第24回グラフィック「1_WALL」グランプリ受賞者個展
佐川梢恵、森野真琴は、架空の人物である森野真琴に対し、作品を通してコミュニケーションを試みる作品「REM」で、第24回グラフィック「1_WALL」グランプリを獲得しました。この試みは、「1_WALL」の応募資格が個人制作であることに着目し、「架空の人物と自分とで二人展をすることは可能か」という実験的な発想から生まれました。
作品は、佐川梢恵の自宅に森野真琴から絵の具のようなもので縁取りした木製パネルが届けられたことから始まります。それを受け取った佐川梢恵は森野真琴と合作を試みました。涎を垂らす、舌で舐める、蝋燭の火を吹きかけるなどの表現を通じて、森野真琴の作品に働きかけるイラストレーションを制作。審査員からは、架空の人物と展示をするまでの設定の作り込みや、仕組みを利用した企てが高く評価されました。
個展では、グループ展での取り組みを発展させ、“繰り返しが終わる最後の日の朝”をイメージした展示をします。会場全体を部屋に見立て、複数枚繋ぎ合わせたコピー用紙に、パステルや鉛筆、シャープペンシルで描いたイラストレーション、立体作品、パフォーマンスの組み合わせによるインスタレーションを展開し、佐川梢恵が森野真琴とコミュニケーションに取り組みます。10月6日(木)には、編集者の室賀清徳さんをゲストに迎え、トークイベントを行います。受賞から約一年後の個展を、ぜひご覧ください。
会場映像
パフォーマンス映像
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展示に寄せて
明日、天国を離れる。朝起きて昨日引っ掻いた傷がもう塞がりはじめていてホッとする。台所に降りて一口水を飲む。なんだか自分を俯瞰しているような気持ち
で支度をする。染み付いた朝のルーティンを恨めしく思う。いつのまにか、この最後の一日が延々と続いているのだ。
明日、天国を離れる。部屋の中央に、もしくは寝室の足元に違和感を感じながら見ないようにする。考えないようにしている。大丈夫、ずっと見張っていてくれるヒトたちがいるから。
明日、天国を離れる。ここは現実で、この外も現実で、別にどこにいてもそうなのだけれど。
明日、天国を離れる。どこから来てどこへ行くというのか。大丈夫、ずっとここにいたら良いよ。
明日、天国を離れる。外の社会のコミュニケーションは私を救うだろうか。架空の儀式のようにそれを思う。私は願う、コミュニケーションよどうか出来る限りの正しさとして、私とみんなを導いてくれ。
明日、天国を離れる。みんなどうかいつまでも元気で。
早朝、行きの船に乗り込む。コミュニケーションのエントランスに立ち、足音を鳴らす。あなたはここから出て行く。
佐川梢恵、森野真琴
審査員より
佐川さんが描く人々は視線を持っている。マンガの瞳で、大概は作品同士で見つめ合っているのだが、たまにこちらも見つめてくる。どうやら「目を見て話しなさい」ということらしい。さて、今回の人々は誰に視線を送っている? 『森野真琴』かもしれないし、私なのかもしれない。最近、佐川さんがツイッターに「マンガ絵を描くことは恥ずかしい。でも恥ずかしいことは悪ではないと思う。まだ考える余地はありまくりますが。(一部抜粋)」と書いていたことがとても印象に残っている。オタク文化・ネイティブ、というか、ナチュラルボーン・国民総アニメ絵世代というか……メタや引用の時期を過ぎ、二次創作や同人活動がアンダーグラウンドでは無い今、表現の手段としてマンガ絵を描いているという彼女の思考と矜持は、描き手としても観察者としても私が知りたいことを教えてくれる気がしている。
一つ告白すると、佐川さんは教え子であり私はゼミの担当教員だった。当時思ったことは「佐川さんだったら私の質問に答えてくれそうだ」ということで、それは今でも続いている。
長崎訓子(イラストレーター)