第21回写真「1_WALL」グランプリ受賞者個展
Ryu Ika(劉 怡嘉)は、現実世界を舞台に見立て、空虚に感じる現実の本質に迫ろうとした「Big Brother is Watching You」で、第21回写真「1_WALL」グランプリを獲得しました。審査員からは、捉えている世界のスケールが大きいことや、作品一点一点の力強さが高く評価されました。
Ryuは写真を通して、この世界の仕組みや、物事の真実とは何かを見出そうとしています。内モンゴルで撮影した電飾ネオンが眩しいホテルや、暗闇に光る羊群の目、色とりどりの幼稚園の建物、活き活きと生活する人々の写真は、見る者に鮮烈な印象を残します。内モンゴルの経済発展と従来の生活様式との間のずれや、均質化した日本の社会システムの見えない隔たりに、この世界の劇場性を感じ取り、写真で現実を切り取り表現しています。この世の中という舞台の上で、さらに異なる世界が設定されているのではないか、ここに生きる私達は自分という役を演じ常に誰かに見られているのではないか、写真を通じて訴えかけてくるようです。個展では、展示空間を舞台に見立て、空間全体を使った展示を行います。
会期中の9月2日(水)は、「1_WALL」の審査員でもある赤々舎代表取締役 ディレクターの姫野希美さんをお迎えし、トークイベントを開催します。受賞から約一年後の個展を、ぜひご覧ください。
PREV
NEXT
作家ステートメント
なんで私は毎日服を着るんだろう?
なんで神聖な場所の中では悪い事ができないんだろう?
なんで自分と他人を見分ける事ができるんだろう?
私が何かを見るとき、同時に、その何かにみられるということから、決して自由になることはできない。それは、自分の中から第二の自分(他人)を分裂し、自分という存在を「見直す」ことなのかもしれない。
みている。
みられている。
みられている側もみられている。
完全な自我を束縛するには演技が必要になる。
そうやって、社会というものは作られている。
今日も幕が開いた。
私の出番だ。
Ryu Ika
審査員より
Ryu Ikaの写真は、フラッシュを焚く以外には、人為的な操作を比較的抑えた写真であると言える。だが、そこには強烈な劇場性と虚構性がある。そして、それは、写真が本来的に世界内世界をつくりあげてしまうものであるという、写真の存在論自体に関係する。
写真は世界を切り取る装置である。それは、世界のなかにもうひとつ「別の」世界が立ち上がることだ。ゆえに、すべての写真は、世界内世界の入れ子を表現する。ジム・キャリー演じるトゥルーマンの人生が衆人環視のもと見せ物化される『トゥルーマン・ショー』と同じく、写真の世界内世界としてのあり方は、必然的かつ部分的に、虚構的・演劇的であらざるを得ない。だが、それは、トゥルーマン(真の人間)のショー(見せ物)という真/偽の二重性をもつ。Ryuの写真は、それと同様の、架空の真実を垣間見せている。
Ryuは、『トゥルーマン・ショー』の監視構造と似たジョージ・オーウェルの小説『1984』に登場する、国民行動のすべてを監視する「ビッグ・ブラザー」に撮影者である自身の姿を重ねてグランプリ受賞作を撮った。COVID-19の脅威が世界を覆う現在、グランプリ受賞者個展は無事実現されるのだろうかという懸念は残る。そして、このパンデミックを契機として、現在、各国政府による統治と監視の権力が強まることが懸念されている。いまや「ビッグ・ブラザー」は現実のものになろうとしている。
入れ子状の世界内世界を撮影しようとし続け、見ることと見られることの関係に強い関心を抱き続けてきたRyuの写真は、図らずもこの事態と同期してしまったと言えるかもしれない。もちろん彼女の写真は、このことを直接示唆するわけではない。だが、そのことと完全に無関係であるわけでもない。われわれすべてが、トゥルーマンとなりつつあるという現実と、その写真は対応しているからである。
沢山遼(美術批評家)