うつゆみこさんは一年前の第26回写真『ひとつぼ展』で、気持ち悪くて可愛くてグロい“キモカワグロ系”の写真を100冊のアルバムにして展示し、見事グランプリを獲得しました。「これはもう最終兵器だ!」「圧倒的な存在感。ここまで見せることを意識しているとはすごい」と審査員も興奮させるほど内容の濃い展示を見せてくれました。うつさんの写真は、身近にあるモノや食材を組み合わせて被写体を作り込み、カワイイけどちょっと気持ち悪い、気持ち悪いけど見ずにはいられない、そんな衝動を作品化しています。「気持ち悪いのって、なんかゾワゾワしません? この感覚を見る人にも味わって欲しいんです」とイタズラっぽく笑いながら話していただきました。
作り込む作品
高校の時にちょうどHIROMIXブームがあって、私も「写るんです」みたいなレンズ付きフィルムで撮ってました。美術が好きだったんですけど、絵が下手だったので普通の大学に行きました。大学1年の時に祖父から一眼レフをもらったら楽しくなって、思い出を残しておきたいという気持ちで、身の周りの風景や出来事を撮っていました。大学では総合芸術系のサークルに入っていたので作品を展示する機会も多く、上野公園のハトのいる風景写真を200枚くらい並べたりとかしていました。ある日、飼っていたキリギリスの屍骸を見つけて、それに触発されて、割れた鏡の上に置いたり、朝の食卓の牛乳に浮かべたりして撮ったんです。「あっ、気持ち悪い」ってゾワゾワしながら。これが今みたいな作品の始まりだと思います。また、綿で鳥の巣を作って友人の頭にかぶせて、ヒヨコをのせて、ひたすらタマゴを割っているところを撮ったり、妙なパフォーマンスをさせて作品を作って遊んだりしてました。それが、写真の学校に通うようになって、他人との差異を見つけなきゃって考えるうちに、本格化してきた感じです。
「よく見る」ということ
私は写真が上手いと思っていません。電車の中で面白い子供を見つけても瞬間的に撮れないし、スタイリッシュに撮るセンスもないんです。じっと構えて撮るタイプだと思います。布とか人形をたくさんストックしてあって、虫やナマの食材などとも組み合わせて作品を撮るんです。小さい世界を操って「しょうもない神様の気分」なんですけど(笑)。でも、この小さなセットで撮ったものが大きく伸ばして写真になると大きな世界になるのが好きです。あるとき友達に、大判の植物の写真集を見せてもらったことがあったんです。それを見てから細かいものに目がいくようになって、“時間をかけてよく見る”ということにあるときパッと目覚めたんです。それから周りのものが、何でもキラキラ見えるようになった。昨日もエイヒレ買ってきて透過光で撮ってたんですけど、模様がすごくきれいなんですよ。そろばんみたいな模様があって。自然はすごいなって思う。しめじの模様とかも、こんこんと湧き出る泉みたいですよ。自然の模様は分子レベルまでいってもきれいだと思います。シャッターを押すときは、いつも「ディテールまで見たい」と思ってます。
イタズラが好き
映画『アメリ』の中で、アメリのお父さんのドワーフ(小人)の置物がいつの間にかなくなって、あたかもその置物が自分で旅に出たかのように、世界の観光名所をバックに撮った絵葉書が何枚も届いて、お父さんが不思議がるシーンがあるんです。当然アメリのイタズラなんですが、ああいうクスってほくそ笑むような小さなイタズラが大好きなんです。展覧会では、気持ち悪いものを見る時に私が味わったゾワゾワするような奇妙な感覚を追体験してほくそ笑んで欲しいです。人形にかんぴょうを巻くのに四苦八苦している滑稽な私の姿も想像したりして。それと、「何だろう?」ってじーっと細部まで見て、「よく見る」楽しみを共感してもらえれば嬉しいです。
うつゆみこ
1978年 生まれ
2001年 早稲田大学第一文学部中退
2002年 東京写真学園写真の学校修了
[受賞歴]
2003年 第20回コダックチャレンジフォトコンテスト/共同写真用品賞・ライトアップ賞
2004年 第21回コダックチャレンジフォトコンテスト副会長賞・ナショナルフォト賞入賞
2005年 第25回写真『ひとつぼ展』入選
2006年 第26回写真『ひとつぼ展』グランプリ