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溢れてしまった母への思いを過去と現在の写真を織り交ぜて表現

亀裕里子さんは1年前の審査会で、「家系図を顔写真で作ろうと思った。それは私が幼い頃に亡くなった母の死を考え、問いかける作業だった……」とプレゼンテーションしました。審査員の方々は、「話を聞いて物語性を感じた」「大きなテーマで気持ちが揺れた」「すごくプライベートなものを映像化する作業だが、写真のクオリティもよかった」と、心を動かされ、亀さんが見事グランプリを獲得しました。写真という媒体を通して、幼い頃に亡くなった母親と向かい合おうとしている亀さんに、このテーマにいたるまでのいきさつをうかがいました。

人が好き
写真に興味を持ち始めたのは中学生の頃です。HIROMIXさんとか若い女性写真家が注目され始めた頃で、その写真を雑誌で目にしたり、写真集を見たりしている中で、自分でも撮ってみたくなって。この頃好きだった写真家は長嶋有里枝さんや荒木経惟さんです。花とか身近にあるものから撮り初めて、慣れてからは友達を撮るようになりました。もともと人に興味があるので、写真学科に入った大学生時代も人物の写真を中心に撮ってました。今も結婚式場のフォトグラファーとして毎日たくさんの人と向かい合っています。

顔に興味を持って
大学2年生の時に川で練習しているボート部の高校生を撮らせてもらったんです。この顔写真の目や鼻をパーツごとに切って、コラージュしたら誰でもない顔ができあがったのがおもしろくて。その頃から人の顔に興味を持ち始めたのかもしれません。3年生の時に担当教授の土田ヒロミさんが、小原健さんの『ONE』という写真集を見せてくれたんです。ニューヨークやマンハッタンで撮影された顔だけのポートレイトの写真集でした。それがきっかけで大阪で知らない人に声をかけて、顔だけを100人撮らせてもらいました。それまでは人を撮るのは好きでも、なかなか声をかけて撮れなかったんです。この作業は人と対峙する練習にもなりました。今回の作品に、親類の顔の写真で家系図を作ったものがあるんですが、親戚が集まった時に、親兄弟が似ているのがおもしろくて。みんな少しずつ似ていて、他人も混じり合いながら細く長く続いている血縁の連鎖を表現できたらなと思ったんです。

母への手紙
顔写真の家系図を作ろうと思ってから、親戚の人たちに、写真を撮らせてくださいって手紙を出しました。断られたこともありますが、あまり会ったことがないのにみんな温かい人たちで。写真を撮りに向かう道すがら、親族というものについていろんなことを考えるようになりました。自分はどこからきて、なぜ、ここにいるのか。そのことから、私が子供の頃に亡くなった母を意識しはじめました。同時期に母が自死であったことを聞き、写真を撮らなければという衝動が抑えられなくなりました。母に手紙を書くような気持ちで写真を撮ることで、母への思いを消化していきたいと思ったんです。でも知らなかった母の人柄や母が読んでいた本などを見つけて、そういうひとつひとつが嬉しくて……。今回の個展で、自分の気持ちに整理をつけられればいいなと思っています。

亀裕里子

1982年静岡県生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業。フォトグラファー。