2014年2月に開催した「光るグラフィック展」は、紙からデジタルへと、作品を鑑賞するメディアが変わりつつある中で、15組のグラフィックデザイナー、デジタルクリエイターの作品を同じサイズの光るモニターで展示し、クリエイターの多様な表現やアプローチをご紹介しました。
今回の「光るグラフィック展2」では、ギャラリー内を、実空間(フィジカル)と3D空間(デジタル・バーチャル)で構成し、両方の空間で同じ作家の作品を鑑賞いただく体験をする展覧会です。
実空間では、ポスター、絵画、写真、映像などの作品を展示し、3D空間では、空間も作品もデジタル化された(発光している)状態でご覧いただきます。
デジタル技術の進化やインターネット環境の変化により、現実と仮想の境界がなくなってゆく中で、「オリジナル」の所在はどこにあるのか、現実空間と仮想空間のそれぞれに置かれたとき、グラフィックはどのように存在するか、体験していただく展覧会にしたいと考えております。
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企画にあたって
2014年に「光るグラフィック展」という展覧会を開催しました。この展示ではグラフィックデザイナーとデジタルクリエイターにモニターまたはライトボックスを使って同じサイズ、発光しているという共通フォーマットで作品を制作してもらい、区別なく展示するというものでした。
「光るグラフィック展2」は、実空間と仮想空間にフォーカスした展示を考えています。展示構成は、ギャラリー内に我々がセレクトまたは制作依頼をしたポスター、絵画、写真、映像などの作品を展示します。全く同じ展示空間を3D空間上にも作り、実空間と3D空間の両方で同じ作品を鑑賞してもらいます。3D空間の鑑賞システムは、作家の谷口暁彦さんに協力していただきます。
近年、現実とネットの境界は更に希薄になり、その主従関係も曖昧になりました。それに伴い、作品のオリジナルの考え方も作家ごとに設定されるようになり、必ずしも実空間に存在するものをオリジナルとはしない作品も増えてきました。多様であることは良いことですが、異なったフォーマットを同等に評価することの難しさも手伝って、互いの関係性が希薄になりはじめているように思います。
私のようなデジタルメディアを中心として扱う者にとって、グラフィックデザインの関心は視覚表現にあり、それを支えるシステムや構造にクリエイションがあるようなデジタル作品を評価することは、難しいと考えていました。しかし対話を通じて感じたことは、表現の問題設定の高度さであったり、視覚情報から様々なことを読み取る能力など、自分の未熟さを知る機会になりました。
その学びから直感することは、それぞれのジャンルが設定した評価軸で表現を進化させていっても、多様なクリエイションは生まれないということです。それは、ポスター、デジタルサイネージ、ウェブなど表示されるメディアの特性を考慮しながら緻密に設計された作品も、一つのビジュアルが持つインパクトが様々なメディアを軽々と通貫してしまうような作品も、両方が同時に存在している状態が理想的な多様だと考えるからです。
田中良治(Semitransparent Design)
参加作家
藍嘉比沙耶
exonemo
大島智子
葛西薫
亀倉雄策
カワイハルナ
北川一成
groovisions
小山泰介
佐藤晃一
Joe Hamilton
鈴木哲生
谷口暁彦
永井一正
永田康祐
Nejc Prah
長谷川踏太
原田郁
UCNV
プロフィール
藍嘉比沙耶 Saya Aokabi
1997年静岡県生まれ。東京造形大学 美術学科絵画専攻 在学。自身の原風景を元に、平面の制作を行なう。主なグループ展に2018年『DEPTH OF FLATNESS』THE blank GALLERY。『RED HOUSE』TALION GALLERY。『ソラリスの酒場』the CAVE。2017年 『シュトゥルムシュトゥルム「全滅する」』ゲンロン カオスラウンジ五反田アトリエなど。
エキソニモ exonemo
千房けん輔と赤岩やえによるアートユニット。1996年にインターネット上で活動を開始。2000年から実空間でのインスタレーションやパフォーマンス、イベントオーガナイズ等へ活動を広げる。2006年、世界的なメディアアート・フェスティバルであるアルス・エレクトロニカのネット・ヴィジョン部門でゴールデン・ニカ賞(大賞)を受賞。2012年には10数名のメンバーと共にIDPW(アイパス)を組織し、「インターネットヤミ市」をはじめとするイベントを国内外で開催。2015年からはニューヨークを拠点に活動中。http://exonemo.com/
