ミロコマチコは、2012年に絵本作家として『オオカミがとぶひ』でデビュー以降、国内外の数々の賞を受賞しています。また画家としても、キャンバスをはみ出しそうなダイナミックな筆致で、生命力溢れる生物や植物の本質を捉え描いた作品は高く評価されています。絵を通した対話から多岐に渡る活動を展開し、雑誌や書籍の挿画、企業広告、アートディレクション、山形ビエンナーレ2016、2018でのインスタレーション作品の発表など注目を集め続けています。
2019年に東京から奄美大島へと拠点を移し、手付かずの自然が残された島での生活からインスピレーションを得て、島に伝わる伝統的な染色を用いて土地の植物や水によってキャンバスを染め、島の自然の一部を絵に取り入れ始めました。絵の制作過程にこそ生み出す力や創造性があることに気づいたミロコマチコは、染色技法で取り込むだけでなく、完成に至るまでの積み重ねた時間や環境、それらを構成する身につけていた衣服や身の回りのものも絵に貼り重ねています。そうして制作された作品群は、自然環境の一部である人間の在り方を問いかけているようです。本展では、新作だけでなく、素材から作品が生み出されるまでの過程のインスタレーションや、島の森の中での制作風景映像も収録して展示します。また、ギャラリー空間を立体的に使い、音楽家とともに即興でのライブペインティングも予定しています。新たな試みをどうぞご高覧ください。
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ある時、絵はわたしにとって、おまもりのようなおまじないのような存在だと気付いた。絵を描いている時間だけが、とても心強く、勇気があって、捉われることなく突き進むことができる。特に音楽家とともに行われるライブペインティングでは、心の奥底から湧き上がってくる、静かだが凄まじいエネルギーが放出されるのを感じる。
完成した絵そのものだけではなく、ライブ中に身につけていた衣、キャンバスとなっていた紙やビニール、敷いていた布など、その場を一緒に過ごしたものにも、そのときの絵の具や水の滴が空気や勢いを纏っていて、力が宿っているように感じられた。そしてそれらをまた絵に取り込むことで、大きな力をくれた。
そんな時期、私は南の島へ移り住んだ。あまりの光の強さに、目の前が白く飛んでいき、植物と砂浜と海との境目がわからなくなった。また森の深い色の濃淡に、奥の奥まで見えるような感覚に陥る。そして島に昔からある染色に出会う。その土地で生まれた植物や水で、キャンバスとなる布やあるいは絵そのものを染めることで、島で感じる色や空気を絵に込めることができた。
次第に絵になるための布や衣を身につけるようにもなっていく。直接身につけるものは、動きを受け止め、しなやかに変形し、出来上がった絵には残っていない痕跡も、写し出す。
ペインティングを共に過ごした布や、解体した衣を染めて、キャンバスに張り、破かれた紙やビニールがコラージュされる。その絵を描くときに下に敷く布や衣はまた、その場の時や空気を纏う。そしてまた絵になっていく。
“生み出す”ことと、ずっといきものを描くことにこだわってきたその根源である“海”と、まとわりつき、絡まること、を意味する“纏う”を組み合わせて「うみまとう」。そこには、それぞれが導かれるように交り合う表現者たちがいる。
わたしの制作する世界の中に「うみまとう」が絡まり渦を巻いていく。ライブペインティング、島の森での制作の映像、仕立てていく衣や染色の過程、生まれてくる素材、完成した絵など、今展覧会ではその一端を展示したい。
ミロコマチコ
写真:在本彌生(フォトグラファー)
染色:金井志人(金井工芸)
衣、布:大脇千加子(WONDER FULL LIFE)
音:曽我大穂(音楽家・「仕立て屋のサーカス」総合演出家)
映像:三井竜太(ヱビス製作室)