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KDDI TV-CM広告制作裏話 ADC展トークショーより

最初は軽い断わりモードだった
中村 まず、このキャンペーンの立ち上がりなんですが。
佐々木 ちょうど一年前、暑い夜にこの仕事が入ってきたんです。「KDDIという会社がありまして……」って聞いて、なんか字余りみたいな名前だなあって思いました。通信系はあまり詳しくなかったし、別の撮影も入っていたので、僕も最初は軽い断わりモードだったんですが……。10月1日に合併する会社の広告で9月のシドニーオリンピックに流すCMから始めたいという。既にもう普通じゃありえないスケジュールでしたね。

困っている自分をCMにしちゃえばいい
中村 最初のCMが「出演交渉篇」。豊川悦司さん、永瀬正敏さん、浅野忠信さんを起用したのはなぜですか?
澤本 僕は、スケジュールからいってタレントはなしにしようって言ってたんですけど。佐々木さんがどうせなら日本で一、二番のビッグなタレントを使おうって言い出して、翌日には決まってたんですよね。だけど、時間もなかったし、タレントも内容にこだわる人たちで。かつ、「KDDとDDIとIDOがひとつになってKDDIになりました」ってことを言えっていう無理なパズルのようなことを渡されて困っちゃって……。だったらもう自虐的だけど困っている自分をCMにしちゃえばいいやって思いました。
中村 僕らの仕事は制約があればあるほど大変ですが逆にそれを生かして面白くできる場合もあります。これはうまくいった例じゃないかなと思いますね。

佐々木さんを起用したのはなぜ?
ところで永瀬君の時に口うるさい上司役として佐々木さんを起用したのはなぜ?
澤本 一番耳障りだからです(笑)。実際、オンエアされた時も、日曜にオリンピック観てたら不快になったって、電通の社員からクレームが出たりして。実はほかの声も全部電通の社員です。このCMでは固定された絵の中で、どれだけ音で面白いものを伝えるかということを考えて、声の素材にはこだわって、特徴的な人を選びました。実は佐々木さん役はプロのナレーターを一応呼んでいたんですが、佐々木さんの方が嫌な感じが5倍くらいあって(笑)。CMの最後で「大体お前、言ってることは立派だけど企画つまんない……」ってセリフも佐々木さんのアドリブです。そんなアドリブあるかよって思いましたけど(笑)。
「追跡篇」については「伝わってる?」っていう言葉を使おうって考えたことから始まっていて。通信会社のCMだから単純に自分の思っていることを人に伝えるっていう王道のコピーを一個つけて、じゃあ何が一番伝わってないかなって考えた時、これが浮かびました。警官と泥棒が追いかけっこをしている時にどんなことを考えるかなって。撮影では、豊川さんと警官役の柳ユーレイさんに、二日間走ってもらいました。豊川さんが「もう限界だ」って顔をあげるカットなんか、ものすごくリアル。最初のうちは余裕で走ってたんですけど、そのうちだんだん泣きが入ってきて、もう走れないって顔で訴えるようになった時、演出の石井克人さんが「これを待っていました!」って。なんてひどいディレクターだって思いましたけど(笑)。石井さんは人をリアルに描くことが上手だし、それを誇張するのもものすごくうまいんです。

あんまり考えないでポーンといったほうがいい
佐々木 澤本君には、ナイキみたいに、あまりごちゃごちゃ言わなくてもカッコイイCMにしたいと言っていたんです。実際、KDDIは好きなことやってるねとか、ちょっとやりすぎなんじゃないのっていうのも含めて、賛否両論の反応があった。新しいことをやった感じはあるのでドキドキしましたし、評判は気になりましたけどね。
中村 でもよく企画が通りましたよね。
佐々木 逆に時間が無かったのが幸いで。こういうときはあんまり考えないでポーンといったほうがいいんじゃないかと思ったんです。NTTと同じようなことをやってもしょうがないし、中村君の「とにかく実行せよ。」「No.2だからヤンチャできる。」っていうコピーはその通りだなっていう気分があって。プレゼンの場でも「これでいきましょう」っていう雰囲気で我々もびっくりするぐらい提案を そのまま受け入れてもらえました。No.2って自分で言っちゃいませんかとか、合併で混乱していることをそのまま見せちゃうのはどうでしょうか、っていうような、多少乱暴なプレゼンでしたが、僕らが思っていることを正直に言ったことがクライアントにも分かってもらえたんじゃないかと思いますね。

ステレオ効果
中村 CMと新聞などのグラフィックの連動についてはどう考えていたんですか?
佐々木 「ステレオ効果」って自分で言ってるんですけど、右ではTVが面白いことやって、左ではグラフィックが挑戦的な言葉の銃撃。それがすごくうまくいったような気がしています。TVもシリーズもので繋がってやるよりは、一本一本が面白ければ自由にやっていいんじゃないかと思いました。ただクライアントは大変だったと思いますけどね。
中村 最初のプレゼンの時から佐々木さんが言ってたのは、人気の「セ・リーグ」に対抗して「パ・リーグ」なんじゃなくて、僕らは「Jリーグ」を作るんだって。そのぐらいの飛び方というか発想が必要だということが、クランアントもすごく納得してくれて、僕らも仕事がやりやすかったんですよね。ところで佐々木さんは、このキャンペーンをやっていて、やめたいなと思ったことはないんですか?
佐々木 ほとんどないですね。よく考えてみると面白いからやっちゃおうって、焚き付けていたのはいつも自分自身だったりして。本当はまとめなくちゃいけない役なんですけどね。この仕事を結構面白がっていたし、第二位を応援するっていうのが僕自身好きなんですね。

佐々木宏/澤本嘉光/中村禎