大島智子 Tomoko Oshima
イラストレーター、映像作家。2010年からイラストを元にしたGIFアニメをTumblr上に公開し始める。主なアートワークに、泉まくらのMVやCDジャケットなど。著書に『Less than A4』『セッちゃん』がある。http://tomoko-oshima.com/
葛西薫 Kaoru Kasai
アートディレクター。1949年札幌市生まれ。1973年(株)サン・アド入社。主な仕事に、サントリーウーロン茶中国シリーズ、ユナイテッドアローズ、虎屋の広告制作およびアートディレクションのほか、サントリーのCI、六本木商店街ネオンサイン、映画・演劇の宣伝制作、パッケージデザイン、装丁など活動は多岐にわたる。近作に「TORAYA CAFÉ・AN STAND」のCI・パッケージデザイン、『クレーの日記』(みすず書房、2018)の装丁などがある。
亀倉雄策 Yusaku Kamekura
グラフィックデザイナー。1915年生まれ。1938年日本工房に入社、1951年日宣美設立に参画。1960年日本デザインセンター設立に参画、1962年亀倉デザイン研究所を設立。朝日賞、毎日芸術賞、紫綬褒章受章、文化功労者、ニューヨークADC「Hall of Fame」、ワルシャワ美術アカデミー名誉博士号ほか。1997年急性肺炎のため永眠。代表作に、東京オリンピック、大阪万博のポスターや、グッドデザイン、NTT、ニコンのシンボルマーク・ロゴタイプがある。
カワイハルナ Haruna Kawai
アーティスト。現実的な物を絵の中で飛躍させた独自の立体物をアニメのセル画と同じ技法で描いている。物体がどのような状態で構成されているかに興味がある。
北川一成 Issay Kitagawa
GRAPH代表。1965年兵庫県加西市出身。 1987年筑波大学卒業。AGI(国際グラフィック連盟)会員。NY ADC、D&AD Awardsの審査員を務める。ADC賞、TDC賞、JAGDA新人賞など受賞多数。2016年、ネーミング、ブランディングを担当した「変なホテル」が「初めてロボットがスタッフとして働いたホテル」としてギネス世界記録に認定される。
グルーヴィジョンズ groovisions
東京のデザインスタジオ。1993年より京都で活動開始。PIZZICATO FIVEのステージビジュアルを手がけ、注目を集める。1997年、東京に拠点を移設。以降、グラフィックやモーション・グラフィックを中心に様々な領域のデザインを手がける。1994年にキャラクター、chappieを開発、そのマネージメントも行っている。http://groovisions.com/
小山泰介 Taisuke Koyama
写真家。1978年生まれ。生物学や自然環境について学んだ経験を背景に、科学的視点と実験的な制作方法を用いてポスト・デジタル時代におけるイメージメイキングの可能性を探究した作品を制作している。反覆的なアルゴリズムによって変換されたイメージの多様性と流動性は、写真の歴史を更新し現代社会に多様な視点をもたらすことを目的とした小山の実践の根底にあるテーマであり、写真に対する実験的なアプローチの重要な要素となっている。 http://www.tiskkym.com/
佐藤晃一 Koichi Sato
グラフィックデザイナー。1944年群馬県高崎市生まれ。東京芸術大学美術学部工芸科ビジュアルデザイン専攻卒業。資生堂宣伝部を経て、1971年に独立。1985年東京ADC最高賞、1991年毎日デザイン賞、1998年芸術選奨文部大臣新人賞受賞。ニューヨーク近代美術館(MoMA)ポスターコンペ一席(1988年)をはじめ、多数の国際ポスターコンペで受賞。2016年5月逝去。作品は国内外の多数の美術館、多摩美術大学に所蔵されている。
ジョー・ハミルトン Joe Hamilton
テクノロジーと身の回りの素材を生かして映像、彫刻、紙媒体やデジタルメディアに複雑な構図を生み出すアーティスト。映像文化、インフラ、建築、地政学など、テクノロジーが我々の景観体験に与える影響に関する作品を生み出す。世界中の美術館やギャラリーで作品を展示中。http://www.joehamilton.info/
