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公開最終審査会レポート

2016.10.5 水

ようやく暑さが和らぎ、秋らしくなってきた10月5日(水)、今年2回目となるグラフィック「1_WALL」の公開最終審査会が行われました。「1_WALL」は、一次審査、二次審査を通過した6名のファイナリストが一年後の個展開催の権利をかけて思い思いにプレゼンテーションを行い、その場でグランプリを決定するコンペティション。これまでに審査員により可能性を見出されたアーティストたちを数多く世に送り出してきました。今回は、「1_WALL」の前身である「ひとつぼ展」でグランプリに選ばれ、アートディレクター、アーティストとして第一線で活躍し続けるえぐちりかさんが、審査員として初参加。はたして、どんな新しい才能に巡り合えるのでしょうか。第15回グラフィック「1_WALL」公開最終審査会の様子をお伝えします。

FINALISTS
影山紗和子、クロカワ、片岡亮介、角川みなみ、しげのみゆき、梅丸いつか
※プレゼンテーション順

JUDGES
えぐちりか(アートディレクター/アーティスト)
大原大次郎(グラフィックデザイナー)
白根ゆたんぽ(イラストレーター)
大日本タイポ組合 塚田哲也、秀親
室賀清徳(『アイデア』編集長)
※五十音順

進行
菅沼比呂志(ガーディアン・ガーデン プランニングディレクター)

審査会当日、会場では審査員による作品チェックが行われ、辺りにはピンと張りつめた空気が漂います。続々と一般見学者たちも集まり、今回も会場は大賑わい。そして、いよいよファイナリストたちが作品のプレゼンテーションを行う第15回グラフィック「1_WALL」公開最終審査会のスタートです。

プレゼンテーション&質疑応答

影山紗和子「地獄ちっく」

壁の手前にあるロール状のイラスト作品は、一日のストーリーを40mある絵巻物にして、手動で回して見ることができるような仕掛けを施しました。テーマは自分なりの動的平衡です。生き物の細胞は絶えず入れ替わり、一分後には違う自分になっている。そこがおもしろいと思っていると同時に、たとえ悲しいことがあったとしても、それは変化の中の流れでしかなく、それでも自分として生きていかなければいけないということは、ある意味“地獄”だと思います。個展では、イラストで壁全体を覆い、アニメーション作品も展示する予定です。

白根:日常が“地獄”だと言っていたが、それは楽しい“地獄”なの? 色はポップだけど、けっこうグロテスクな表現も多くみられたり、その辺りの意図は?
A.影山:どちらかというと楽しい“地獄”。でも、楽しいとか悲しいとかはあまり区別をしていません。グロい表現もあります。意図があるわけではなく、自分が楽しいから描いています。

Q.秀親:作るのにだいぶ時間をかけたと思うが、どのくらいの時間がかかった? 制作し始めた時と完成間近では、気持ちは変わってきた?
A.影山:絵を描くことで3か月間くらいかかりました。やはり、制作し始めた時と最後の方では心境が変わっていきました。絵の描き方も少しずつ変わっていったと思います。

クロカワ「Hand?」

「“手”を思い浮かべてください」と突然言われたら、決まったひとつのポーズを思い浮かべるかもしれないけれど、“手”は常にさまざまな動きをし続ける変幻自在のすばらしいかたちです。そんな魅力的な“手”をきちんと見つめ直し、普段あまり意識することのない日常の動きをテーマに半立体作品を制作しました。個展では特定の誰かの“手”を想定し、質感の違いが出るような立体作品も作りたいと思っています。

Q.塚田:今回の展示作品は、ポートフォリオ作品のサイズよりもかなり大きな作品だが、うまくいったと思う?
A.クロカワ:展示ではサイズが二倍になり、半立体という新しいチャレンジもしました。素材が変わったことで苦労しましたが、描き込みはポートフォリオ作品になるべく近づけるよう、下地などを工夫しました。

Q.室賀:“手”の表現をイラストや半立体作品にするにあたって、参考にしたり影響を受けたりした作品やアーティストはいる?
A.クロカワ:特定のアーティストや作品が、あるわけではありません。ただ、日本画に描かれている女性の白くてふっくらした“手”が好きで、それに影響を受けていると思います。

