日本のグラフィックデザインは明治以降の近代化および戦後の経済成長を経て大きく発展を遂げてきました。戦前のモダニズム、戦後復興と高度経済成長、情報社会の到来といった動向を通じて日本のグラフィックデザイナーは社会のなかに「デザイン」という領域を確立し、高い品質と独自の美学によって産業や文化の発展に寄与してきました。
しかし、20世紀末からの本格的なグローバル時代の到来とともに、世界のデザイン潮流は大きく変化しつつあります。デジタルツールが専門家だけの領域であったデザインの実践を広く人々に解放し、また経済的な「先進国」が特権的に享受していたデザインの方法や素材は誰にでも、どこからでもアクセスできるものとなりました。
このような変化のなかで日本のグラフィックデザインは、今後どのような方向に向かうのでしょうか。あるいはどのような可能性へと開かれているのでしょうか。
この問題について考えるためには、歴史への意識が不可欠です。日本のグラフィックデザイン文化は、20世紀を通じて西洋のデザイン文化とは異なる独自の美学や方法を発展させてきました。21世紀を迎えた現在、その歩みは豊かな歴史的源泉となっています。
そこで本展は1953年から半世紀以上にわたって国内外のグラフィックデザインの最前線を追いかけてきた雑誌『アイデア』(誠文堂新光社)を手がかりに、現代グラフィックの第一線で活躍するデザイナーたちがそれぞれの視点から20世紀日本のグラフィックデザイン史を概観、注目されるべきと考える作品や人物、出来事を提示するものです。
また会場には『アイデア』の総バックナンバーをはじめ、47組のデザイナーたちが幅広い年代から選書したデザイン関連書ライブラリを併設。貴重な書物を実際に手に取ることで、これからのデザインを考えるための視点を探ることができます。
日本の20世紀デザインを単なる回顧から批評的な解釈へと開いていく新しい試みとなります。ここで取り上げるもうひとつのデザイン史を通して、現代、そして未来のグラフィックデザインを共に考える場になればと考えています。
Room A:これまでのグラフィックデザインから考える13の断章
デザイン史をどう記述するかにはさまざまな議論がある。これまでのところ20世紀初頭のモダニズム芸術運動や戦後経済成長のなかで活動してきた主導的デザイナーの実践やそのコミュニティの活動、オリンピックや万博のような社会的イベントのデザイン事例によって構成される言説が、ひとつの「歴史」としてメディアのなかで再生産され、共有されてきた。これらの歴史はより広い地理的、時間的、政治的射程のなかで相対化され再解釈される、ひとつの歴史的リソースとして私たちに開かれてゆくはずだ。本コーナーでは気鋭のグラフィックデザイナー13人がそれぞれの実践的視点から20世紀日本のデザイン史を新たなコンテクストへと接続する、そのリサーチプロセスを進行形で公開する。
参加デザイナー
大西隆介、大原大次郎、加藤賢策、川名潤、菊地敦己、髙田唯、田中義久、田中良治、千原航、
長嶋りかこ、中野豪雄、橋詰宗、前田晃伸
Room B:『アイデア』全アーカイブズ
『アイデア】(誠文堂新光社)は1953(昭和28)年、戦前に刊行されていた広告関連では唯一の全国誌『廣告界』(1926-1941)を継承して創刊された。創刊編集長は『廣告界』の休刊時の編集長であった宮山峻(みややま・たかし)、アートディレクターは大智浩(おおちひろし)、ロゴデザインは亀倉雄策による。同誌は創刊以来60年以上にわたって、歴代の編集長のもと、同時代の海外および日本のグラフィックデザインの状況を紹介し続けてきた(2014年からは季刊)。本ルームではこれまでの全バックナンバーの合本を閲覧用に公開する。
参加作家(インスタレーション)
Gottingham
RoomC:来たるべきグラフィックデザインのための図書室
近代という大きな転換のなかで生み出されたデザインという領域は、その後の産業的な発展のなかで当初の理念性や運動性を失い、方法の体系としてデータベース化されていった。グローバル化や技術革新がもたらす従来の職能領域や価値の枠組みの変化のなか、これまでの「方法としてのグラフィックデザイン」はコンピューティングの世界に回収されてしまうようにもみえる。このなかで「グラフィックデザイン」どのようにアップデートされうるのか。それはどのようにして人間の問題として捉え直せるのか。本コーナーでは独自の活動で注目される47組のデザイナーに、各自の視点からその手がかりと考える書物5点の選出を依頼。そのうちの1冊を閲覧用として集めた全47点の書物を展示公開する。
参加デザイナー
阿部宏史、有馬トモユキ、飯田将平、色部義昭、上西祐理、岡澤理奈、岡本健、小熊千佳子、
尾中俊介、尾原史和、加瀬透、刈谷悠三、川村格夫、木村稔将、木村浩康、熊谷彰博、
