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公開最終審査会レポート

2018.10.12 金

10月12日(金)、19回目となる写真「1_WALL」の公開最終審査会が行われました。「1_WALL」は数多くの応募者から一次審査、二次審査を通過した6名のファイナリストが個展開催の権利をかけてプレゼンテーションを行い、その場でグランプリが決まるコンペティションです。グランプリ受賞者には、個展制作費として20万円を支給します。
これまでに数え切れない数の個性豊かな若手アーティストを輩出してきた、「1_WALL」。今回も多彩な若手作家がファイナリストとして選ばれ、審査会に臨みました。第19回写真「1_WALL」公開最終審査会の様子を、本レポートでたっぷりとお伝えします。

FINALISTS
H/N、原麻里子、円井テトラ、幸本紗奈、植田真紗美、田凱
※プレゼンテーション順

JUDGES
沢山遼(美術批評家)
鈴木理策(写真家)
田中義久(グラフィックデザイナー/美術家)
姫野希美(赤々舎代表取締役/ディレクター)
増田玲(東京国立近代美術館主任研究員)
※五十音順・敬称略

審査会当日、多数の応募者の中から選ばれた6名のファイナリストが、ガーディアン・ガーデンに集合しました。張り詰めた空気の中で、審査員による作品チェックが行われていきます。続々と一般見学者たちも集まり、今回も会場はいっぱいに。ファイナリストによるプレゼンテーションとともに、審査会がスタートしました。

プレゼンテーション&質疑応答

H/N「PRIVATE VOYAGER」

毎日その日の新聞をスクラップして、それを素材に一日一作品作ることを日課としている。1977年に発表された、ボイジャー計画。その時にNASAが「ゴールデンレコード」として宇宙に飛ばした地球の画像や音は、いつか異星人に発見されることを期待して、今も宇宙をさまよっている。そこから着想を得て、今作品を「PRIVETE VOYAGER」と名付けた。この作品作りを死ぬまで続けることで、公共と一個人がミックスされたアーカイブができあがると考えている。今回の展示作品の中には電子端末があり、作品を毎日更新している。個展では膨大な数の作品を展示し、今回のように毎日新たな作品を追加していく予定だ。

Q.沢山:このテーマで作品作りを始めたのはいつ? 最終的にはいつまでやるの?
A.H/N:このテーマで作品作りを始めたのは、二年半ほど前のこと。やめることは考えていない。

Q.田中:制作する際に、何かルールはあるの?
A.H/N:当日の千葉日報に載っている素材だけを使うことと、その日中に完成させること。自分の部屋の中で完結するという作品。

Q.姫野:今回展示されているのは、宇宙をイメージさせる写真が多い気がする。これは、意図的にやっているの?
A.H/N:直接的な宇宙の写真ではなくても、無重力を感じさせる写真などを選び、宇宙っぽさのある作品に意図的にしている。初めて作品を観た人が、どのように感じるかも考え、このセレクトになった。

原麻里子「picture window」

一枚の窓を介して、移り変わっていく外の風景と家の中の様子を写した写真を、時間軸ごとにまとめた作品を展示した。タイトルには、絵のように景色をフレームで切り取り、景色を取り込むための窓という意味を込めている。時間が流れていく中で、見えないところで変化している瞬間を垣間見ることができたらと思っている。個展では、一枚一枚の写真が集まって全体を構成するというイメージを考えていて、今回と同じように窓枠の写真をベースに時間軸ごとにグルーピングした写真と、個展までに撮り足した写真を合わせて飾りたい。大きな壁を使って、映像作品も展示したいと考えている。

Q.沢山:「picture window」というくらいだから、実際の窓と同じ大きさのサイズの写真を展示しても良かったのでは?
A.原:真ん中の一番大きな写真は、実際の窓とほぼ同じサイズのもの。1枚の窓を隔てた内と外がテーマなので、このサイズは1枚のみにした。

Q.姫野:個展では映像作品も展示するとのことだが、写真と映像を両方展示する意図は?
A.原:写真は切り取った瞬間瞬間を写すものだが、映像はその瞬間瞬間が連続しているものだと考えている。写真と同じ角度から撮った映像を写真と一緒に展示することで、この作品の時間の連続性を表現できると思っている。

Q.増田:左下にある写真は工事をしている風景が写っていて、他とは違うイメージ。どのようにグルーピングしているの?
A.原:時間軸で展示していて、右上は春、右下は夏、左上は秋、左下は冬というようにグルーピングしている。左下に工事の写真が集中しているのは、この冬に前の家の工事が始まったから。

