第22回グラフィック「1_WALL」グランプリ受賞者個展
不確かさや曖昧さをテーマにした作品「《五円》なき衆生は度し難し」で、ちぇんしげは第22回グラフィック「1_WALL」グランプリを獲得しました。審査員からは、モチーフのユーモラスなつながりや、鑑賞者の目を留めさせる力のある作品として高く評価されました。
ちぇんしげは、絵画や、イラストレーション、ミクストメディアによる立体など、様々な技法や素材を用いて作品を制作しています。言葉の不確かさや言葉自体への疑いを起点に、異なるレイヤーのつながりからモチーフを展開する作品は、信じることから物事が立ち上がること、余白から新たな創造が生まれることを意図しています。
個展では、桃饅頭をテーマとして、そこから広がるイメージの連続、言葉遊びから派生する作品群を展示します。受賞から約一年後の個展を、ぜひご覧ください。
会期中の2月4日(木)には、グラフィックデザイナーの菊地敦己さんをゲストに迎え、余白をテーマにトークイベント「私はあらゆる事象中にてぶれる傍らゆとりを詮索するべき」を行います。
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展示に寄せて
壽桃=桃饅頭にぶれがある。精確に言うと桃饅頭はぶれている。ピザまん肉まんの中身は言葉通りの味が入っているが桃まんの中に入っているのは小豆。よりによって小豆の餡だ。五十音の起点と終焉に佇むあとんは如何なる重荷を肩に背負い天地開闢の霊気を身に充満させるのだろう。視覚と味覚を往来する桃まんの実体を如何に吟味するか、にも拘らずぶれ続くのはこちらも同様。百均の霧吹きでしゅっしゅっと桃色をかけて手軽に入手できる寿はとうてい桃の不在にご興味がなさそう。寿は心の底から桃に感謝する一方桃の永遠の不在を願っている。あ と んの間に行き来する桃色は、媒介。私の気分は、無問題。居場所がなくて、万万歳。
ちぇんしげ
審査員より
ちぇんしげ君が選ぶモチーフはどれも親しみやすい。トイレの詰まりをとるきゅっぽん、食パンの袋をとめるアレ。豆腐や五円玉に、気の抜けた顔の猫と仏像の印相みたいなハンドサイン。そして大きな大きな桃饅頭。それらの物たちは「私を解読しなさい」と言い、どれも身近で近寄りやすい顔をしているものだから、私たちは油断をしてウンウンなるほどね……と思う。しかしちぇんしげ君は言う。「物事は伝わらない」と。幼い頃から言語そのものに興味を持っていたという彼は日本語も驚異的に流暢だが、それでも「言葉は伝わらないものだとみんなが知っている」と私に話した。だからといって孤独さは感じない。ズレを楽しもうとしているかのようにも見える。そんな話を聞いたあと、一人で地元の24時間営業の中華居酒屋に行った。桃饅頭があったので頼んだらレンジで温めただけの小さな小さな饅頭が出てきた。中身はカピカピになっていた。絵のふりをした桃饅頭を描く彼の後ろに壮大なアジアの砂漠が見えたのは私だけだろうか。
長崎訓子(イラストレーター)