第25回グラフィック「1_WALL」グランプリ受賞者個展
趙文欣は、監視カメラに記録される人物の、リアルでプライベートな瞬間のイラストレーションを5つの映像作品にまとめた「Void Space | 真空空間」で、第25回グラフィック「1_WALL」のグランプリを獲得しました。審査員からは、一次審査から公開最終審査までのわずか3カ月で次々と作品をアップデートしていく意欲と、ブラウン管テレビでの上映を想定してノイズを加えた絵柄の表現力や、展示のディレクション力が高く評価されました。
本展では「ひとり空間」をテーマに、10cm四方の小さな部屋を3DCGソフトウェアでデザインし、映像作品に編集したものや、3Dプリンタを用いて制作した立体作品を展示します。小さな部屋の中では想像と現実が混ざり合い、それぞれの部屋で過ごす人は、見つからない猫を捜し続けたり、噴火寸前の火山の上で眠ったりしています。コロナ禍をきっかけに一人の空間を意識することが増えた昨今、誰もが感じたことのある孤独感や安心感といった感情を様々な部屋で表現します。
会期中の4月19日(水)には、アートディレクター、グラフィックデザイナーの上西祐理さんをゲストに迎え、オンライントークイベントを開催します。グランプリ受賞から約9カ月後の個展を、ぜひご覧ください。
会場映像
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展示に寄せて
私は毎日箱の中で目を覚まし、そしてまた動く箱に入る。
そうこうし、私の目的地である別の箱にたどり着く。
箱には気分が良い時もあり、悪い時もある。
空間が時に大きくなったり、小さくなったりする。
好きな時もあれば、嫌いな時もある。
だから、私も時々箱を満たしたり、空っぽにしたりする。
たまに、私もこの箱から逃げ出す。
箱の中で、時々、ブラックホールに飛び込むような安心感を感じることがある。
目を閉じると、箱の中の空間が絶え間なく広がり、一日が一時間のように感じられ、時間は時を刻む意義がなくなる。
かつて過ぎ去った時間の中で、私は時折、存在しない猫を捜している。
もしかして、あの猫を見た?
趙文欣
審査員より
趙文欣さんの作品には共通して、「視点」への強い意識があると思う。現実を静かに観察するための、対象との角度と距離が重要なようだ。1_WALLグランプリ受賞作は、監視カメラから見た映像を模して作られていて、「視点」そのものが作品化しているようでもあった。しかしその映像は現実を撮影したものではなく、自身で描いたイラストレーションを動かしたもので、つまり隅々まで意識的に作り上げられたフィクションである。監視カメラの無感情な視界とイラストレーションの穏やかな温度感という相反するような組み合わせが独特の感触を生んでいる。それがどこまで意図されたものなのかはわからないのだが。
画面に登場する人物は都市のさまざまな場面にあって、いつもひとりだ。広い宇宙にポツンと浮かぶ小惑星のような孤独を描くことで、作品を見る人との関係を築く、という逆説。それが安直にならずに説得力を持つのは、場面を選び取る行為のなかに、趙さんのしたたかで鋭い判断があるからだとも思う。作品が静止画でも動画でも、平面でも立体でも、アナログでもデジタルでも、この判断力から来る表現の強さはきっと変わらないだろう。空間と時間を切り取る、その手際は冷酷なほどにスムースだ。いつの間にか、趙さんの作品ができあがっている。そのスケールの大きさに、あとから気づいて驚かされる。
服部一成(グラフィックデザイナー)