円井テトラ「あなたとわたし」

色に濃淡があるように、男女で分けられている人間の性にも階調があると考えている。自らの体を媒体として、自己や他者を認識することで実態を持たない己の核のようなものを可視化しようとセルフポートレートという形式を採用した。LGBTという言葉が認知され始め、性の多様性が広く知れ渡り始めたが、それに加えて相手や状況、外界との関係性によって性に揺らぎが生じることがあると考えている。その揺らぎやLGBTの言葉では表現できないところにこそ大切なものがあると考えている。今回は、4人の親しい間柄の人物と一緒にさまざまなウィッグをつけた写真を展示することでその揺らぎを表現した。個展では、姉と撮影した写真を展示したい。

Q.沢山:ウィッグを変えることによって、二人の関係性や性が変わるということを表現しているとのことだが、どのような構成になっているの?
A.円井:私が相手の中に入り込んだり、相手が私の中に入り込んだりすることで、二人の内面が近くなることがある。より見た目が近い時は真ん中に、遠い時は外側に。グラデーションになるように展示の構成を考えた。

Q.田中:横8点、縦4点、全部で32点という枚数を展示したのは、なぜ?
A.円井:今の段階で人物が4人だったので、縦は4枚と決まった。横はグラデーションを表現するのに最低限この数が必要だと思ったので、必然的にこの枚数になった。

Q.鈴木:今後、新しい出会いがあれば、縦の数は増えるの?
A.円井:出会いがある度に縦の数は増えるし、増やしていきたいと思っている。今は女性だけだが、今後は男性が写った作品も増やすかもしれない。

幸本紗奈「遠い部屋、見えない都市へ」

展示した作品は、これまで私が作成してきた三つのシリーズで構成した作品。一つ目の「遠い部屋」は、小説や詩など外の物事から影響を受けて作り上げた内的な作品。二つ目の「旅、合図」は、日常の中で撮った写真がメインで、遠くへ行きたいという願望を込めた作品。三つ目の「見えない都市」は、実際に姉が住む海外へ行って撮影してみた作品。そこで何か新しいものが撮れるかと期待したのだが、実際にはほどよい孤独感や浮遊感といったものしか撮ることができなかった。これら三つのシリーズのキーパーソンは、姉。今回の展示作品では人物がほとんど写っていないが、個展ではこの三つを行き来できる存在として姉を絡ませた展示を行いたいと考えていて、「見えない都市へ」のシリーズが中心となる予定だ。

Q.鈴木:シリーズのタイトル名はいつつけるの? 撮る時はどんなことを考えて撮影しているの?
A.幸本:タイトルは、撮影を終えてから考える。撮影したものを選ぶ際、言葉に引っ張られることが多いので、撮影している時はあえて何も考えないようにしている。

Q.沢山:暗くてぼんやりとした写真は内向的な印象を受けるが、それと同時に、どこかへ出かけて新しい何かを獲得しようとする二つの相反する要素がある。その関係性にはどう折り合いをつけているの?
A.幸本:もともと自分が内向的な性格なので、それが作品にも通じているのだが、写真を撮るには外へ出なくてはならない。意図的に外へ出るためという理由から、このようなテーマを設定して撮影をしている。

Q.田中:シリーズごとに展示の仕方やフレームが異なるが、どんな基準でそれらを選んだの?
A.幸本:「遠い部屋」は、自分の内面に近い写真なので、あえて家庭で一般的に使われているフォトフレームを。「見えない都市へ」は、ダブルマット額装にしているが、これは目の前にあるものをただ凝視することしかできなかったという私の状況を再現したかったから。

植田真紗美「海へ」

この作品を制作し始めたきっかけは、海へ行って写真を撮った時に、これまで感じたことのない生やエロティシズムを感じたことがきっかけ。この感覚は今撮らなければなくなってしまうと思い、海を撮り始めた。その中で、海を目の前にすると自分が一つの生命体なんだなと改めて感じることができ、スケールや時間のあり方は違うにしても、どんな生命体にも生まれては亡くなるということだけが確かにがあるのだとわかった。そうして撮りまとめた8年間の集大成が、この展示作品。個展では、今回の展示作品やポートフォリオ作品の中にない写真も含めて、8年間にあった物語の起伏を会場全体で表現したい。

Q.沢山:展示された写真は、生命力あふれる作品ばかり。人の生と死というよりは、もっと大きな意味で、海や大地の生を表現しているように見える。
A.植田:この8年間で自分の身の回りに起こったことから感じた生も表現しているが、沢山さんが言うように、海から感じたもっと大きな目線での生も表現した。単なる人間の生死ではなく、あらゆる生命体の死から生へ、生から死へと向かう物語を表現している作品にした。