片岡亮介「BAD BUT NOT BAD」

タイトルは“必要なくても良いじゃんね”という意味です。そんなことを意識しながら、ボクシングをモチーフに制作しました。右側にある大きな作品は、画像検索をイメージしたもの。ある単語でヒットした画像を描き、関連画像をさらに描くということを繰り返していくと、モチーフ同士に関係性が生まれます。そこから新たな価値が現れるのを表したいと思って作りました。鑑賞者にもそういったことを考えながら見てほしい。個展では、この会場をリングに見立ててボクシングの試合のように、何かワクワクするようなことが起こる展示にしたいです。

Q.菅沼:個展では、具体的にどんな作品を作るの?
A.片岡:会場全体を使って、インスタレーション作品を作る予定。今回の作品でも挑戦したが、タオルをかけることで図像が歪むという日常の発見を作品として発表したいと思っています。

Q.白根:タオルのように壁に展示している作品は、なぜ布ではなくてクラフト紙にしたの?
A.片岡:布にするよりも、あえて紙素材を使って、それを布に見立てた方がおもしろいのではと思ったからです。

角川みなみ「家」

“家”には、住人のこだわりや執着が現れていると思います。今回は、その“家”に対してのこだわりのひとつ、色やかたちへの執着をテーマに作品を制作しました。私の好きな色、好きなかたちを組み合わせた想像上の“家”の絵を描き、そこに住む人を想像しながら制作した立体作品と合わせて展示しました。個展では、“家”以外にも街にある建物だったり橋だったりも作り、展示したい。

Q.秀親: 個展では、“家”以外のものも作ると言っていたが、それでひとつの街を作るの?
A.角川:展示を見に来てくれた人に街を作ってもらうワークショップはやってみたいですが、展示は別で一つ一つを見てもらいたいと思っています。

Q.えぐち:色使いやかたちに焦点を置いているようだが、たとえばガラスで立体作品を作るとか、素材に関しても何か挑戦はしないの?
A.角川:今回の家は、最初に絵を描いた時に紙がふさわしいと思ったので、紙で制作しました。だけど、個展ではいろんな素材を使った作品作りをしたい。たとえば、橋を作るからといって単純に木で作るのではなく、橋には使わないような素材で作ってみるということをやってみたいです。

しげのみゆき「SABAKU COMICS」

自分がおもしろいと思わなければ人にも伝わらないはずだから、深いことは考えずに、気の向くまま自分がおもしろいと思う作品を作りました。日常でワクワクしたこと、ハッとしたこと、ムッとしたこと、ドキドキしたこと、悲しかったこと、嫌だったことをイラストで表現。鑑賞者には、あれこれ考えずに素直に見てほしいです。個展でも、今回の展示のように、ドーナッツを食べながら片手間で描いているような、ラフなイラストを会場中に展示したい。

Q.えぐち:イラストを描いた後に、やっぱり良くないからと作品に加えないものもある? 普段は一日のほとんどを、イラストを描くことに費やしているの?
A.しげの: 描いてみて、おもしろくないなと思ったものは作品には加えません。描くのは、大体悲しいことがあったり、嫌なことがあったりした時。なので、一日中イラストを描くことはなく、一枚も描かない日もあります。

Q.塚田: イラストを描く時には、その度にテーマやトレンドがあるの?
A.しげの:この展示の作品を作っていた時には、“お弁当”が私の中のトレンドでした。“お弁当”の仕切りが漫画のコマ割りに似ていると気がついて、今後もたくさんお弁当を描くかもしれません。

梅丸いつか「よみよみの國」

あの世ともこの世ともいえない“よみよみの國”がテーマです。“よみよみの國”は、故人が生前に最も美しいと感じた情景を、あの世からの使者である“よみよみちゃん”が創造する世界です。私にとって大切な人が亡くなったことがきっかけで、故人が心地よく成仏してくれたらという願いを込めて作品を作りました。個展では、それぞれの壁面に一体ずつ“よみよみちゃん”を配置し、そのまわりに関連するイラストを描いて会場中を“よみよみの國”にしたい。

Q.白根:壁に後背のようにテープを貼ったことで、4枚で一つの作品という見せ方だが、その意図は?
A.梅丸:制作の際に曼荼羅をヒントにしていて、創造する時に後光がさすというのを具現化しました。

Q.大原:基本的には、デジタルで作品作りをしているの?
A.梅丸:はい。印刷物だからこそ表現できるものを研究してきたので、今回もほとんどの工程をデジタルで行っています。印刷にもこだわり、二種類の印刷方法を使って出力しています。でも、出力した後に加工を加えたのは、今回の新しい試みのひとつ。

