コンピュータとインターネットの普及で、いうまでもなく私たちの日常やコミュニケーションのあり方も大きく変化してきました。メディアテクノロジーの進化によりデザインやアートの領域は拡大し、多様な変化を続けています。
本展は、いまとこれからの時代を牽引する、グラフィックデザイナー、デジタルクリエイター、アーティストの作品を、同一サイズのディスプレイを用いてご紹介したいと考えています。企画には、セミトランスペアレント・デザインの田中良治氏にご参加いただきました。
「紙」と「ウェブ」あるいは「アナログ」と「デジタル」といった、メディアやテクノロジーや世代を超えた、独創的な表現者たちが競演する、初の「光る」グラフィック展です。
近年のグラフィックは紙よりもスクリーンで見かけるという人が多くなってきているかもしれないと感じます。スクリーン(デジタルメディア)のデザインはそのメディアの特性の違いもあり、独自の表現方法を開発しグラフィックのそれとは異なった発展をしています。またデジタルメディアのデザインはその技術の発達に対応することが即、新しい表現たりえた時期というのが最近まであったように思います。しかし、人の慣れの早さやネットワークを通じて共有される情報のスピードも手伝って、新しいという価値観自体が古いものになりつつあり、新しさとは違う価値観を探しはじめる雰囲気を感じるようになりました。というのも、近年、デジタルクリエイションのトレンドからは逸脱しつつも魅力的なデザインや作品をつくっている人を見かけるようになったからです。彼らの制作に向かう態度はグラフィックデザイナーのそれに近いところがあるのではと考え、この展覧会を企画しました。グラフィックデザイナーとデジタルメディアのデザイナー(クリエイター)の両者を迎え、発光しているグラフィックという共通のフォーマットで作品を制作していただきました。アナログ/デジタルという対立ではなく、思考の多様性が感じられる展覧会になればと考えております。
田中良治(Semitransparent Design)
勝井三雄
Mitsuo Katsui
「Serendipity 5」
デザインの方法論を追求するうえで、もとより先端のテクノロジーやメディアとの多様な関係性を意識していた僕は、以来、さまざまなソフトウェアによるグラフィック表現の実験を重ね、その過程で電子空間の中でしか見出せない色光の存在を発見し、「デジタルテクスチャー」と名付けた。たまたま、理化学研究所研究員の田中啓治博士による猿の脳に電極を差し込む実験で、シナプスのコラムを探求する経過の中でモニタ上に現れる現象が同一のものであることに驚かされた。
菊地敦己
Atsuki Kikuchi
「グレーフルーツ」
同じ数の白い四角と黒い四角で作られています。フラッシュするように見える現象は白黒の反転によって起ります。照度はあるけど彩度がなく、光っているけど止まっているグラフィックです。グレーな世界なので、せめてモチーフだけでも鮮やかにと思い、フルーツを選びました。
佐藤可士和
Kashiwa Sato
「FROM THE SUN TO THE EARTH」
太陽から地球までの距離 約1億4960万km
太陽から地球までの光の到達時間 約499秒
光速 299 792 458 m/s
光には「色」だけでなく「速度」という概念もあった。
新津保建秀
Kenshu Shintsubo
《frame / camera obscura》(2006-12)
自身の個展「\風景+」(2012)の記録アーカイブから任意に選択された映像インスタレーションからの画像データ。ヒルサイドテラス内にあるアトリエのガラス窓を透過した外光がネットワークを介してリアルタイムにストリーミングされ、敷地内の別棟にある展示室の壁面へ投影されたものを記録した作品。ネットワーク上の情報空間を新たな“カメラオブスクーラ(ラテン語で暗い部屋の意)”として捉え、端的に例示した試み。
仲條正義
Nakajo Masayoshi
「目が回る?」
地球が回る、パチンコの玉が回る、外野にてんてんとボールが転がる。ふんころがしが糞を回して巣に運ぶ。正しい球体の回し方はあるのだろうか。
中村至男
Norio Nakamura
「Submarines」
この作品面から発光した光は、あなたの目に届くまでにおよそ0.00000000334秒(※)かかるので、見ている作品は、つねに少し過去のものということになります。
見ているものが過去ならば、いま見えていても、光の元はすでに消えてなくなっている可能性だってあり、見えているかぎりその可能性は永久に否定出来ないのです。とっくに存在しない星が今まだ輝いているように。(※1m離れて見た場合の計算)