鈴木哲生 Tézzo Suzuki
グラフィック・デザイナー。1989年神奈川県生まれ。2013年東京芸術大学美術学部デザイン科卒業後、隈研吾建築都市設計事務所勤務を経て、2015年オランダKABK デン・ハーグ王立美術アカデミータイプメディア修士課程を修了。 www.tezzosuzuki.com
谷口暁彦 Akihiko Taniguchi
メディア・アーティスト。多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース講師。メディア・アート、ネット・アート、映像、彫刻など、さまざまな形態で作品を発表している。主な展覧会に「[インターネット アート これから]——ポスト・インターネットのリアリティ」(ICC、2012)、「SeMA Biennale Mediacity Seoul 2016」(ソウル市立美術館、2016)、個展に「滲み出る板」(GALLERY MIDORI。SO、東京、2015)、「超・いま・ここ」(CALM & PUNK GALLERY、東京、2017)など。https://okikata.org/
永井一正 Kazumasa Nagai
グラフィックデザイナー。1960年日本デザインセンター創立とともに参加、現在最高顧問。JAGDA特別顧問。東京ADC会員。AGI会員。日宣美会員賞、亀倉雄策賞、勝見勝賞、日本宣伝賞山名賞、毎日デザイン賞、東京ADC会員最高賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、毎日芸術賞、通商産業大臣デザイン功労者表彰、東京ADCグランプリ、勲四等旭日小綬章受章など。ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ金賞他、ブルノ、モスクワ、ヘルシンキ、ザグレブ、ウクライナ、ホンコンにてグランプリを受賞。
永田康祐 Kosuke Nagata
1990年愛知生まれ。東京芸術大学映像研究科博士後期課程在籍。写真制作に用いられる画像処理ソフトウェアや、展示空間において映像再生装置として用いられるコンピュータ及びモニター、展示の鑑賞を補助するためのキャプションやオーディオガイドといった、作品や展示を成立させるために用いられるがそれ自体は周縁的なものとされる技術的・制度的仕組みに着目し、それらと作品の関係を操作したり組み替えたりするような制作を行う。主な展示に、『オープン・スペース2018:イン・トランジション』(2018, ICC)、『第10回恵比寿映像祭:インヴィジブル』(2018, 東京都写真美術館)など。
ネイツ・プラー Nejc Prah
ニューヨーク在住のスロベニア人デザイナー。イェール大学にて美術学修士号を取得し、ブルームバーグビジネスウィークに勤務中。Ansambelのメンバー。https://nejcprah.com/
長谷川踏太 Tota Hasegawa
1972年東京生まれ。1997年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)修士課程修了。その後、ソニー株式会社デザインセンター、ソニーCSLインタラクションラボ勤務などを経て、2000年ロンドンに本拠を置くクリエイティブ集団tomatoに所属。インタラクティブ広告から創作落語まで、そのアウトプットは多岐にわたる。2011年よりワイデン+ケネディ トウキョウのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターに就任。
原田郁 Iku Harada
1982年山形県生まれ。2007年東京造形大学大学院美術専攻領域絵画科修了。2009年より発表を始める。コンピューターの中に家やオブジェのある架空の世界をつくり、そこで疑似体験した風景を絵画として描き続けている。近年の個展に2018年「NEW DIMENSIONS」ART FRONT GALLRY(東京)、「記憶の断片を地図へと置き換えて」地域の文化と本のあるお店 museum shop T(東京)他。https://www.ikuharada.com/
UCNV
プログラマー・アーティスト。コンピュータ上で画像や映像を破損させるプログラムを開発、それらを用いて作品を制作する。https://ucnv.org/