木村裕治は、武蔵野美術大学造形学部を卒業後、森啓デザイン研究室、10年間在籍した江島デザイン事務所を経て、1982年木村デザイン事務所を設立。アートディレクターとして創刊号から参加した『Esquire日本版』をはじめ、『翼の王国』、『ミセス』、『ハイファッション』、『和樂』、『暮しの手帖』、『朝日新聞GLOBE』といった、数々の雑誌を中心に、書籍、新聞など、日本のエディトリアルデザインを牽引してきました。
明快な構成、写真やイラストレーションを引き立てるレイアウト、効果的な余白。強さと繊細さを併せ持つ木村の美しい誌面づくりのスタイルは、年月を経ても古びることなく、手に取るたび、ページをめくるたびに、みずみずしい洗練を感じさせます。
フランスの画家ジャン=フランソワ・ミレーによって描かれた油彩作品「落穂拾い」。木村は、仕事をするなかで、また日々の生活のなかで、いつのまにか自身が収集してきたものを「落穂」と呼びます。しらずしらずのうちに木村の目や心に留まり、選ばれ、運び込まれた「落穂」の数々。今回の展覧会では、木村のキャリアと共に長い年月にわたり集められ、そこここに無作為にこぼれ落ちている「落穂」たちを、もう一度拾い上げ、検証してみようと試みます。その「落穂」は、今までの木村の仕事を形作る上でどのような影響を与えてきたのか。この果てしない木村の「落穂拾い」との格闘は、どのような景色をわたしたちに見せてくれるのか。木村デザイン事務所設立から約40年。木村にとって日本での初めての個展となります。どうぞご期待ください。
落穂だらけ。
なにか、
たとえば仕事をしていて、いつの間にか
足元に、気付かないまま。
いつから溜ったんだろう。
そう、ずっと前から。
ポケットの中、引き出しの中、袋の中、
函の中、本のページにはさまれて、だから、
まわりは落穂だらけ。
いつか、旅先から戻ったなら、窓を開け
少しでも風を通し、
光をあてよう。
仕事をしているときは、前ばかり見てきた。
気がつけば足元には落穂の山。たとえば、
散歩をすれば葉っぱを拾って持ち帰り、
大きな本に挟む。挟んだままそれを忘れる。それを
「落穂」と呼んでいる。
個展をするに、仕事は一旦終わったもの。
そのままを展示するな、という声が聞こえてくる。
それは2010年シンガポールJCCでの個展でも、
シール状のプリントを壁に直貼りし、フェイクと称
してオリジナルは展示しなかった。
仕事は落穂と一緒になる。一緒になって生き返る。
木村裕治
■出版情報
展覧会に関連する書籍が出版されます。
木村裕治『落穂を拾う』
発行=リトルモア
展覧会場にて発売
価格等、詳細が決まり次第、ギャラリーWEBサイトにてご案内いたします。