服部一成
Kazunari Hattori
「メアリー」
コメント準備中
Vier5
フィーア・フュンフ
“o.T.”, 1997, 2014
ノーコメント
勅使河原一雅(qubibi)
Kazumasa Teshigawra
「hello world」
「密集したホットケーキの穴は、やがてくっつき合い、一つの大きな迷路を造りだす。」
hello worldは、プログラミングによって全てのアニメーションをリアルタイムに生成していく映像作品です。テーマは境界。まるで生き物のように、時には機械のように変容していくその営みの光景を、私たちは只々、見守るだけなのです。
2010年に発表され今日まで改良を重ねてきたhello world。ここでは、2013年秋、臨済宗建長寺派常福寺にて公開されたバージョンをお楽しみ下さい。
中村勇吾
Yugo Nakamura
「50%」
「白50% 黒50%」の比率で構成したモーショングラフィックです。「点灯50% 消灯50%」の比率で構成した動く光源、ともいえます。空間的、時間的な配合が変わっていくことで多様な見え方が生じますが、全体としての光量は、常に50%を保っています。
二艘木洋行
Hiroyuki Nisougi
「梨」
僕がいつもお絵描き掲示板で描いている絵は、いつでも光ってるグラフィックです。光ってるが故の恩恵はそこまで感じたことはないですが、たまたま光る絵を描いていて、このような機会に呼んでいただけて、大変光栄に思っています。今回の展示では毎週木曜日を更新日とし、新作をアップロードしていきます。なおhttp://nisougi.tumblr.comを光るグラフィック展二艘木洋行の展示室とし、最新投稿を展示ディスプレイと同期させています。
萩原俊矢
Shunya Hagiwara
「いくつかのヴァージョン」
インターネットではいろいろな時間・場所で次々に出来事が発生し、それはいろいろなアプリケーション・端末を通して人々に伝わります。そんななかでのデザインには、複数の見え方をまたぐことのできるルールを作る面白さがあります。
本作で、幅1080ピクセル・高さ1920ピクセルの画面内に作られた6つの領域は、会期(38日と9時間)をかけて1ピクセルずつ埋めるようプログラムされています。与えられた領域の大きさによって時間の流れや形状は少しずつ異なっていますが、それでもそれぞれは同じルールの中で共通の目的に向かっているのです。
渡邉朋也
Tomoya Watanabe
「画面のプロパティ」
人間は基本的に光が無ければ対象を視覚的に認識することができません。ゆえに視覚的な作品は外部の光を反射するなり、自ら光を放つ必要があります。そうしたことを踏まえつつ、〈光ること〉それ自体が目的化するに至るグラフィックというものを考えたとき、コンピューターのスクリーンの機能低下を防ぐとともに、人間の目を楽しませる〈スクリーンセーバー〉のことが思い浮かびました。
Kim Asendorf
キム・アセンドルフ
「ストローク・ウォーターフォール」
「ストローク・ウォーターフォール」は、キムの古典的ピクセルソートのアルゴリズムを、新しいC++(openFrameworks)で実行することによって作られた作品である。ソフトウェアによりピクセルソート処理がリアルタイムで閲覧可能となり、画像が、各行、列ごとにどのように変化していくかを見て取ることができるようになる。実行内容には、色調、彩度、輝度、明度、16進数(HEX)、RGB値、そして閾値を同一のオプションでソートするという操作が含まれる。ソートは範囲を任意選択し、その度に選択された範囲のプロパティを変更するという手法で行われる。ピクセルのシフトを繰り返すことにより、多様なソートパターンを作り出すことができる。
ラファエル・ローゼンダール
Rafaël Rozendaal
「Neo Geo City .com」 (2014)
Neo Geo City .com は果てしなく広がる抽象的な都市である。 都市はどこへ行こうとも四方に延々と続いていく 建物は色鮮やかで、どれ一つとして窓はない。 照りつける太陽が影を落とし、ジオメトリックな構図をもたらしている。
出品作家
CMYK(グラフィック)
勝井三雄 菊地敦己 佐藤可士和 新津保建秀 仲條正義 中村至男 服部一成 Vier5
RGB(スクリーン)
qubibi 中村勇吾 二艘木洋行 萩原俊矢 渡邉朋也 Kim Asendorf Rafaël Rozendaal
主催
クリエイションギャラリーG8
企画協力
田中良治(Semitransparent Design)
協力
株式会社東芝
