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第83回NYADC展で金賞を受賞「ピース アンド ピース カレンダー」

The Art Directors Club(通称:ニューヨークADC)は、1920年の設立以来、世界のグラフィックデザイン界をリードしてきました。今回で83回目となるニューヨークADC展は、長年にわたり、各国のデザイン・広告関係者の注目を集めています。今回も2003年度に制作・発表された作品の中から、世界48カ国より12,000点近くもの応募があり、金賞26点・銀賞49点・銅賞118点が選ばれています。クリエイションギャラリーG8では、ニューヨークADCギャラリーで展示公開された入賞作品を空輸し、3月7日より入選作品を中心にご紹介します。今回は、そのニューヨークADCで金賞を受賞した植原亮輔さんにインタビューしました。

ニューヨークADC金賞受賞
受賞は、東京ドームで野球を見ていたときに、会社から連絡が入り、知りました。わざわざ連絡をくれたんです。2年くらい前に銀賞はとったことがあるんですが、ここ数年やっぱり金賞が欲しいって思っていたのですごくうれしかったですね。
日本国内のみで選考されるADC賞(東京アートディレクターズクラブ)とは違って、ニューヨークADCでは世界から作品が集まるので、言葉や日本特有の空気感を超えた作品、アイデアがわかりやすいものでないと評価してもらえない。逆にアイデアがちゃんと組み立ててあれば受け入れてもらえると思っていました。
今回の作品「ピース アンド ピース カレンダー」は「デザイン」というものを突き詰めて考えたときに、垂直に置いたり、規則的に配置して、綺麗にすることだけがデザインなのかな、と疑問を持ったのがきっかけです。崩したものでデザインを表現したい。自然に発生したもの、現象がデザインになるとうれしいな、と思って出てきたアイデアなので、そんな僕のデザインに対する思いが世界で受け入れてもらえたと思うと、より一層うれしく思います。「ピース アンド ピース」という商品名は、戦争が始まった時期でもあったので、平和の「Peace」と、紙片「Piece」の意味をかけあわせています。「世界から集めてきた紙片が、一枚の紙になっているように、ひとつに、平和になりませんか」って。そんな思いも受け入れられたのかもしれませんね。

受賞作品
「ピース アンド ピース カレンダー」
ここ数年、既存のものでも、組み合わせることで新しいものができてしまうコラージュの面白さが気に入っています。紙を破って、違う紙と組み合わせる。ばさっと置いてあるそのままの状態を使う、まさに発生したデザイン。そして、そのコラージュを一枚の紙で表現できたら面白いな、って。このカレンダーは普通に一枚の紙に印刷しただけなんです。でも、下の紙の色を透けさせたり、レースペーパーの型抜きの部分があったり、古ぼけた色、質感の紙があったりするから、一瞬たくさんの種類の紙を使ってあるように感じるでしょ?裏も同じように、表の紙の重なりを使って、再現しています。レースは裏からみてもレースだし、デザインとして、裏と表の両方を使うことができたのは発見でした。制作は実際にコレクションしている紙の中から何枚かを選んで、自分の机の上に並べる。仮留めして、ピンセットで「よいしょっ」てひっくり返して、今度は裏を作る。表も美しく、裏も美しく、ってね。結構地味で細かい作業でした(笑)。このバインダー用の穴がたくさんある紙。切り離すときって、最後は「ピッ」て引っ張るでしょ? だからひげの部分を斜めにカットしてある。わざとずらして型抜きしているんです。こういう、ひげの部分とか、レースの模様の影の部分とか、よく見ないとわからない、でもわかる人にはわかるようなこだわり方が気に入っています。

デザイナーの役割
デザイナーの仕事は「形にすること」だと思っています。いわゆる現代アートと呼ばれているものは、考え方や、思考の研究。反対にデザインというのは、ある考え方をもとに、それを具体化することではないでしょうか。企業側が作った商品をお客様に売るときに、提供する方法論が間違っていると、たとえそれがいいものであっても消費者はそう思わない。デザインはそれを正しい方向に導くシステムを作っていくことだと考えています。
今後はヒトとの関わりを大事にしたデザインをしていきたいですね。デザイナーは作ることで形に残せてしまうので、モノを作ることに喜びがいって、ヒトと関わることの喜びを忘れがちになる。形になることも重要だけれども、ヒトと関わることで、より繁栄して広がっていく。自分がデザインしたものが、「手に入ってうれしい」とか「欲しいな」と思われる。そんな楽しみをみつけていきながら、デザインしていきたいと思っています。

植原亮輔

1972年北海道生まれ。現在、株式会社DRAFT/ D-BROS所属。フラワーベース「Hope forever blossoming」、架空のホテルから生まれるプロダクト「ホテルバタフライ」などD-BROSの商品デザインを手掛ける。2006年から、ファッションブランド「シアタープロダクツ・シアタームジカ」のグラフィック全般におけるアートディレクションを手掛ける。その他主なクライアントとして、「パナソニック電工」「ウンナナクール・LuncH」「Smiles」など。また、渡邉良重氏と共にショートフィルム「欲望の茶色い塊」(21_21 DESIGN SIGHT・チョコレート展/2007)の制作や、「SPACE FOR YOUR FUTURE」(東京都現代美術館/2007)に参加。2008年10月「時間の標本」展をAMPGにて開催するなど活動は多岐に渡る。東京ADC賞、JAGDA新人賞、TDC賞、N.Y.ADC金賞、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ銀賞等、受賞多数。東京ADC会員。JAGDA会員。