雑誌の連載
今連載しているのは、週刊誌は『AERA』、月刊誌では『美的』、『VoCE』です。 『AERA』は、「都市伝説」っていうコラムの挿画。毎週水曜か木曜に記事の内容を聞いて、金曜にラフを渡して、 月曜には納品しています。伝説なのでミステリアスな話もありますが、基本的に暗くならないようにと編集部から言われていて、 あとは自由に描いています。A5ぐらいのサイズで5時間くらいかかる。背景はペインティングで、人物とか主役をコラージュで作っています。 コラージュは雑誌をカッターで切って、糊で貼る。紙質のいい『VOGUE』や『ELLE』とかよく使います。他には、 ゼクシィの季刊誌『パーティウェディング』で2ページ。もう3年くらいやってるけど、ずっと読んでる人はいませんよね(笑)。 これは私には珍しく線画に色をつける方法でやってます。最近は線画の仕事も増えてきたので、うまくなってきたかな。 線画、ペインティング、コラージュとか、あまり気にしないで自分の気分で描けば自分の絵になるかなって。 いろいろ描くようになって仕事の幅も広がったような気がします。単発の仕事では、小説の挿画や芝居や映画のチラシなど、 物語の雰囲気を想像して描くことが楽しくて、サスペンスでもそのちょっとした怪しさを色で表現していくところがすごく好きです。
アートグッズ作り
2、3年前に、アーティストのグッズを扱っているお店に、イラストをプリントしたクッションのような人形を手作りして置いてもらったんです。半分遊びで、半分作品作りのような感覚で。それを見たスタイリストさんが雑誌に取り上げてくれたことがきっかけで仲良くなり、イラストをプリントしたテキスタイルの洋服やバッグなどをCHEESEというブランド名で発表するなど広がりました。密かに人気があって、代官山のセレクトショップや大阪のgrafという家具&アートショップでこつこつと新作を発表しています。平面的なイラストレーションが立体になって、生活に入り込んでいくところが楽しいですね。ジャンルにこだわらないで、もの作りをずっとやっていきたいなと思ってます。遊びがないと出会いの広がりができないですからね。
OLの小道具作り
高校まで宮城、そのあと上京して横浜美術短大に入りました。卒業後は、フジテレビ系列の美術制作会社に入って事務をやってました。普通のOLだったので、習い事の気分で会社の裏にあったセツ・モードセミナーに通って絵を描いてました。
会社は美術制作といっても、番組のセットのデザインの他は衣装や大道具を外部に発注する仕事。で、小道具とか発注するまでもない作りものが結構あって、絵を描くのが好きな子がいるからって、ちょこちょこ頼まれてました。ドラマに出てくるお弁当のパッケージとか、夏休みの宿題とか。実はヒット商品があって、ドラマ「コーチ」の“サバカレー”や、「踊る大捜査線」の“カエル急便”も私なんです(笑)。だんだん頼まれるのが多くなってきて、それをやりながら、自分の作品を作って『イラストレーション』誌の公募「ザ・チョイス」に10回くらい出し続けました。やっと入選したと思ったら、いきなり東京シティ競馬とか大きな仕事が個人的にくるようになった。これが自信に繋がって、思い切って独立しました。それから一年後に、OL時代の貯金がなくなる前にと思って、約3ヶ月ヨーロッパ旅行。スペイン、フランス、イタリア……と回って、何百枚も外国人のスケッチをして、それから絵が変わりましたね。それまでのちょっとユーモアのある画風から、今のスタイルになった。会社にいた時の狭い視野と、外に出て世界中のアートにふれたあとの視野はやっぱり違いましたね。
今回の展覧会「空気」
初めての個展は会社に勤めていた時。フジテレビから花が届いて、なんかすごく仕事している人みたいだった(笑)。最初は仕事が来ることが嬉しくて個展をやっていたけど、最近はちょっと違う。作品を作っている時が一番自分らしいかなと思うので、忙しいんだけど年に一回はちゃんとやりたい。今仕事があるのは、流行っているだけかもしれないし、流行はいつか廃れてしまう……。新しい作風や今やっていきたい事を発表していかないと、どんどん流されてしまうような気がして。今回の展覧会では、40〜80号の大きなキャンバスに絵を描いてます。個展で大きい作品だけを発表するのは初めて。コラージュの人物の大きさは今までと同じなんですけど、背景をもっと広々と描いてみたら、画面が大きくなった。今までは人が主役だったけど、今回は全体の空間が主役。前回の個展では、テーマやシーンを具体的に設定して描いたんですけど、今回は縛られずに自然に描きたいなと。結構内面的なものが出ちゃっているかもしれません。この絵は道が二手に分かれていたりして(笑)。あとは、鉄工アーティストとコラボレーションしてイスを作っています。ギャラリーでゆっくり座って見て欲しいですね。
奥原しんこ
1973年宮城県生まれ。横浜美術短期大学、セツ・モードセミナー卒業。
番組美術制作会社を経て97年よりフリーランス。
URBANART♯2入選、第15回ザ・チョイス年度優秀賞受賞、第13.16回『ひとつぼ展』入選。
主な仕事は雑誌や書籍、広告、CM、WEB、パッケージなどのイラストレーション。
2004年「KU U KI」、2008年「眠る人」、作品集を出版。
日本を中心に米、仏、伊、韓国など国内外の展覧会やアートフェアにて作品を発表。
主な個展:
2002年「eyes and nose」Gallery ROCKET,(東京)
2004年「空気」ガーディアン・ガーデン(東京)
2008年「眠る人」SCAI THE BATHHOUSE(東京)、atlantica gallery, Viecenza (伊)
2009年「花嫁の手紙」H.P.FARANCE WINDOW GALLERY(東京)
2012年「そのつづき」書肆サイコロ(東京)、2013年「おちこち」hase(名古屋)
2014年「La promenade」MEISON'S ART(大阪)
スタイリスト飯嶋久美子と共にプロデュースするファッションブランドCHEESE mongerではテキスタイルデザインを手がけるなど、幅広く活動中。プライベイトの作品では日常の小さなできごとや旅のことなどを描いている。