Q.増田:構造上の問題かもしれないが、ポートフォリオでは物語がどんどん進んでいく感覚や、移動する感覚があった。展示でそれを表現することは難しかったかもしれないが、今回はどのような考えで展示したの?
A.植田:物語が進む感覚や、移動する感覚を表現するというよりも、生への物語というテーマをひと目で見てわかることを重視して展示を行った。

田凱「生きてそこにいて」

私が生まれ育った中国の町には油田があり、現代文明の血液ともいわれる石油が採掘されている。油田があるために豊かな町だと思われることも多いが、実際には中国では油田は国のものという考えがあり、一般的な国民はその豊かさの恩恵を受けることはない。また、掘り続けることで石油の質は悪くなっていく一方だ。今回撮影したのはこの町の風景や、油田で働く若い世代の従業員たち。故郷に帰るたびに機材を背負い、内面にある自分自身と向き合い、油田に寄り添って生きている町の人たちや風景を写す。そうすることで、故郷の在り方を記録し続けている。

Q.鈴木:どのくらいの期間、どのくらいの頻度で写真を撮っているの? その間、町の様子は変わるの?
A.田:5年ほど撮り続けていて、年に3回くらいの頻度で写真を撮っている。町の人口は極端に減るということはなく、風景も極端に変わることはない。ビルに入っていたお店が違うお店になる、といったような変化くらい。

Q.姫野:若い世代の人たちの写真を撮ることで、田さんはどのような感情を抱いているの? 最終的にはどんな方向を目指しているの?
A.田:私自身、このテーマで写真を撮り始めた時は故郷に対して、悲観的な思いを持っていたが、地元で働いている彼らはあまり悲観的ではないことが印象的だった。今後の方向性としては、ポートレート作品を増やしていきたい。

Q.増田:今回の展示は、全体的に緑がキーカラーになっている印象を受けた。それは無意識かもしれないが、展示をするにあたってまとまり感を意識したの?
A.田:緑がキーカラーになっているのは無意識だった。しかし、写真教育を受け、好きな写真家の作品を見て、そこから徐々に学んだことが反映されているのかもしれない。

 

 

講評&審議

H/N「PRIVATE VOYAGER」について

増田「ボイジャー計画と重ね合わせるのは無理があるのではと思っていたのだが、プレゼンを聞いて納得した。ボイジャー計画のゴールデンレコードも、作品も発信している側の思い通りに受け取られることは奇跡的で、コミュニケーションの仕方がボイジャー計画と近い点がある。そういう意味で、改めて面白さを感じている」

沢山「そもそも鑑賞者を人類を前提にしていないのかもしれないという点がおもしろい」

鈴木「彼のInstagramを毎日楽しみにしているのだが、今回の展示は全ての写真への思いが強すぎる気がして、本来の面白さからずれてしまっているような気がする。ある種の素っ気なさのようなものが欲しい」

姫野「新聞だけではなく人間の手が写り込んでいるところが気になった。個人的なものに変換するということがどういうことなのか、展示ではわかりにくくなった」

田中「ポートフォリオは完成度が高いし、自分の部屋の中で完結しているという制作の仕方がミニマムで、画期的。システマチックにつくられた構造が展示では揺らいでいる印象を受けた。宇宙的な写真ではなく、あえて違う素材を使う方がいいのかもしれない」

原麻里子「picture window」について

鈴木「ポートフォリオも良かったし、展示もわかりやすくて良い。ただ、裏切られる感覚がなく、安心してみていられる一方で、物足りなさも感じた」

増田「直接的な時間と季節という循環的な時間を表現するために、きちんと考えられた展示になっている。ただ、オーソドックスなまとめ方だったなと」

姫野「窓の外と家の中、その二つが混じり合っているところに心惹かれた。安定感があって良い作品だなと思う一方で、積極的に推せない部分もある」

田中「窓や家族、光、風景、オーソドックスな展示の仕方など、共感できる要素が多くある作品。その一方で、どこかに新しい発見や小さな驚きのようなものがないか期待もしてしまう」

沢山「ポートフォリオの時は一枚一枚に変化があり、めくる快感を感じられたが、展示作品はガラッと変わって定点観測的な作品になっている。観察者の位置が写真の真ん中にくる限定性があることに、ある種の新鮮さを感じた」

