第23回グラフィック「1_WALL」グランプリ受賞者個展
平手は、人間の形状を模したテキスタイルオブジェを中心に構成した作品「あなたは風穴」で第23回グラフィック「1_WALL」のグランプリを獲得しました。審査員からは、知人から譲り受けた布から作り出した、ファッションとして身に着けることができる作品の立体造形力や技術力の高さと、制作に対する実直な姿勢が高く評価されました。
個展では、実在しない誰かと生きることをテーマに、染色した布や綿などを用いて制作した人型のオブジェを展示します。オブジェは、話しかけたり、拳を振りかざしたり、音を奏でるなど見者に働きかける機能を持ちます。作品に身体を存在させ機能を持たせることにより、実在しない誰かの存在を実現し、展示空間に入り込んだ鑑賞者との間に相互作用が生まれます。インスタレーション作品に加えて、映像、写真、ドローイング、漫画などを、町に見立てた会場空間で展示します。また会期中、会場内に設置した家に作家が一時的に滞在する予定です。4月26日(火)には、アートディレクター、グラフィックデザイナーの上西祐理さんをゲストに迎え、トークイベントを行います。受賞から約一年後の個展を、ぜひご覧ください。
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展示に寄せて
ちょうど私の顔の高さに取り付けた拳が、いきおいよく私を殴る動きを目指して改良をつづけたが、現状拳はふわふわ顔にあたるのみ。
命の無いかわいいこれと殴り合いをやれたら良いなと思ったけど、なんともいえない動きに行き着いたこれ、と私で殴り合いの夢のまわりを妙なスピードでうろついていた。
このままずっと、夢が叶うのも破れるのも知らないままでさあ海に山に川に土にコンクリにどこへでも出かけようよ。
「うん」
平手
審査員より
ポートフォリオ審査を通じて初めて平手さんの作品の写真を見た時、分からなさを超えて妙な説得力を感じた。かろうじて形を保っているように見えるオブジェクト(衣服?)は丁寧に縫製されており着用に耐える構造を備えていることをその後の展示で知った。ファッションを軽視せずに制作している平手さんの態度に誠実さとサービス精神を感じた。確かに展示予定の作品では着ていたオブジェクトは自律して文字通りオブジェクトになるが、代わりに平手さんが自作の服(高校球児のようなユニフォーム)を着て登場することによってファッション要素は無くならない。写真なので詳細ではないが、このユニフォームも服として良さそうに見える。本人はそういう視点から見られることは不本意かもしれないが、どんなふうに見られても平手さんの本質が損なわれることはない、そういう強度を持った作家だと思う。今思えばそれが妙な説得力の正体だったのかもしれない。
田中良治(ウェブ・デザイナー)