後藤哲也、近藤聡、佐々木俊、佐藤亜沙美、庄野祐輔、新保慶太・新保美沙子(smbetsmb)、
鈴木哲生、須山悠里、惣田紗希、染谷洋平、髙木毬子、田中千絵、田中雄一郎、田部井美奈、
近田火日輝、戸塚泰雄、長田年伸、仲村健太郎、ニコール・シュミット、原田祐馬、樋口歩、
藤田裕美、牧寿次郎、三澤遥、水戸部功、村上雅士、安田昂弘、山田和寛、山野英之、
山本晃士ロバート、米山菜津子
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1976年埼玉県生まれ。法学部を経て、多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。2009年、direction Q開始。ブランドイメージの設計から運用に至るまでのトータルディレクションを手がける一方、文化・芸術関連の支援や人間の創造力に迫るプロジェクト「iruinai(イルイナイ)」としての活動も行う。長岡造形大学、ミームデザイン学校講師。
1975年埼玉県生まれ。株式会社ラボラトリーズ代表。グラフィックデザイン、ブックデザイン、WEBデザイン、サインデザインなどを手がける。おもな領域はアートや建築、思想、ファッションなど。
1976年千葉県生まれ。プリグラフィックスを経て2017年川名潤装丁事務所設立。多数の書籍装丁、雑誌のエディトリアル・デザインを手がける。
1971年東京都生まれ。1996年多摩美術大学美術学部二部デザイン学科卒。在学中の1995年より(株)立花ハジメデザイン勤務。1998年独立。2003年「BICHA-BICHA EXHIBITION」(GAS SHOP)。2005年朗文堂タイポグラフィスクール「新宿私塾」第六期修了。2007-17年多摩美術大学造形表現学部非常勤講師として「妄想」(演習)、「現実」(ゼミ)担当。グラフィックデザインを軸にメディアや手法を問わず幅広く活動中。
1977年東京都生まれ。武蔵野美術大学卒業。勝井デザイン事務所を経て、中野デザイン事務所代表。情報の構造化と文脈の可視化を主題に、様々な領域でグラフィックデザインの可能性を探る。日本タイポグラフィ年鑑グランプリ、造本装幀コンクール経済産業大臣賞等受賞。ラハティ国際ポスタービエンナーレ、モスクワ国際グラフィックデザインビエンナーレ等入選。国際タイポグラフィ・ビエンナーレ「タイポジャンチ・ソウル2011」に招待作家として出展。
1978年広島県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)コミュニケーションアート&デザイン修士課程修了。女子美術大学デザイン・工芸学科ヴィジュアルデザイン専攻非常勤講師。多領域のアートディレクション・グラフィックデザインを手がける一方、着目点と実践をテーマにした展覧会やワークショップの企画、教育プログラムの開発などを行う。
1976年愛知県生まれ。デザインチーム「ILLDOZER」に参加。 解散後、アートディレクター/グラフィックデザイナーとして広告やカタログ、パッケージなどを中心に幅広く活動する。現在は『TOO MUCH MAGAZNE』や『POPEYE』のアートディレクターを務める。
出版情報
本展の内容は2018年6月発売の『アイデア』No.382に特集される予定です。
オリジナルグッズ販売
白『アイデア』ノート
タイプA(現代版サイズ) 1,000円(税込)
タイプB(刊行初期サイズ) 800円(税込)
その他、アイデアバックナンバーや誠文堂新光社刊行書籍なども販売します。
(一部会場限定特別割引があります)
オープニングパーティー
2018年1月23日(火) 7:00p.m.-8:30p.m.
主催
クリエイションギャラリーG8
企画
室賀清徳、後藤哲也、アイデア編集部
http://www.idea-mag.com/event/fragments-of-graphism/
構成
橋詰宗、加藤賢策、大原大次郎
終了
EVENT
2018.2.17 土
ワークショップ「『アイデア』のリカバー」
終了
EVENT
2018.2.17 土
トークイベント「グローバル時代のなかの日本のグラフィックデザイン」
終了
EVENT
2018.2.10 土
トークイベント「Mobile Talk #05 Tokyo」
終了
EVENT
2018.2.10 土
トークイベント「『何に着目すべきか?』」
終了
EVENT
2018.2.3 土
トークイベント「クリティカル・(グラフィック)デザイン・スクール」
REPORT
2018.1.31 水
イベントレポート:オープニングパーティー
終了
PARTY
2018.1.23 火
オープニングパーティー