円井テトラ「あなたとわたし」について

沢山「彼女だけが全ての写真を同じフォーマットで展示しているために際立っていて、それだけで他の人の作品よりも頭一つ抜きん出ているように感じた。ジェンダーをテーマにしているが、それと同時に少年性や日本の漫画カルチャー的な要素も感じられる作品だ」

田中「展示されている写真と写真の間にある言葉にできないものに興味がある。多種多様な可能性に思いを巡らせられる良さがあると感じた」

増田「扱っているテーマをきちんと体現する展示構造になっているし、面白い。自己のジェンダーは人との関係性によって変わるという考え方は日本的で、日本語圏以外の人に見せたらもっと面白いと感じてもらえるのでは」

鈴木「動画ではなく、こうして写真作品であることが良い。何度見ても飽きない作品だ。横軸で見る時と縦軸で見る時でまた違った面白さがあり、非常に楽しめる作品」

姫野「説得力のある見せ方になっている。個展ではお姉さんと写った写真も登場するとのことで、姉妹ならではの複雑さなども感じられるはずなので、期待したい」

幸本紗奈「遠い部屋、見えない都市へ」について

田中「色味や濃度、写真一枚一枚が持つ雰囲気など、単純に惹かれるものがある。テーマをうまく表現できているなと感じた。彼女が考えていることも、わかりやすかった」

増田「ポートフォリオから展示作品に展開するにあたって、スムーズに広がった印象。ただ個展で展示をするとなると、謎めいた感じや儚い感じを出せるかどうか。不安半分、期待半分といったところ」

姫野「この先も見てみたい。三つのシリーズが必ずしもうまくいっているとは思わないが、凝視しようとしながら、ぼやけるような不思議な距離感が良いし、写真そのものが持っている可能性も感じることができる」

鈴木「幸本さんは撮影した写真をきちんとじっくりと見返すことで、一枚一枚分類を行っているが、その行為を見ていると、置いてかれてしまったような感覚になる。個展では、また新たなものを撮りに行きたいと言っていたが、彼女の中で何を撮るのか決まってしまっているのではないかという心配も」

沢山「リリカルで、文学的。本のカバーとかになっていたら、思わず買ってしまいそう。不安なところもあるが、個展も見てみたい。被写体があるようでないところや、見えていることが見えてないというような感覚や、彼女の野心を汲み取ってあげたい」

植田真紗美「海へ」について

姫野「撮影をした時間ということだけでなく、長い年月をかけて作られたことがわかる作品で、力強い。ただ、シンボリックすぎる写真が多い気もする」

増田「ポートフォリオでは自身の切実な状況や鬼気迫る感じがあったが、展示ではその印象が変わった。今回の展示で整理しきってしまったのではないかという印象を受け、個展ではこれを展開しなくても良いのではと思ってしまった」

鈴木「ポートフォリオは、めくる度に見どころがあり、リズム感を感じられた。あの時感じた没入感みたいなものが薄まってしまった印象だ」

田中「強い意志を感じられる作品だ。テーマも、ストレートに伝わって来る。ただし、シンボリックな写真が多く、鑑賞者はどうしても受動的にならざるをえない。これはこれで完成された作品だ」

沢山「ポートフォリオでは疾走感があり、一枚一枚の写真が叫んでいる印象だった。それが今回の展示を見て、印象がガラッと変わった。今回の展示作品は、海が生命の根源であることを嫌でも感じさせる作品になった」

田凱「生きてそこにいて」について

増田「ポートフォリオからは予想もしていなかった展示だ。良い意味で裏切られた。全体的な色合いのコントロールもできていて、驚かされた」

田中「ずっと見ていられる作品。写真のサイズやフレームのあるものとないもの、配置や距離感など、うまく表現できている。余白を感じやすい作品だ」

沢山「率直にいうと、すばらしい作品。ドキュメンタリーとしても、写真作品としても成り立っているところが特質。ポートレート作品が特に魅力的。」

姫野「沢山さんの言う通り、すばらしい作品。前々回の「1_WALL」の時に比べて、印象的な写真をあえて抜いてきていて、そこがまた良い」

鈴木「田さんの故郷は、写真を撮る理由に溢れた町。終わらないテーマであり、それをテーマにすることができた彼の才能も感じる。今後に期待できる作家だ」

19ph_1wall_report11こうして、審査員による講評が終了しました。同じ意見を持つ方、全く違う意見を持つ方など、さまざまな意見が飛び交い、今回もかなり盛り上がりました。
続いて、投票へと移ります。審査員の方には良いと思ったファイナリストを2名選び、挙げてもらいました。

