第13回写真「1_WALL」グランプリ受賞者個展
浦芝眞史は、男性のポートレートを撮影した作品で第13回写真「1_WALL」のグランプリを受賞しました。日本人だけでは無く国籍の異なる台湾人や、同性愛者、異性愛者を撮影する中で、個々の人間の国籍や抱えている悩みは写真には写らないことに気づいたと話した浦芝の作品は、新たな展開が期待できると審査員から高い評価を得ました。
本展で展示する作品は、主に同性愛者や、違う性別の肉体になることを求めている人々が被写体ですが、彼らの苦悩は写真では明らかには捉えられません。本来、男性なのか、女性なのか、一見してわからない身体も写し出されています。浦芝は、自身の身体に違和感を抱いている人々と写真を通してつながり、男性と女性という生物学的な違いによる分類を超越した、人間自身に美しさを見いだしています。外見や性別による区別がいかに取るに足らないものかを写真を通して突きつけているようにも思えます。
グランプリ受賞から約1年後の個展を、ぜひご覧ください。
PREV
NEXT
展示によせて
ある人は、200万円かけてその胸を取りたいという。
またある人は女に生まれたかったというし、別のある人は男になりたいという。
もし、世界にいる人間がその人だけなら、彼らはそんな悩みを持つこともなかっただろう。
人はたくさんの他者の間で生きている。だからこそ悩みを持つ。
例えば200万円払って望む身体になるということが、
悩みを解消するための最善の選択肢なのかどうか、今はまだわからない。
ただ私は、彼らの身体を今のままでも十分に美しいと思った。
浦芝眞史
審査員より
わからないことの本質は、わからないところがわからないことである。それゆえわからないことは居心地の悪いものであり、ときとして人を不安に陥れる。
ここに写された人たちは、拠って立つ基盤をなくして底なしの奈落に落ちてゆくように浮遊している。
男であることや女であること、あるいは
男を愛することや女を愛すること、さらには
日本人であることも。
しかしここには様々な可能性が胚胎している。それは撮り手がわからなさのなかに踏みとどまって撮影したからこそ写ったものだろう。浦芝眞史の作品はそうしたゼロ地点に我々を連れて行ってくれる。
鷹野隆大(写真家)