第20回グラフィック「1_WALL」グランプリ受賞者個展
山内萌は3DCGで作成した顔を油絵で描いた作品「アプローチするグラフィック」で第20回グラフィック「1_WALL」グランプリを受賞しました。審査員からは飛躍する可能性を秘めていると評価されました。
キャンバスや廃材のベニヤ板に油絵の具を用いて描かれている顔は、初期のコンピューターグラフィックスの稚拙さを思い起こさせます。本展では、不可解な表情をした顔が向ける視線が特徴的なそれらの作品を、不安定にも思える独特な間合いで配置し、展示空間全体で表現します。また、グランプリ受賞作品とともに新作も展示します。
会期中の1月31日(金)は、東京国立近代美術館主任研究員の保坂健二朗さんを迎え、トークイベントを開催します。受賞から約1年後となる初の個展をぜひご覧ください。
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展示に寄せて
もし表情がそこに置かれていたら、
あなたはどんな気持ちになって、どんな表情をするのだろうか…
それを知りたいから配置する。
そんなコミュニケーションのアプローチがあってもいいと思う。
対象を目の前にとっさに出てきたあなたの表情は、
きっと繕ったものではないはずだ。
現代美術がわからなくても、ゲイジュツに興味がなくても、
言葉 を超えた素直さは、あなたの中に必ず潜んでいるのだ。
ゾッとしたり、にやけたり、腹が立ったり、何考えたっていい。
あなたと私の作品とのコミュニケーションは すでに始まっている。
山内 萌
審査員より
擬人化したヤカンをあえて拙いCGで描いたような愛らしいイメージと、その愛らしさを理論的に補強する「アプローチするグラフィック」というキャッチーな言葉とを携えて、山内萌は弱冠20歳にしてグランプリを獲得した。
拙いCGのようなイメージは、彼女が高校生時代にはまったvaporwaveという音楽のジャンルに特徴的なPVにルーツがあるらしい。それは、2000年代の時点で、パーソナルコンピューターが発展し消費社会が深化した80-90年代に生まれたちょっと脳天気な感じのする文化を、憧れと批判のないまぜになった気持ちにおいて引用し、改変し、提示する音楽である。そしてPVでは、グリッドのラインが見えるなど抽象性が支配する背景画の中に、ヤシの木や石膏像といった物体がおかれた。
それは、絵画の歴史から見ると、実に不完全な風景である。でもその不完全な風景の登場以降に生まれた世代の者にとってみれば、それを不完全と呼ぶこと自体に違和感を感じるだろう。そして、人工による不完全さがむしろ完全なものとして感得される世界を再検証することこそが、自分たちの役割だと考えるだろう。
こうも言い換えることができる。かつては、見慣れたものが不気味さを帯びることに驚くことができたが、今はむしろ、不気味なものが見慣れたものとしてそこここに佇む状態から出発しなければならないのだと。そしてそうした状態において、絵画はどのような役割を担い、グラフィックはどうあるべきかを考えなければならないのだと。
山内は、そうした課題を自らに課したわけだ。その成果が成功するかどうかはわからない。なんといっても彼女はまだ学部に属する学生である。でも、見る価値はあるだろうと考えている。そう考える理由のひとつは、審査の過程で手にとることができた彼女のポートフォリオが見せる妙なデザインのセンスであり、もうひとつの理由は、https://soundcloud.com/totemo-benkiで聴くことができる彼女の宅録がまとう雰囲気である。
保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)