第9回写真「1_WALL」グランプリ受賞者個展
葛西優人は、自身が抱える心の葛藤から自由になるための手段として、その心象を写真に落とし込んだ作品「Marginal Man is Dead」で第9回写真「1_WALL」グランプリを獲得しました。ポートフォリオから写真を数点に絞り込み、メッセージを凝縮した潔い展示と表現によって、その葛藤と向き合おうとする作家の切実な姿勢が、写真でしか出来ない表現を期待させると審査員から高い評価を得ました。
顔の見えない男性や、何かの痕跡が浮かび上がる写真は、その眼差しの先に、かつて押し殺していた感情を再び見出そうと苦悩する、作家自身の姿を思い起こさせます。親密さからはかけ離れ、暴力的なまでに儚さを感じさせる男性のヌードからは、被写体との関係性が曖昧なまま、不安な気配だけが浮かび上がってくるようです。「人間の出生についての不条理を撮りたい」と語る葛西。それはかつての自分を写真によって救いたいという強い意志の現れなのかもしれません。改めて自身を取り巻く世界と向き合い、写真の力によって変えていこうと試みる葛西優人の初の個展です。ぜひ会場でご覧ください。
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展示によせて
出生の秘密は複雑で、不条理だと思って生きてきた。
なぜ何もないのに、何かがあるのか。
“双児を捜している”
“宇宙から来た”
と、君は言った。
手遊びの絶望を持ち寄りながら、この星は呼吸している。
僕らはそれを“別々の惑星”と呼んだ。
さようなら
猥雑な日々に
世界は認識次第で変貌する。
たとえ、それが、真空の恐怖であっても。
葛西優人
審査員より
人は人によってしか救われない。そして人と人とが触れ合うとき、
生まれるものと壊れるものとふたつある。
葛西君の作品には、このふたつの間で揺れうごく心の「おそれ」が写っている。
彼は触れ合うことの暴力を痛いほどよくわかっている。
出会いを心待ちにしながら、出会いに怯えている。
所属や役割を抜きに、人と人とはどのように交わればいいのか。
彼の写真はこの根源的問いに対するひとつの答えである。
鷹野隆大(写真家)
第9回写真「1_WALL」
2013年9月30日(月)~10月24日(木)
公開最終審査会 10月9日(水)
以下の審査員により、葛西優人さんがグランプリに選出されました。
[審査員]
鷹野隆大(写真家)
土田ヒロミ(写真家)
姫野希美(赤々舎代表取締役、ディレクター)
増田玲(東京国立近代美術館主任研究員)
町口覚(アートディレクター)
※五十音順・敬称略
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