第24回は、4回に渡る投票でも決まらず、大混戦となりました。太湯さんの展示は、オリジナルの紙幣を印刷し裁断する前の状態で高く積み上げるという、意表をついたもの。ちょうど偽札事件が多発し社会的にもタイムリーな作品でした。審査員の評価は、タナカノリユキさんは「グラフィックデザインとしてオリジナルな表現が出来ている」。ひびのこづえさんは「今これを見ないとダメだと思った」とタイムリー性を強調。若尾真一郎さんは「展示も良かったし、この紙幣でいろんなアーティストの作品を購入したいという考え方も面白い」。浅葉克己さんも金庫室という個展プランに「金庫室に入ってみたい!」と絶賛。 本人は偽札騒ぎなど全く意識しておらず、このテーマを4、5年前から模索してきたそうです。この細かな模様、よーく見てください。この作品、いったいどうやって作っているのでしょうか???
自分の作品の価値は0円
お札の作品を作り始めたのは、4、5年前から。はじめは当時の千円札や一万円札をただトレースしていただけだった。人に見せられないから、自分で作って喜んでただけで。そのあと、赤瀬川原平さんの大きな千円札の作品、あれと同じサイズの旧一万円札を作って展示したんです。そしたら、それが全く受けなかった(笑)。かなり自信なくして、じゃあ自分の作品の価値って何だろうって、作り始めたのが0円札。自分の作品だから自分の顔で、誰にも評価されてないから0円で。 芸術作品は、売れれば売れるほど、わけのわからない値段がついてくる。普通の商品とは違う、変な価値がある。その架空の価値をテーマにしてみようとしたのがこのお札のシリーズなんです。このお札(の作品)で、人の作品を買う、ということもやってます。結果的には物々交換なんですけど、僕の作品に価値を見い出してくれたら、交換が成立するんです。
細かさにこだわる
お札って、見れば見るほどすごくキレイじゃないですか。お金という別の意味を持っているから、みんな意識してないけど。作品を成立させるのに、精密さは人の目をひきつける要素の一つになるんじゃないかって、より細かさにこだわり始めたんです。出力屋に通って、自分の納得のいく色や線が出るプリンターを研究したりもしました。お札はこれまでに3、40種類は作ったかな。1つ作るのに1ヶ月くらいかかったりします。審査会の時、タナカノリユキさんに、偽金を作っている人に負けないものを作れって言われて。やる気だけは負けてないつもりですよ。
本物のお札
技法としては、細かい線も一本ずつイラストレーターで描いてます。ペンタブレットより、マウスの方が使いやすい。古いお札の模様とかトレースして、素材としていろいろ組み合わせてます。この間、ある模様を解析してたら、2種類のパターンが組み合わさっているだけだってことに気付くのに、1日かかっちゃって、またそれを実際に作ってみたらもう一日かかった。お札を作った人のことを考えると、すごい発想力だなって思いますよ。福沢諭吉さんのオデコの線が思わぬところに繋がっていて、例えばそのまま髪の線になっていたりとか。よくやるなって思います。
アーティスト
芸大時代は油絵科でした。でも、だんだんインスタレーションっぽい作品を作るようになった。卒業して、デザイン系の会社に就職して、デザインのことや印刷のことを学びましたね。自分の時間で作品を作ったりしてましたけど、ストレスもたまってきて、2003年からフリーに。肩書きは「デザイナー・イラストレーター」としてます。ファインアートとして、人からどう見られているか気にしていますね。いずれ「アーティスト」とか 「クリエイター」って名乗りたいです。お金の作品は、今回の展示で集大成するつもり。審査会でプレゼンしたように金庫室を作ります。
太湯雅晴
2004アジアデジタルアート大賞 入選
EPSON COLOR IMAGING CONTEST 2004 入選
2004年度[第8回]文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦賞
第24回 グラフィックアート『ひとつぼ展』グランプリ