Takuro Someya Contemporary Art
TALION GALLERY
プロフィール
勝井三雄 Mitsuo Katsui
グラフィックデザイナー。1931年東京生まれ。東京教育大学卒業。グラフィックデザイン全般をはじめ、大阪万博、つくば科学博のAD、今年1月にはgggにて、これまでに手がけたブックデザインや新しい映像作品を展示。日宣美賞、毎日産業デザイン賞、講談社出版文化賞、東京ADC会員賞、芸術選奨文部大臣賞、亀倉雄策賞やワルシャワなど各国の金賞やグランプリを受賞。JAGDA理事、東京ADC、AGI会員、武蔵野美術大学名誉教授。
菊地敦己 Atsuki Kikuchi
アートディレクター。1974年東京生まれ。武蔵野美術大学彫刻科中退。2000年ブルーマーク設立、2011年解散。同年、個人事務所設立。ブランド計画、ロゴデザイン、サイン計画、エディトリアルデザインなどを手掛ける。とくに美術、ファッションに関わる仕事が多い。また、オルタナティブ・ブックレーベル 「BOOK PEAK」を主催し、アートブックの出版を行う。作品集に『PLAY』(誠文堂新光社)がある。
佐藤可士和 Kashiwa Sato
アートディレクター/クリエイティブディレクター。博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブンジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。 慶應義塾大学特別招聘教授。著書はベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日本経済新聞出版社)ほか。http://kashiwasato.com/
新津保建秀 Kenshu Shintsubo
1968年東京都生まれ。写真家。映像とフィールドレコーディング、ネットワーク上のデータによる制作を行う。自身の作品に加え、さまざまな企業、建築、電子音楽、非線形科学、情報デザインなど他領域との恊働のなかで多くのプロジェクトを手掛ける。作品集:『Rugged TimeScape』(池上高志との共作、FOIL、文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦作品)『Spring Ephemeral』(FOIL)、『\風景』(角川書店)。関連書籍:『建築と写真の現在』(TNプローブ)『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1』(ゲンロン)など。
仲條正義 Nakajo Masayoshi
1933年東京生まれ。1956年東京芸術大学美術学部図案科を卒業後、資生堂宣伝部、デスカを経て1961年仲條デザイン事務所設立。主な仕事に40年以上にわたった資生堂『花椿』誌、またザ・ギンザ/タクティクスデザインのアートディレクション・デザイン、資生堂パーラーのパッケージデザイン、東京銀座資生堂ビルのロゴタイプ及びサイン計画、松屋銀座、スパイラル、東京都現代美術館、細見美術館のCI計画、『暮しの手帖』表紙イラスト等。
中村至男 Norio Nakamura
アートディレクター/グラフィックデザイナー。日本大学藝術学部卒、ソニー・ミュージックエンタテインメントを経て独立。PlayStation「I.Q」、アートユニット「明和電機」のグラフィックデザイン、雑誌『広告批評』(1999年)、携帯電話サイト「うごく-ID」、NHKみんなのうた「テトペッテンソン」、「勝手に広告」、絵本『どっとこどうぶつえん』など。NYADC銀賞、文化庁メディア芸術祭優秀賞、東京ADC賞、東京TDC賞、ボローニャ国際児童図書賞など受賞。
服部一成 Kazunari Hattori
グラフィックデザイナー/アートディレクター。1964年東京生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。ライトパブリシティを経てフリーランス。おもな仕事に、「キユーピーハーフ」の広告、雑誌『流行通信』『here and there』『真夜中』、三菱一号館美術館のロゴタイプ、「拡張するファッション」展のグラフィック、中平卓馬写真集『来たるべき言葉のために』のブックデザインなど。作品集『服部一成グラフィックス』。
Vier5 フィーア・フュンフ
