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新しい表現をもとめ、空間に切り絵をインスタレーションする

『ひとつぼ展』をリニューアルした「1_WALL」のグラフィック部門で、第2回グランプリを獲得した早崎真奈美さん。ロンドンを中心に、切り絵によるインスタレーション作品を制作しています。「1_WALL」展ではダーウィンの『種の起源』をテーマに空間を巧みに活かした展示を行ない、「コンセプトがしっかりした完成度の高い表現」「デザイン性も高く『1_WALL』的」と評価を受けました。「切り絵のインスタレーション」という手法についての考えや今回の個展に向けての意気込みなどを伺いました。

海外での制作活動
京都の大学では日本画を専攻していたのですが、しだいに古典的な考えや手法に縛られて絵を描くのとは違う、コンセプチュアルアートや現代美術の自由な表現に惹かれるようになりました。そこで、もともとヨーロッパへの憧れもあり、イギリスの美大の卒業展を見てまわり、「自分のもっている美術への先入観を取り払おう」と留学を決めました。ロンドンでは、いろいろな作風をもった同級生や後押ししてくれる先生と学校という恵まれた環境で学生生活を送りました。イギリスの学校の良いところは、課題が与えられることがなく作品制作が自由にできたり、学部の垣根を越えてお互いの設備を使えたり、作品の完成度よりもコンセプトやアイデアが重視されることです。卒業後はアルバイトをしながら作品制作をしています。卒業制作展を見たロンドンのギャラリーが私の作品を気に入ってくれて、主にそこを介して作品を発表しています。いまは今回の個展のために帰国していますが、その後はまたロンドン戻りたいと思っています。また、この個展をきっかけに、日本や他の国での活動にも挑戦していきたいです。

切り絵のインスタレーション
切り絵をはじめたのは、小学校中学年の時に卒業生へのプレゼントとして栞を作ったのがきっかけです。ラインが綺麗に見えるところや、裏に貼る紙で雰囲気ががらりと変わるところが面白くて。ロンドンに留学する頃には、少しずつ作品として切り絵を作っていたのですが、まだ現在とは違うイラストレーション的な平面作品でした。日本では切り絵は工芸のイメージが強くて、美術としてはまだまだ認められていません。私はそんな先入観に縛られない、技法として切り絵を使って新しい表現をしたいと思うようになりました。ロンドンでは日本ほど切り絵が浸透していないので、平面的な私の切り絵は先生たちには評価されませんでした。そこで実験的にいろいろなタイプの切り絵を作っていくうちに、空間にオブジェとして存在する立体の切り絵の面白さを発見しました。すると、それまでの切り絵の裏に色紙を貼っていた色の取り入れ方が合わなくなり、黒単色の作品が多くなりました。

今回の個展について
数年前にイギリスで人気のあった展示に、コンクリートの地面に大きなヒビを作った作品がありました。私は阪神大震災を経験しているので、実際の災害でできたヒビに比べたら、安易に跨いだり手を入れたりできるようなヒビはたいしたものではないと思いました。でも後から作品を思い返して、人種差別や民族・宗教の隔たりといった人間が意図的に生み出したヒビに関連させて、自分なりの解釈を広げることができることに気付きました。どういう美術作品が成功かと断定するのは難しいけれど、やはりこの作品のように、見た人がその作品をきっかけにアイデアを巡らせることができるものが成功ではないかと思います。私の作品が目指すところはそこです。アメリカの美術家、ソル・ルウィットが「基本のコンセプトはシンプルなほうが成功する」と言っています。私も見る人が自由に発見して考えることができる余白を残しておきたいので、多くを説明せずに伝わる最小限でいいと思っています。
今回の個展は「庭」がテーマです。庭は、家という内側でもない、他者の敷地という外側でもない「どちらつかず」な場所です。私たちは「自分とは本当はどういう人間だろう?」と悩んだり、人の目を気にしたり、じつは自分の内も外もよく分からないのではないでしょうか。そんな曖昧さを「庭」の「どちらつかず」な部分に重ね合わせて表現しています。鑑賞者には、ひとりひとりの自分の「庭」を想像して考えてもらいたい。そして、私がヒビの作品で感じたように、アイデアを自由に広げていってもらえたら嬉しいです。

これから
海外で暮らしていく中で、ありのままの自分を意思表示していきたいという欲求が生まれてきています。未熟で弱い部分も含めてです。作品を作ることについても、以前はなぜ作っているのか分からない、コントロールが効かないことがありました。でも今は、この作品は自分のどういうところから出てきたのか、何を考えていたから出てきたのか、自己分析できるようになってきました。また、たくさんのアーティストの展示を見たり、自分でも展示を経験していくうちに、モノとして作品が残っていくことよりも、見た人の中に記憶や経験のような形のない何かとして伝わっていくことのほうが大事なんだとも思うようになりました。美術は人間にイマジネーションを与え、人生をより豊かにしてくれるものです。自分の言葉できちんと説明ができる私らしい美術表現を発表していくことが、多くの人のために役立つと信じています。

早崎真奈美

1980年 大阪府出身
京都市立芸術大学美術学部日本画科卒業
チェルシーカレッジオブアート&デザイン、BA ファインアート卒業
第2回グラフィック「1_WALL」グランプリ受賞

主な個展、グループ展:
2014年 「Drôle de Mérage 二つの月と太陽」山本史 × 早崎真奈美二人展、GALERIE CENTENNIAL、大阪
2013年 「After Closing the Curtain」居留守文庫、大阪
2013年 「岐阜と宇宙民藝」なうふ現代、岐阜
2012年 「早崎真奈美」個展、ギャラリー16、京都
2011年 「Dear Unexpected Visitors ー親愛なる予期せぬ訪問者様ー」 GALERIE CENTENNIAL、大阪
2011年 「Dear Unexpected Visitors ー親愛なる予期せぬ訪問者様ー」 ガーディアン・ガーデン、東京
2010年 「Rose-Eaters ばらくい」刊行記念原画展、SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS、東京
2010年 「遊芸三昧」3人展、国際奈良学セミナーハウス旧世尊院、奈良
2010年 「第2回グラフィック「WALL」」 ガーディアン・ガーデン、東京 
2009年 「イノセント・ガーデン」個展、ロング&ライルギャラリー、ロンドン
2009年 「シーズ・オブ・ザ・ワイルド」グループ展、パフィンルーム、ニューヨーク
2008年 「マテリアルワールド」グループ展、バーツギャラリー、ロンドン
2008年 「ドリーム・ヘリックス」個展、ロング&ライルギャラリー、ロンドン

プロジェクト:
ホテルグランヴィア大阪26F、Art Works Project @ KCUA

掲載:
PHP スペシャル「光のある場所、影のある場所」連載
PHP スペシャル増刊号「Mille」掲載