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「流行通信」のアートディレクションについてインタビュー

「流行通信」のリニューアルを担当2002年9月号〜
当時の編集長だった石田さんとはもともと知り合いでした。この編集部はみんな若くて、石田さんも20代だったんじゃないかな。 事務所に「流行通信のADをやってもらえないですか」と頼みに来たんです。でも僕は「毎月この一冊をやるなんて、 仕事のボリューム的にどう考えても無理だよ」って、最初はずっと断ってたんですよ。あまりにも大変だろうって思ったから。 石田さんとしては、レイアウトがどうこうということよりも、根本的な内容から一緒に作っていけるような人とやりたいということだったんですよね。 事務所を作って1年ぐらいの時期で、これまでは広告中心でやってきたけれど、エディトリアルの仕事には興味があったんです。 「流行通信」は高校のころからよく見ていて、80年に横尾忠則さんがADをやっていた頃なんか特に好きだったし、 僕にとっては特別な雑誌だったんです。今は情報雑誌ばかりで、当時の「流行通信」のような、雑誌の中でクリエイションが生まれている感じのって、 なかなか無いなと思って。それで、もし、そういうことができる可能性があるならって、だんだんその気になってきたんですよね。 事務所のスタッフだけでは無理だから、一緒にやってくれるデザイナーを石田さんに探してもらいました。

ロゴデザインの変更を提案
まず、リニューアルするにあたって、どんなことが大事なのか考えました。田中一光さんが作ったロゴがすごいアイデンティティーじゃないですか。このロゴがあるから誌面の中で多少羽目を外しても品格が守られている。安心できるゴールキーパーがいるみたいな感じですよね。僕も最初はこのロゴを活かす方向で、これが新鮮に見えるようなデザインにしようと考えていたんですが、いろいろ表紙のダミーを作ってみたんだけど、いま一つフレッシュな感じが出せなかった。それで、試しに作ってみたのがいまのロゴなんです。僕のロゴはちょっとひねくれたデザインでもあるし、やや邪道な感じもするけど、そのころの「流行通信」は中身が少し落ち着いてしまってる感じがしたので、出しゃばりなくらいのロゴで引っぱっていくのもいいのかなと思って。四角いドットを使ってデザインすることはすぐに決めたんです。ただ、「流行通信」の文字を字画も正しく表現するには、ドットが粗すぎる。つまりもともと無理があるんですが、それをどう処理するかによって個性とか面白味が出るかなと考えました。このロゴを「流行通信」の内部で通すのは正直難しいだろうなと思ったんですが、石田さんが「これで行きましょう」と了解を取って来てくれました。

企画から一緒に考える
特集内容は半年先くらいまで決めるんですけど、いまは編集部と相談しながら進めていますね。編集部が出した案をもとに「こうしたらいいんじゃない」とか、ビジュアル以前の、編集のアイデアを出していく。テーマが決まったら、コンテンツまで一緒に考えて、実際にどう進めるか決めていきます。特に特集のテーマにあたる撮影の部分は広告を作っている時と同様で、ラフを描きながら結構緻密に決めていきます。スケジュールは短いですよ。毎月10日前後に入稿の締切なんですが、それが終わると次の撮影なんかを決めて月末頃までにやって、残り1週間くらいでレイアウトをバーッと。レイアウトは僕を含めて何人かで手分けしてやってますが、全ページ僕がチェックしています。「流行通信」は、ただデザインがきれいな雑誌になってもしょうがないなと思ってます。極端にいうと、デザインは下手でもいいから内容が面白そうだなって思ってもらいたい。これを読めば情報が得られるだけじゃなく、他の雑誌と違う価値観に触れられそうだって感じてもらえたらいいなと思います。そこが生命線だと考えてながらやってます。企画がどう面白くできるか、ビジュアルページをどう作っていくか、毎回悩みますね。1年半ぐらいやってますけど、毎月新鮮さを保っていくのは難しい。結構必死なんですよね、1冊作るの(笑)。事務所で撮影をすることも多いです。この事務所を作ったときに、撮影でも何でもできるアトリエみたいなスペースにしたいと考えていました。じっと座ってデザインするんじゃなく、思いつきですぐに写真に撮ってみたり、模型を組み立ててみたり、やっぱり自分の手を動かしながら作っていきたいと思ったんですよね。「流行通信」は、そんな感じで作ってます。

亀倉賞展に向けて「流行通信特別号」を制作
始めた当初は、相当不安でしたよ。良いのか悪いのか自分でもよくわからなかった。だから賞をもらったのも意外でしたね。でもそういうことを意識しないで、なり振りかまわずやったっていう良さが、出てるのかなと思いました。サイトウマコトさんが「周りの雑音を気にせずに、自分のやりたいことをやってるっていうのが出てて良いよ」って言ってくださったんですが、自分としても、小手先のデザイン的なところから吹っ切れて、この仕事のおかげでちょっと「抜け」がよくなった気がします。いまは、展覧会に向けて「流行通信スペシャル号」を作ってます。なんとか間に合うんじゃないでしょうか(笑)。ぜひ見に来てください。

服部一成

グラフィックデザイナー/アートディレクター。1964年東京生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。ライトパブリシティを経てフリーランス。おもな仕事に、「キユーピーハーフ」の広告、雑誌『流行通信』『here and there』『真夜中』、三菱一号館美術館のロゴタイプ、「拡張するファッション」展のグラフィック、中平卓馬写真集『来たるべき言葉のために』のブックデザインなど。作品集『服部一成グラフィックス』。