第16回写真「1_WALL」グランプリ受賞者個展
千賀健史は、インドの学歴社会やカースト問題に直面する少年たちの夢や希望を失った時の選択や生き続ける事の可能性をテーマにした作品「Bird, Night, and then」で、第16回写真「1_WALL」グランプリを受賞しました。審査員からは「これまでのフォトジャーナリズムの方法論とは違う新しいドキュメンタリーのかたちの模索」と高く評価されました。
千賀は、インドで出会う人々の抱える問題について文献を調べ、現地での調査を行いながら写真を撮影しています。社会問題を取り扱いながらも、事実をただ写すことだけが問題に迫る方法ではないと考え、より問題の本質を伝えるために架空のストーリーを織り交ぜながら、事実を再構成しています。政治的、社会的背景や、人々の感情の構造にも迫り、時に遭遇する不条理や、何が正解なのか、その正解を追い求めることすら必要とされていない状況について、それらをひとつの物語から写真を通して伝えることを試みます。
本展では、グランプリ受賞後にインドに赴き撮影した新たなシリーズを展示します。インドにおける児童労働をテーマに進学を諦め働くことを余儀なくされた、ある少年の失踪から発見されるまでを追いました。
2月7日(水)にはアートディレクターの菊地敦己さんをゲストに迎え、トークイベントも開催します。
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展示によせて
2016年10月、一人の少年が学校からいなくなった。
児童労働従事者が400万人ともその倍以上とも言われるインドでは、2016年7月に児童労働法が改正され14歳未満の労働を原則禁止する事となっていた。しかし、現在16歳の僕の友人はその規制の外にいる為、出稼ぎに出されたのだ。結局彼は南インドのある街で服屋の店員として働いていた。
彼は1500kmも離れた土地に働きに行くのに何を持って行くか考えた結果、1冊の英語の教科書を選んでいた。自分の境遇について話す彼の表情、不満を言わず働く姿、それらから僕は一人で頑張る彼の中で、ひっそりと消えていこうとしているもう一人の彼を見た気がした。
千賀健史
審査員より
このところ、写真の持つ伝達力が再び見直されている。写真はたしかに速報性や流通性には乏しいものの、小さなコミュニティにおける個々の出来事を、丁寧に跡づけていくのにとても適した媒体なのだ。千賀健史はそんな「ニュー・フォト・ジャーナリズム」の旗手というべき存在だ。彼がインドで制作してきた写真群を見ると、新たな映像表現の文法が少しずつ形をとり、柔らかだが、強い説得力を備えた構造体へと生成しつつあることがわかる。
飯沢耕太郎(写真評論家)