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イベントレポート:オープニングパーティー 

2018.1.31 水

前日の大雪から明け、まだ雪の残る1月23日(火)、「グラフィズム断章:もうひとつのデザイン史」オープニングパーティーを開催しました。展覧会の企画・構成に携わったみなさま、参加デザイナーのみなさまをはじめとした、多くの方々にお越しいただき、新たな交流も生まれ、終始賑やかなパーティーとなりました。

パーティーのご挨拶は、アイデア編集部・編集長の室賀清徳さんから。

「今回の展覧会はいわゆるグループ展や企画展とは違っていて、ひとつのプロジェクトであり、その現在進行形を見せるものです。その背景としては大きくふたつのきっかけがありました。

ひとつは、グローバルなデザイン文化と日本の関係です。私と後藤さんは00年代末からヨーロッパや東アジアの国際デザインイベントでよく顔を合わせていましたが、そこで共有されている「グローバル」なグラフィックデザインの文脈やマインドセットと日本のそれらのあいだに、大きな断絶があることを実感していました。この両者の断絶やそのあいだをつなぐ視点について現代のグラフィックデザイナーが考えを巡らせる場を生み出せないかと考えていました。

もうひとつのきっかけは、そのような議論の足場となるデザイン史についての議論です。2020年東京五輪に向けて高度経済成長を支えたグラフィックデザイナーの歴史があらためて注目されるようになりました。この状況は逆説的に「戦後デザイン」という枠組みがひと区切りしたことを示しているように思います。単純にその物語を再話するだけではなく、再解釈したりそこに盛り込まれていない文脈をとらえたりする時期に来ているのではないか。

そんなことを考えていたところに、G8さんのご協力があり企画が実現へと動き始めました。準備を進めるなかで主旨に賛同してくれたデザイナー(おもに団塊ジュニア世代)が加わっていき、彼らとの議論を通じて具体的な構成が固まっていきました。20世紀日本のグラフィックデザイン史を批評的に捉える今回の企画が、亀倉雄策氏と関係の深い場で開催できたことに不思議な縁を感じます。

現代は圧倒的な情報のなかであらゆる領域が断片化され、私たちは互いのつながりを失いつつあるように思います。自分たちにパスされたものを他者へと生産的にパスしていくことの連続が文化や歴史をかたちづくるのだとすれば、このプロジェクトがグラフィックデザインについてそのような機会のひとつとなれば幸いです。」

続いて、室賀さんと共に展覧会の企画に携わった後藤哲也さんから。

韓国の「タイポジャンチ」というタイポグラフィビエンナーレやチェコの「ブルノ国際グラフィックデザインビエンナーレ」に関わった経験を通じて、「展覧会」というフォーマットを、美術のものとは異なるデザイン的なアプローチで行うことができるのではと考えるようになりました。

この展覧会は議論を生む場になればと考えています。ただ見てもらう展示ではなく、読んで考えてもらうことで意見を取り交わし、これからの『アイデア』の紙面を作っていくような展覧会になってほしいと思います。」

次に、展覧会の構成に関わり、今回の告知物のデザインもご担当いただいた橋詰宗さん。

「『アイデア』との出会いは父の本棚にあったのがきっかけで、若い頃から室賀さんとも交流がありました。

60年近く続く『アイデア』を、1から考えるのではなく、蓄積の中で何を考えられるかを意識しました。
告知物のビジュアルでもある「白紙のアイデア」というイメージは、何か出来上がったものを展示したり、すでに起こったことを記録するものではなく、「何か」がきっかけになって、形作られていくこれからの経過が展覧会になれば、逆転構造になって面白いのではないかと思って作りました。

会期中はたくさんイベントもあるので繰り返し見に来て欲しいです。」

同じく、構成に関わった加藤賢策さん。

「今回のお話をもらった時はとんでもない企画だなと思いました(笑)

自分は今40代になってグラフィックデザインをやっていますが、学生の頃、伝説を作ったグラフィックデザイナーの先人たちを前に、羨望と断絶を感じていました。当時は自分と先人たちを接続する意識がありませんでしたが、今回をきっかけに再解釈して展示することができました。伝説を伝説で終わらせないために、有意義な場ができたと思います。

年表に少し空きがあるように、ある種の余白を残して考える場になればと思います。」

同じく、大原大次郎さん。

「展覧会の前日、雪の中、まるでファミレスに集まって宿題の答え合わせをする学生のようでした。『アイデア』主催の、勉強部屋のような展覧会になっていると思います。

なかなかデザイン史に残ることのないデザイナーの迫力やふるまいを間近で感じられました。同時に、これまでの影響やその熱量を客観的に言葉で書くことは内面を晒すことのようでもあり、難しい課題でもありました。

それぞれのデザイナー、テキストがエキサイティングなのでぜひ読んで欲しいです。」

「これまでのグラフィックデザインから考える13の断章」参加デザイナーの方々にもご挨拶いただきました。こちらは中野豪雄さん。

「数年前の『SDレビュー』という雑誌のなかで、歴史認識を問う座談会があって、今回はその対談を思い出しました。大量の参考資料を抱えながら、様々な文脈を意識しながら一つの文章にしていくのは、アウトプットが高度になるので、今回だけで終わらせずに、今後も続けていくべき宿題だなと思いました。」

続いて川名潤さん。

「普段は装幀をやっているので、「グラフィックデザイン」というと少しアウェイに感じるのですが、デザイン史のことはいつも頭の隅にあり、考えてきたことでした。展示は、考えてきた中でメモを残し、そのメモを中心に、覚書を付け加えるように年表を組み立てました。」

千原航さんから。

「今回の展覧会は重要で意義のあるものと理解したのですが、テーマが決まるまでは学生時代の卒業制作を思い出して辛かったです…。しかしなぜデザインに興味を持ったのかを問い直す良い機会になりました。

今まで所謂日本のグラフィックデザイン正史と接続している意識は特にありませんでした。今回改めて歴史を捉え直す作業として、自分の関心事をあげていき、その点をつなぐことで90年代以降に個人がデザインをするようになった源流的なものを提示できないかと考えました。会場に来た人それぞれが新たに文脈を考えはじめるような、議論のきっかけとなる展覧会になるといいなと思います。」

田中良治さんからも。

「普段はウェブサイトをデザインしているので、他の参加デザイナーのみなさんのように身体的な方法で、センス良くまとめる自信がなく、テキストをメインにする見せ方を考えました。

自分がウェブサイトを見てデザインを志したという、ほかの人とは違う背景から、学生時代に熱心に見ていたものという個人的なものを提示することで、90年代後半のデジタルベースにしたデザインのリアリティや空気感を伝えられるのでは考えました。

普段自分が見ているものはRGBなので、図版もウェブサイトで掲載しています。ウェブサイトも見ていただければと思います。」

最後に、大西隆介さん。

「展示の構想を考えるにあたり、グラフィックデザインの歴史を意識しながらも、いかにそこから逸脱した視点をこの現在の私たちに提示できるかを考えていました。デザインのデザインは避けたいのと、もっと大きな視点で歴史を横断しようと考えていたからです。

私の展示は、縄文から現代までを文化人類学的観点と社会的事象とをつなぎ、土着性と根源的なものに注目して構成しています。ビジュアルだけで捉えてしまうと、奇妙なものが集まっている印象を受けると思いますが、その根底には私たち日本人が考えざるを得ない問題が浮き彫りになってくる筈です。ぜひテキストもあわせて読んでもらえればと思います。」

展覧会は2/22(木)まで開催しております。
また、会期中の週末には様々なイベントを開催いたします。