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ミスチル、MISIA、ピチカート……数々のCDジャケットをデザイン

ミスチル ベスト盤
「MR.CHILDREN 1992-1995」「MR.CHILDREN 1996-2000」
プロデューサーの小林武史さんとの打ち合わせで、とにかくわかりやすいのがいいねって話になったんです。ベスト盤のジャケットって例えば、「MR.CHILDREN 1992-1995」って入っていればタイトル文字だけでも成立しちゃうでしょ。通常のアルバムはコンセプトから入ったりするんだけど、ベスト盤はもっと雑食的なものだから、ビジュアルの自由度が高いものです。もともと2枚出すのは決まっていたので、白盤、赤盤とか言葉で簡潔に言えるものがいいなと思った。そのとき小林さんが「たとえば骨と肉とか?」って言ったので「それいい! いただき!」で決まっちゃった(笑)。小林さんとはお互い理解しあえているからいつも奇跡的にうまくいくんですよね。打ち合わせも1回で終わっちゃうような。サイを起用したのは、小林さん側からの提案だったんですが、滅びゆく恐竜とサイのイメージが重なって、ミスチルのベスト盤として面白いと思いました。骨は大学で所有しているところがあって、サイは撮影用の動物を扱うプロダクションをあたって。撮影は半日ぐらい。今回の苦労といえば被写体のサイ探しでしたね。

MISIA「MARVELOUS」
イメージは「MISIA CITY」。MISIAはある国のおてんばなお姫様で、レトロフューチャーなビルの上空を鉄腕アトムのように飛んでいるんです。それで、ビルでかっこいい場所はどこだろうって考えて思いついたのが、ブラジルの首都、ブラジリアだった。撮影を終えて、合成の段階で、滝の上にビルを置いてみたらそれがかっこよくて。隆起している大地の上だけ隔離された世界に太古の恐竜がいるようなことを思いついたんです。 「ロスト・ワールド」みたいなね。MISIAは魂に触れるような、そういう歌を目指していると思うんですね、ビジュアルでもそれが表現できればいいかなと。単にグラフィカルなかっこいいものよりも一枚の写真でいろんなストーリーが感じられたり……。こういう(ジャケットをさして)後光が差すみたいな、ちょっと巫女っぽい感じが彼女にはありますよね。

発想は直感、インスピレーションから
ビジュアル作りは曲のエッセンスを聞いて、イメージをふくらませます。でも音楽を説明するだけのビジュアルだったらつまらないと思うんですね。例えば音はすごい普通のポップスなんだけど、ジャケットはハードコアなものだと、実際にCDを聴いてみたときに違う聞こえかたをするんですよ。なんか毒があるのかなとか。違う化学変化が起きるものだから基本的にはそういうことが好き。 発想はわりと直感的ですね。この人はこういう服が似合うなとか、何かに似てるなとか、一瞬の第一印象から発想することが多い。例えば、MISIAに初めて会ったときにちっちゃいなとかスピリチュアルな感じがするなとかね。そういうのって一瞬誰でも思うんだけど、すぐに消えちゃうものでしょ。それをパッとつなぎ止めておくんです。モノをつくる人にとってはそれが大事だと思う。それは見た瞬間に何を連想するかっていうことなんです。実はうちの入社試験はこれなんです。「これを見て何を連想しましたか」って。

シンボリックなジャケット作り
僕は音楽が一番好きだから、まず、その音楽を良く聴いてもらうためにはどういうビジュアルが必要かってことを考える、優しいタイプのデザイナーです(笑)。最近は自分のやっていることがだんだんシンプルになっていくような気がしますね。骨と肉じゃないけど、言葉としてバシッと言えるビジュアルがいい。ミスチルの「優しい歌」も岩が浮いてるやつね、って言葉として置き換えられるジャケットは、やはりシンボリックだと言えるんです。シンボルマークを作るみたいな気持ちでビジュアルを作っているような気がします。 作品数は多いけど慣れじゃないかな。逆に言えば一年に一作、作る方が難しいと思いますね。アイデアが出なくなった時は一遍にいろんな本をたくさん見る。写真集とかデザイン本とか。

ちっちゃな発明が好き
特殊パッケージをいろいろ作ってますが、動機はCDが登場してからデザインの面が小さくなっちゃったから、単純に考えるとつまんないじゃないですか、それをいかに面白くするかなんですよね。子供がおもちゃを買ってうれしいな、みたいなシンプルな動機の実現ていうか。シールが入ってたり、組み立てられる何かがあったり、そういうことを考えるのが楽しくて。透明なトレイにデザインを入れたのも、ピチカート・ファイヴで僕が最初だったんです。それまでのCDトレイは黒とか白の色がついているものだったんですよ。透明のトレイも存在していたんだけど、アイドル用のピクチャーディスクをパッケージの裏から見えるように使われていた。その透明トレイは生かしつつ、トレイの中にビジュアルを入れて見せるっていう形式を考えたんです。それがいつのまにか世界標準になっちゃった(笑)。 僕はちっちゃな発明が好きかもね。町の発明王みたいな、そういう気質はあるかもしれない。父親がわりとそういう人だったんです。画家をやっていたり、新しい乗り物の設計図を描いていたりね。 それに僕自身、おしゃれで洗練されている人だと思われるのはすごく嫌なんです。粋に生きることがすごい重要なことで、根本はかっこいいことをしたいんだけど、かっこつけるのは恥ずかしい。お江戸な感じなんですよね(笑)。

信藤三雄