる奏者二人は、男性の雄々しさを表す打楽器と、女性らしい旋律であるチェロ。チェロがいなくなった後、男性は打楽器を叩くのをやめて、PCでサンプリングされた音をいじってましたが、ここはクラップが自分の過去をテープに吹き込むイメージです。それをずーっと役者は聴いている。過去の記憶を聴いていて、やがて舞う。断片化された記憶の中で、無常の悲しさみたいなものを表現しました。
渡辺
能に興味を持たれたきっかけは?
結城
身体と声に強度と深度を持った役者って何かなって考えたとき、能楽しか頭に浮かばなかったんですね。男性の能役者と違って、女性の能楽はまだメソッドも確立されてないし、自分が開拓するジャンルなんじゃないかということで、女性能楽師の青木とやりたいと思いました。例えば、修羅もの(武将の亡者を主人公とする能)。面(おもて)を付けてない、女性の顔がそのまま出てきて、男の武将役をやったところで、観客に訴えかけるものはあるのか。ないと思うんですよ。なので、いま、女性能は世阿弥が出なきゃいけないと思うんです。自分の理論を、女性の身体を使って作りたいっていう(中略)。活動は2003年から始めて、4年目です。うちは僕と、能役者と、作曲家と、ドラマトゥルクのチームでやってるんで、分からないことがあったら議論できるってスタイルを取ってます。たぶん、今作ってるものは、自分で言うのもなんですけど、誰も見たことのない総合芸術だと思うんですよ。
ウニタ
今日の電子音楽の部分をされてた、安野太郎さん。スペクトル理論を使った音楽というのは、具体的にどういうもの?
安野
まず、シンバルの音をどんどんコンピュータに蓄積させます。シンバルとか金属の打楽器の音っていうのは、メロディがないほとんどノイズの成分で、シャーッていうホワイトノイズなんですね。その中から、最後の能の謡の声の波形 -音にはすべて波形があるんですけど- 声の形をちょっとずつ紡ぎ出していって。最後に、悪魔の声みたいなのが軽く聞こえてましたよね? そういうのを作っていました。
ものすごく一般的な感覚でいうと、「女性」・「男性」って関係なく思うんですよ。単に“お能”にしか見えない。むしろ、能楽そのものの伝統をどう未来に継承していくのかとか、表現の独自性をどう現代に再構築していくのかということを、考えるべきなのではないでしょうか。現代演劇として、世界演劇として、アピールすることが必要だと思うんです。たとえば、小劇場なのかコンテンポラリーダンスなのかはわからないけれども、そういう既存のカテゴリーの中で、どうアピールしていきたいんでしょうか。
結城
どの文脈にも属してません。なので、ここに来ました。例えば僕らがコンテンポラリーダンスのフェスに出たいって言っても、「コンポラじゃないから」、演劇のフェスでは「演劇じゃないから」って断られる。劇場を借りるときにも、その劇場の色があるんで、海外なんかとくにそう。けっきょく自分たちでやるしかないので、セルフプロデュース公演なんです。
渡辺
でも、能の新作だって捉えてもいいですよね。「女性は武将の役はできない」と言うけど、面を取った女がきちっとできる新作を作れば、いいんだから。
結城
新作能ではないんです。新作能って思われるちゃうと、マズいな。たぶんそれは、われわれがやることじゃないと思うんですよ。女性能楽師っていうのは、能楽界の中でも何人かいらっしゃって、その方たちが自分のメソッドを能楽の文脈で解釈して、発展させていけばいいと思ってるんですね。われわれはその文脈で勝負しようとはまったく思ってなくて、女性の能楽師の身体と声を使って、何か新しいことはできないかっていうのが、company izuruの試みなんです。
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