Vier5の作品は、デザインの古典的な理念に根差している。それはビジュアル・コミュニケーションの分野における、新しく、進歩的なイメージを、いかに描き出し、作り上げるかという可能性という意味におけるデザインだ。作品では、これまでにない新しいフォントを使ったデザインに注力している。Vier5(フィーア・フュンフ)の作品では、空虚なビジュアル表現をなくし、それに置き換わる形で、既存媒体やクライアント向けに、独自のクリエイティブな文言(ステートメント)を開発し、入れ込むことを狙いとしている。
勅使河原一雅(qubibi) Kazumasa Teshigawra(qubibi)
アート・ディレクター/ウェブ・デザイナー
http://qubibi.org/
中村勇吾 Yugo Nakamura
ウェブ・デザイナー、インターフェースデザイナー、映像ディレクター。東京大学工学部を経て1998年よりデザイン活動を開始。2004年にデザインスタジオ「tha ltd.」を設立。以後、ウェブサイトや映像のアートディレクション、デザイン、プログラミングの分野で活動を続けている。主な仕事にユニクロの一連のウェブ/映像ディレクション、KDDI 「INFOBAR」のUIデザイン、NHK ETV「デザインあ」映像監修など。
二艘木洋行 Hiroyuki Nisougi
1983年生まれ。お絵描き掲示板のペイントツールで描いたデジタル作品や、他に類を見ないペインティングやドローイングによって注目を集め、特異な存在感を放つ。主な展示に”VOCA 現代美術の展望”上野の森美術館(2014/東京)、”きみは河合卓”TALION GALLERY(2013/東京)、”現代絵画のいま”兵庫県立美術館(2012/兵庫)、”インターネット アート これから”Inter Communication Center(2012/東京)などがある。
萩原俊矢 Shunya Hagiwara
1984年生まれ。ウェブ・デザイナー。2012年、セミトランスペアレント・デザインを経てセミ・セリフを設立。ウェブ・デザイン、ネット・アートの分野を中心に幅広く活動し、同時にデザインと編集の集団クックトゥ(http://cooked.jp)や、映像ユニットflapper3としても活動している。CBCNETエディター。IDPW正式会員として第16回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門新人賞を受賞。
http://shunyahagiwara.com/
渡邉朋也 Tomoya Watanabe
1984年東京都生まれ。山口県在住。主にコンピューターやインターネットを使って、映像やインスタレーション、ソフトウェア、書き物などを手がける。主な展覧会に「redundant web」(2010年)、「transmediale 2014」(2014年)など。思い出横丁情報科学芸術アカデミー非常勤講師、インターネット・リアリティ研究会会員、IDPW正会員。
Kim Asendorf キム・アセンドルフ
キム・アセンドルフはメディア、デジタル関連アートの分野において広く活動を展開しているコンセプチュアル・アーティストである。インターネットと実世界との間で、さまざまな物事を行き来させる手法を強く好んでいる。これまでに手掛けたいくつかのネットアート・プロジェクトでは、インターネットから取得したデータや、インターネットを介してその他の個人から収集したデータを基にした例が多くある。生成戦略、フィジカル・コンピューティング、データ、グリッチを用いた非常に実験的な作品作りが特徴だ。作品にはインスタレーション、彫刻、ビジュアライゼーション、抽象幾何学様式の形を取るものが多いが、アプリケーション、GIFアニメーション、あるいはノイズ音声による作品もある。2010年、キムは、画像の処理過程において生まれる独特なアルゴリズムイメージを「ピクセルソート」と名付けた。
ラファエル・ローゼンダール Rafaël Rozendaal
1980年オランダ生まれニューヨーク在住。ブラジルの大統領だった曽祖父、画家の父、ファッション・ジャーナリストの母の間に生まれる。インターネットを拠点に、ドメイン名も含めたウェブサイト全体を一つの作品として制作し続けている。象徴的な色彩感覚とユニークで遊び心溢れるインタラクションやアニメーションで主に構成されている。現在は、また新たな試みとしてレンチキュラーペインティングシリーズを発表し絵画作品で開いたあらたな境地が高い評価を得ている。近年の主な展覧会として、「セカイがハンテンし、テイク」(川崎市市民ミュージアム、2013)、「The-URL-Project」(LA MOCA museum、2013)、
2014年2月21日から3月31日まで「光るグラフィック展」(クリエイションギャラリーG8、銀座)に参加している。http://www.newrafael.com/