第18回亀倉雄策賞受賞記念
1997年に急逝したグラフィックデザイナー亀倉雄策の生前の業績をたたえ、グラフィックデザイン界の発展に寄与することを目的として、1999年、亀倉雄策賞が設立されました。この賞の運営と選考は公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)が行い、毎年、年鑑『Graphic Design in Japan』出品作品の中から、最も優れた作品とその制作者に対して贈られます。
第18回は、三木健氏の個展の告知ポスター「APPLE+」に決定しました。三木氏は、1982年三木健デザイン事務所を設立。大阪を拠点に、世界グラフィックデザイン会議のコングレスキットや、日本アイ・ビー・エム ThinkPadプロモーション、ベルメゾン、京急百貨店のシンボルマークなど、ブランディングや広告をはじめ、パッケージ、エディトリアル、空間デザインまで、デザイン領域を横断的に捉え、多様なジャンルで活躍しています。また、大阪芸術大学で教鞭をとり、デザインの教育にも力を注いでいます。
今回の受賞作品は、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された個展の告知ポスター「APPLE+」。この展覧会は、「りんご」という世界中で誰もが知る果物を通して、デザインの楽しさや奥深さに気づくという、デザインを初めて学ぶ人のために三木氏が組み立てた教育メソッドを紹介するものでした。選考会では、ポスターそのものの堂々たるデザインと共に、その背景にある三木氏のデザイン教育に対するユニークなアプローチが評価されました。この受賞を記念して個展を開催いたします。
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受賞のことば
1964年東京オリンピックの記憶は鮮明に残っている。小学4年生の時だ。日の丸と金の五輪のエンブレム、陸上と水泳のポスター。それらが三面に配置された旧東海銀行の三角柱の貯金箱が僕の机にずっとあった。しかし、当時は亀倉雄策の名を知る由もなかった。その後デザインを志しその存在を知るのだが、初めて本人に出会った日を忘れることはない。1994年、クリエイションギャラリーG8での僕の個展開催日だった。当時、G8のあるリクルートビルの2階に亀倉デザイン研究室があり挨拶に出かけた。丁度、東京国際フォーラムのシンボルマーク指名コンペに参加していた僕は、発表を首を長くして待っていた。開口一番「君の東京国際フォーラムのシンボルマークは最終選考で選ばれなかった。シンボルは難しいな」。僕にとっての『デザインの神』のような存在からの言葉だ。「君のシンボルは、君が展開することを目論んでいる。シンボルは打たれ強くなければならない。特に公共のシンボルは難しい。誰が展開しようが、少々斜めに配置をされてもビクともしない強さがいる。何より理念が明快に表現されている。それがシンボルなんだ」。この言葉がいまだ脳裏から離れない。
あれからずいぶんの年月が経った。まさか、亀倉雄策賞の知らせが僕に届くとは夢にも思わなかった。今回の受賞は『APPLE+』の展覧会の告知ポスターが対象だが、その背景には『APPLE』というデザイン教育プログラムがある。これは、誰もが知っている『りんご』を通してデザインの楽しさや奥深さに気づいてもらうという構造だ。身体性を生かした観察手法や、自然界に潜む色の抽出、また、不自由さの中で見つけ出す物の真意や、偶然の幸運に出会う発想法など、ユニークな実習を通して『気づき』に気づき、最終的にはそれらすべてのプロセスが記録された教科書へと仕上がる。このように社会課題の一つである『教育』をテーマにしたデザインに評価をいただきとても嬉しく思う。このプロジェクトでは、ポスターにおける錯視を心理学者で立命館大学の北岡明佳教授に監修をいただき、その他、多くの専門家に協力を得た。ポスター、空間、インタラクティブ、映像、音楽、立体造形、書籍などあらゆるメディアを駆使して「デザインとは何か」を問い続けた。そして、その問いに真剣に悩み答えを模索した学生達。ここにみんなの力が結集してこの度の受賞へと繋がったと思う。多くのみなさんにこの場を借りて感謝したい。
三木健
主催
クリエイションギャラリーG8
共催
公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会 亀倉雄策賞事務局
協賛
株式会社プロテク 平和紙業株式会社
協力
株式会社インターオフィス 株式会社中川ケミカル
後援
大阪芸術大学
亀倉雄策賞について
1997年に急逝した亀倉雄策の生前の業績をたたえ、グラフィックデザイン界の発展に寄与することを目的として遺族の寄付により設立された亀倉雄策賞。亀倉が設立から長く会長を務めた公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)に運営を一任し、毎年国内賞「亀倉雄策賞」を、さらに3年に一度「亀倉雄策国際賞」を授与する。「亀倉雄策賞」は『Graphic Design in Japan』応募作品の中から、最も優れた作品とその制作者を、「亀倉雄策国際賞」は富山県立近代美術館で開催される「世界ポスタートリエンナーレトヤマ」の応募作品の中から、国際性と普遍性の高い、優れた作品とその制作者を表彰するもの。「いつになっても東京オリンピックの亀倉と呼ばれること」を嫌い、亡くなる直前まで「今」の仕事で若い世代と競い、グラフィックデザイン誌『クリエイション』の編集を通じて、グラフィックデザインの芸術性、本質を追求した亀倉の遺志を尊重し、普遍性と革新性をもったグラフィックデザインを顕彰していく。賞金はいずれも50万円。賞状は佐藤卓によるデザイン。
これまでの亀倉雄策賞受賞者
第1回 田中一光/第2回 永井一正/第3回 原 研哉/第4回 佐藤可士和/第5回 仲條正義/第6回 服部一成/第7回 勝井三雄/第8回 受賞者なし/第9回 松永 真/第10回 佐藤 卓/第11回 植原亮輔/第12回 浅葉克己/第13回 受賞者なし/第14回 澁谷克彦/第15回 平野敬子/第16回 葛西 薫/第17回 佐野研二郎 ※全て敬称略
授賞式
2016年6月25日(土)京都にて実施予定〈2016年度JAGDA通常総会会場〉
作品掲載
年鑑『Graphic Design in Japan 2016』(2016年6月発行予定/六耀社刊/予価16,200円)