第25回亀倉雄策賞受賞記念
1997年に急逝したグラフィックデザイナー亀倉雄策の生前の業績をたたえ、グラフィックデザインの発展に寄与することを目的として、1999年、亀倉雄策賞が設立されました。この賞の運営と選考は公益社団法人日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)が行い、毎年、年鑑『Graphic Design in Japan』出品作品の中から、最も優れた作品とその制作者に対して贈られます。
第25回となる今回は、岡崎智弘の放送局の番組コンテンツ映像「デザインあneo あのテーマ」、および三澤遥の幼稚園のサイン計画「⽟造幼稚園」がそれぞれ⻲倉雄策賞に選ばれました。
岡崎の作品は、「あ」の一文字と白い紙のみを素材とした、放送局の番組コンテンツ映像。選考委員からは「コマ撮りアニメーションというありふれた手法を深く追求し、他の追随を許さない領域に達して世界にも類を見ない」「イメージがどのような視覚体験として伝わるかというグラフィックデザインの原点を感じさせる」などと評されました。
また三澤の作品は、円筒形を駆使した立体造形と独特の配色による、幼稚園のサイン計画。「この数年、高いレベルで受賞を競ってきた三澤の仕事に共通するデリケートさを持った作品」「今回はさらに新たなデザインの切り口を発見し定着させた仕事で、表現の幅の広さを見せた」などの評価を得て、亀倉雄策賞としては初めてとなる2作品の同時受賞が決定しました。
この受賞を記念し、6月に岡崎、7月に三澤による個展を開催いたします。
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1981年神奈川県生まれ。
2003年東京造形大学デザイン学科視覚伝達専攻を卒業。
広告代理店、デザイン事務所勤務を経て、2011年9月よりデザインスタジオSWIMMINGを設立し活動。
グラフィックデザインの姿勢を基軸に、印刷物/映像/展覧会など視覚伝達を中心とした領域を柔軟に繋ぎながら、仕事の規模を問わず、文化と経済の両輪でデザインの活動に取り組んでいる。
デザインの仕事は、自分が知らない世界や事象と向き合う機会となることや、人や社会と繋がる行為となること、また世界の捉え方や構造を発見し関与することができるものであり、その可能性に大きな魅力を感じている。
https://www.swimmingdesign.com/
受賞のことば
亀倉雄策さんは私にとって本の中で出会う人です。学生時代から数々の作品や言葉と接してきました。
受賞作品の「デザインあneo あのテーマ」は、子供達に向けたテレビ番組の中のひとつのコーナーです。この世界を自分の目で見たり、何かを自分の手でつくろうとする時の、その手前にある気づきや心の有り様をテーマに、「あ」と「丸い穴」という要素のみで、視覚的な実験を積み重ねて構成したコマ撮り手法による映像です。
映像が映るテレビが置かれた部屋に生まれる空気感や、テレビの前でじっと観察する子供の姿、そのような場面と時間の中にある豊かさとは何か? と想像しながら取り組んだ仕事です。
思い返してみると、この「デザインあ」というテレビ番組の仕事が、若き日の私にとって映像をデザインするきっかけとなった初めての仕事でした。発端は、私が誰からも頼まれずに自分だけで面白がり制作したコマ撮り映像を、運良く、尊敬する「つくる人」が観てくれて、誰も知らなかった私を発見してくれたことでした。その時、「つくったものが、私をあたらしいところへと連れて行ってくれた」と、もがき閉ざされた小さな私の世界から、広大で未知なる空間へとポンと身を置かれたように感じた心の感触を、しっかりと覚えています。
それから10年ほど、この表現の探求を続けながら、様々なデザインの仕事をしていく中で、幸運にも多くの「つくる人」と出会い、沢山の影響を私自身が受けながら、時間を過ごしてきました。私のまわりにいる「つくることが好きな人達」はとてもキラキラしています。つくられた物や発せられる言葉に、私はいつも心躍る思いで反応してしまいます。「つくることが好きな人」はきっと「つくっている人」が好きなのだと思います。
亀倉雄策さんとは直接お会いしたことも、お話をさせていただいたこともありません。それでも、「つくる」ことで、様々な「つくる人」との繋がりが生まれたように、今つくろうとする自分の指先のずっとずっと延長線上の向こうのほうに、沢山のつくる人を介しながら、もしかしたら、亀倉雄策さんと繋がっているのかもしれないと、想像する機会となりました。デザイナーは、各々が個で仕事に取り組んでいたとしても、私たちに通底する大きな「つくる人の文化」に、いつだって接し繋がっているのだと感じました。そして、故人に出来なく、今生きている私達に出来ることは「つくる」ことなのかもしれません。もがいても楽しみ、つくることを続けていきたいと思います。
岡崎智弘
主催
クリエイションギャラリーG8
共催
公益社団法人日本グラフィックデザイン協会、亀倉雄策賞事務局
協力
ハンドアウト
インタビューテキスト 角尾 舞
空間
空間設計 五十嵐瑠衣
音響設計 岡 篤郎
音楽 穴水康祐(moshimoss)
作品 アニマ装置
機構設計製作 nomena(杉原寛、今村知美、武井祥平)+中路景暁
作品 スタディ動画の処理場
モーショングラフィック 西本 瑶
紙工製作 福永紙工
作品 素材標本
展示設計協力 千田みゆき
作品設営協力 千田みゆき、上田さつき、西本 瑶、中島可蓮、多摩美術大学情報デザイン学科4年宮崎ゼミより(浅野奈緒、佐藤萌香、木村和花、田中友貴、蜷川友梨、松本夏歩、萬造寺里緒、水野未涼、武藤奈々、山部瑞月)
告知物印刷 山田写真製版所
会場施工、機材協力 HIGURE 17-15 cas
亀倉雄策賞について
1997年に急逝した亀倉雄策の生前の業績をたたえ、グラフィックデザインの発展に寄与することを目的として、1999年 に遺族の寄付により創設。亀倉が設立から長く会長を務めた公益社団法人日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)に運営を一任し、毎年、年鑑『Graphic Design in Japan』出品作品の中から、最も優れた作品とその制作者を表彰する。また、「亀倉雄策国際賞」では、富山県立近代美術館で開催される「世界ポスタートリエンナーレトヤマ」の応募作 品の中から、国際性と普遍性の高い、優れた作品とその制作者を表彰する。 「いつになっても東京オリンピックの亀倉と呼ばれること」を嫌い、亡くなる直前まで「今」の仕事で若い世代と競い、グラフィックデザイン誌『クリエイション』の編集を通じて、グラフィックデザインの芸術性、本質を追求した亀倉の遺志を尊重し、普遍性と革新性をもったグラフィックデザインを顕彰していく。賞金は50万円。
これまでの亀倉雄策賞受賞者
第1回 田中一光/第2回 永井一正/第3回 原 研哉/第4回 佐藤可士和/第5回 仲條正義/第6回 服部一成/第7回 勝井三雄/第8回 受賞者なし/第9回 松永 真/第10回 佐藤 卓/第11回 植原亮輔/第12回 浅葉克己/第13回 受賞者なし/第14回 澁谷克彦/第15回 平野敬子/第16回 葛西 薫/第17回 佐野研二郎/第18回 三木 健/第19回 渡邉良重/第20回 中村至男/第21回 色部義昭/第22回 菊地敦己/第23回 田中良治/第24回 大貫卓也 ※全て敬称略
掲載書籍
年鑑『Graphic Design in Japan 2023』(2023年7月発行予定/六耀社刊/予価16,500円)