投票結果

沢山:田凱・円井
鈴木:田凱・円井
田中:田凱・H/N
姫野:田凱・幸本
増田:田凱・円井

集計すると、田凱 5票/円井 3票/H/N 1票/幸本 1票という結果に。なんと、審査員全員の票が田凱さんに入る結果となりました。このまま行けば田凱さんがグランプリという流れになりますが、改めて審査員の方に再度票を入れたファイナリストに対する思いを、ひと言ずつ語っていただきました。

H/N「PRIVATE VOYAGER」について

田中「自分の部屋という小さな空間と宇宙を絡めて永続的に制作をしている行為が美しいと思い、そこに惹かれた」

幸本紗奈「遠い部屋、見えない都市へ」について

姫野「強い写真ではないかもしれないが、新しい挑戦をしていて期待できる」

円井テトラ「あなたとわたし」について

沢山「手法を一から構築しているところと、メッセージが明確になっているところが評価できる」

鈴木「彼女の考え方とできあがった作品にブレがなく、一本筋が通っているところに惹かれる。安心して見ていられる」

増田「展示作品として、説得力ある作品を見せてもらったと思う」

田凱「生きてそこにいて」について

沢山「ドキュメンタリー作品としてと、写真作品としての両立ができているところが評価できる」

姫野「故郷というものを新しく捉え直そうという感覚があって、知らない人の故郷なのだけど、なんだか自分自身の故郷への思いを呼び覚ましてくれる魅力があるように感じた」

鈴木「写真をやっていく上で対象となるものを見つける目は大事だし、そこでどう振る舞うか、撮った写真を見て、どう繰り返すかということが大切で、彼はどれもきちんと持ち合わせている。今後に期待できる」

増田「彼の作品は前々回から見ているが、少しずつ変化していて、次の個展にも期待ができそうだ」

田中「展示では、作品から本人でしか向き合えない距離感や記憶を垣間見れた。追加で撮った写真を加えた個展を見てみたい」

審査員がそれぞれ票を投じたファイナリストに対して、思いを語っていただきました。改めてそれらの意見を踏まえた上で、田さんがグランプリに決定することに異論なしということになり、ついグランプリは田さんに決定!田凱さん、おめでとうございます!

こうして、白熱した第19回写真「1_WALL」公開最終審査会が幕を閉じました。田凱さんの個展は、約1年後にガーディアン・ガーデンで開催する予定です。ぜひ、みなさんお楽しみに!

出品者インタビュー

田凱さん グランプリ決定!
自分の作品は、こういったコンペで評価されにくい作品だと思っていたので、評価してもらえて良かったです。前々回の「1_WALL」でもらったアドバイスをもとに頑張った成果が出て、嬉しい。一年後の個展では、友人たちや親しい人はもちろん、キュレーターの方や雑誌の編集者の方たちに見てもらえたら嬉しいです。

H/Nさん
これまでに奨励賞を二回もらっていますが、今回初めて展示をできたので嬉しかったです。今回の作品は自分の中では満足しているけれど、僕の作品は長く続ければ続けるほど面白くなる作品だと思っているので、10年、20年、30年と今後もこのテーマで制作を続けていきたい。

原麻里子さん
自分の写真と、じっくり向き合える貴重な時間をいただきました。自分の作品を自分の言葉で伝えなければならず、それも勉強になりました。審査員の方からもらったアドバイスは、今後の制作活動に活かしていこうと思います。自分が感じたことを大事に、作品作りをしていきたいです。

円井テトラさん
グランプリをとれなかったことは、悔しいです。でも、「1_WALL」に応募したことで今まで自分では考えたことのない見方や考え方を教えてもらえました。応募するだけで、価値があるコンペでした。今年の3月に出産を経験したので、女性としてだけでなく、母親という立場である作家として、今後も作品を発表していきたいです。

幸本紗奈さん
作品作り自体はずっとやってきたが、作品をきちんと見直して問い直す機会がほとんどなかったので、勉強になりました。普通の展示だと自分の好きなように展示をするだけですが、「1_WALL」展は審査員のアドバイスを取り入れて展示を行う、面白い展示。今後もアドバイスを取り入れて、作品作りを続けていきたい。

植田真紗美さん
みなさんのおかげで、ここまで来られました。今回の「1_WALL」に応募したことで展示もできたし、それ以上に得るものがたくさんありました。「1_WALL」は審査員の意見を聞きながら何度も成長できる貴重な場。今後も作品作りを続けていき、展示ももっとやっていきたいです。