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プレステ用ゲームソフト「ぼくのなつやすみ」のキャラクターデザインについて

ポップだけど、親しみやすい絵
実はこのゲームは99年の夏に出る予定だったんです。話がきたのは97年の終わりで、98年の夏前にはキャラクターを渡していました。しかし、発売のタイミングや、プロモーションの準備のために、2000年に出そうということになったんです。ほんとにじっくり時間をかけてみんなでつくったという感じですね。きっかけは、 ゲームデザイナーからの電話。ポップなんだけど、全部がおしゃれっていうわけじゃなくて、たまたま見たカラオケの絵でもちゃんとはまっちゃうようなところがいいなって思ったそうです。また、ちょうどその頃、 「キレイキレイ」のCMも流れていて、「ああ、3Dになっても大丈夫だ」って。この仕事、彼の独立して最初のゲームだったので、必死に売り込みに回ったらしんです。そしたら、ソニーの人が10分で決めてくれたって。でも、そんなこと言われても、私はゲームは全然しないし……。このゲームが本当にいいのか、当たるのか、全くわかりませんでした。ただ、その人の熱意はすごく伝わってきましたね。それまでゲームのキャラクターってアニメのようなものが多くて、私みたいなのはあまり無かったでしょ。 私のキャラクターがそういうところで通用するんだったらぜひやってみたいなって思ったんです。

キャラクターはみんなが育てていくもの
登場人物のキャラクター設定は割と細かくあったので、ほとんどは最初の絵で一発OKでした。ひとりだけ、おじさんのキャラクタ ーを、自分のイメージをふくらませて、長髪、バンダナのヒッピー系に描いたんです。75年で、陶芸家で元文芸誌の編集者っていう設定だったから。そしたら時代性が出過ぎるからもっと普通にって。紙の仕事ってそれでフィニッシュじゃないですか。でも今回は、渡した後で人の手が加わるでしょ。私のキャラクターを上手にかわいく使ってくれたらいいなって。ゲーム上ではボクくんの足が短くなってたりするんですが、多少バランスが変わったとしても、ニュアンスを外してなければいいと思ってるんです。どうしても2Dから3Dになると変わる部分ってあるし。セリフがついたり、性格付けされたりしてキャラクターが育っていくのは、普段のイラストレーションとは違った面白さがありますね。ソニーのホームページでもどのキャラクターが好きとか話題になったりしてるんです。いままでにない反応が新鮮でした。私の絵が好きでという人と、ゲームからとの双方向から入ってきてくれたことが嬉しいですね。

「ぼくのなつやすみ」が社会現象に
ゲームソフトって試作の段階でお蔵入りしちゃうものや、出ても1万本売れないものってすごく多くて。だからこれが13万本売れたのはすごいことで。テレビもNHKから12チャンネルまで、あらゆる局で取り上げられて、ちょっとした社会現象として扱われたんです。ズームイン朝とニュースステーションには私も出演したんですが(笑)。最初は大人向けのゲームとして作られたものだったんですが、やがて子供もやるようになって、それが親子の会話につながったり、実際に虫取りに行ってみようってなったりしたんですね。私は砧公園の近くに住んでるんですが、その頃、虫取り網を持ってる子を随分見かけました。私の場合、ストーリーを読んでからゲームをしたのですが、結末に泣いた人も結構多かったらしいです。

ひとつひとつの仕事を大切に
私が高校生の頃、大橋歩さんとかが「平凡パンチ」などで活躍されていて、憧れの存在でした。でもイラストレーターってどんな 仕事かよくわからなかったんですよね。絵を描くのは好きだったし、洋服を描くことも好きだったんですが、そういう勉強をどこでしたらいいのかわからなかった。そんな時にセツ・モードセミナーの紹介記事が「an・an」の前身みたいな雑誌に紹介されていたんです。ああ、こういう絵が描きたいなって思って、親にも相談せずに決めました。今思えば、何も知らずに飛び込んでいったのがよかったのかもしれません。セツでは割と評価してもらって、学校の紹介でやったのが最初の仕事、「週刊平凡」でした。「夏休み・愛と性の相談室」という、モノクロのペン画の挿絵。高卒の女の子のお給料が3万円位のときに、モノクロを5点描いて1万5千円で。イラストレーターってすごいなって思いました(笑)。始めたばかりの頃は仕事がくるのが嬉しくてどんな仕事でもやりました。それが勉強になったし、今、どんな仕事でも対応できるっていう自信につながっている気がします。イラストレーターって好きなものだけ描いていればいいっていう仕事じゃないですよね。注文に応じて、クライアントの意向も汲み取り、かつ、自分の描きたいものも表現して、成立する仕事だと思うんです。それに仕事って本当に思いもよらないところからくるんですよね。このゲームもそうなんですが。だからひとつひとつちゃんとやらなくちゃいけないなって、ますます肝に命じています(笑)。

上田三根子

長沢節主宰のセツ・モードセミナー卒業。広告、雑誌、書籍、絵本、TV番組タイトルバックなど子供向けから大人向けまで、仕事のフィールドは広い。PS用ゲームソフト「ぼくのなつやすみ」シリーズ、LION 「キレイキレイ」シリーズキャラクター。