第17回写真「1_WALL」グランプリ受賞者個展
川崎祐は、家族を被写体に日常の中に垣間見える混沌と静寂を写した作品「光景」で、第17回写真「1_WALL」グランプリを受賞しました。審査員からは、「被写体である家族それぞれのキャクターがとても魅力的」、「鬱屈感や閉塞感と釣り合うエネルギーを持つ作品」と高く評価されました。
本展では、川崎の故郷である滋賀県長浜市で撮影した自身の両親や姉、地元周辺の過疎化する郊外の風景を写した写真を展示します。物が散乱した部屋に佇む父、リビングルームで体操をする母、田んぼのあぜ道を歩く姉。その土地で暮らす家族が日常の中で見せる真剣な、時にうつろな表情は、どこか可笑しみを感じさせる瞬間を含んでいます。偶然その場所に居合わせたような視点で捉えられた、ありふれているようで普通ではない光景は、もしかしたら、私たちの身近な場所で起こっていることかもしれません。一点一点の写真を追っていくと、そのイメージの重なりから、人間それぞれが抱える問題やその感情がおぼろげに浮かび上がってくるようです。
会期最終日の7月13日(金)には写真家の鈴木理策さんをゲストに迎え、写真作品における物語性をテーマにしたトークイベントを開催します。グランプリ受賞から1年後の個展を、是非ご覧ください。
PREV
NEXT
展示によせて
目の前にたしかにあったものが、時間をかけて形を変えていく。厳密には秒よりも細かい単位で違っているはずの光景に、私はできる限り立ち会っていたい。
語られなかった言葉、聞き届けられなかった声、見逃された風景。興味はいつもそこにあった。意味の手前で形をなさずに消えていくそれは、いったいどこへいってしまうのか。
北陸に近い、この地方の冬は厳しい。雲は低く立ち込め、気持ちは沈む。春が、三月が、待ち遠しい。まだひんやりと冷たい風は、撫でるように身体をつつむだろう。だから、その時を待っていればいい。それが静かに消えていく姿を、しっかりと見届けてやればいい。
川崎祐
審査員より
川崎祐の写真を初めて見たとき、清々しさと異様さが同時に立ち上がった。「家族」はそれぞれの関わりをもち、ときに郊外の夕陽の中で、ときに散乱する器具の中で固有の存在感を放つ。写真家は、レンズの向こうの顔に対して、「かなわない」と自分を投げ出しているように思えた。(誰もがそうであるように)さまざまな起伏があったのかもしれない、それを共有している時間の刻印。そしてなお、日々を手繰り寄せ、外へと顔を上げるひと。何ひとつ終わっていない場所の、突き抜けた日常に、「Scenes」はある。
姫野希美(赤々舎代表取締役/ディレクター)