ファイナリストそれぞれの個性が光るプレゼンテーションと質疑応答の時間が終了。休憩をはさんで、いよいよグランプリ決定のための審議へと入ります。この時点で予定よりも一時間押し。

まずは、審査員一人ひとりにファイナリストの作品について感想を語ってもらいました。

影山紗和子「地獄ちっく」について

大原「彼女の作品は、始点と終点がわからないのが特徴で、ある意味一本筋の通った作品だ。自分はそんな風に作品を作ることができないので、とても心惹かれるものがある。」

白根「作品がロール状になっていて、それを手動で回して見させる仕掛けは、現在のメディアの枠にとらわれない新しい可能性をもった作品だと思う。作品の内容や絵のタッチからも彼女はどこまでも描けそうな印象を受ける。その才能に期待したい。」

塚田「個展ではアニメーション作品を展示したいと言っていたが、今回展示されているロール状の作品と壁面の作品共に、静止画でありながらそれを目で追うだけで既にアニメーション作品としても成立しているのではないかと思う。マット紙の質感もマッチしていて完成された作品だ。」

秀親「イラストの量が圧倒的に多く、そこは評価したい。彼女が何を伝えたいかはよくわからないのだが、描いた量がすごいので、そこから世界観が伝わってくるような気がする。」

えぐち「彼女なら、どこまでも進化していけそうだ。二次審査から展示まで少ししか時間がないのにここまで作り込んできたことを評価したい。量だけでなく、ひとつひとつの絵を見ても細かく丁寧に描き込んでいて、可能性を感じる。」

室賀「緻密な世界をきちんと自分で読み解いて、イラストに落とし込むことができている。古いお寺にある地獄絵図の絵巻物のように、楽しんで観ることができた。新鮮で明快な作品でありながら、単純ではない深い何かがある。」

クロカワ「Hand?」について

白根「二次審査のイラストではなく、半立体に作り直してきたところが評価できる。質感が変わったことで、紙に描いていた時よりきれいになったところはよかったが、同時に弱点も出てしまったような気がする。」

塚田「“手”をモチーフに作品を作り始めた理由が、手の“形”そのものや動きに魅了されたことだったのだから、それを展開するにあたって半立体にするかしないかという物質的なことよりむしろ、たとえばクロッキーをするなどで、手の“形”をもっと追究してほしかった。」

秀親「一生“手”を描き続けてもいいのかもしれない。今はまだ不器用なところがあるが、ひとつのテーマを徹底して描き続けていけば、そこから何かおもしろいものが生まれるのではないか。」

えぐち「私も『ひとつぼ展』でグランプリをとった当時は、ガラス製の“卵”ばかりを作っていたので、彼女のことは応援したいと思っている。たとえ、ひとつのテーマでも、バリエーションはいろいろと広げることができるはず。でも、彼女の作品はまだ途中段階だ。」

室賀「“手”を半立体化させたところがおもしろい。でも、方向性が定まっていないので、今は“手”が持っている道具の基準がばらばら。それを整理することができたら、もっとよかったのかもしれない。」

大原「半立体の作品にしたのはいいが、塚田さんの言う通りクロッキーなどにも挑戦してもいいのかもしれない。方向性を探りきれていないようだ。」

片岡亮介「BAD BUT NOT BAD」について

大原「彼の伝えたいイメージは、話を聞いてなんとなくわかったが、鑑賞者にある程度読み解く力が求められる難解な作品だ。彼のキャラクター性も魅力があり、作品のひとつとして成立している。」

白根「彼がやりたい、伝えたいと思っていることを実現させるには今の何倍もの働きかけが必要だ。もっとはじけた作品の方が、彼のキャラクターには合っているのかもしれない。テーマも良かったので、それを伝えるためにいろいろなことに挑戦してほしかった。」

塚田「当初やりたかった素材の布そのものの展示ではなく、クラフト紙に手描きのイラストを使ったところが作風とも合っていて良い。描かれている絵が関連画像のように展開されているということであるのなら、その見せ方も同様に思いきって展開していったら良いのでは。」

室賀「関連画像かどうかと言われれば、僕はそうじゃないと思うんだけど、でもそういう説明の合わないところも含めて、ある意味清々しさをあたえてくれた。」

えぐち「彼の持っているキャラクターはいい。本人のファンになって票を入れたくなるが、作品自体は頭でっかちな印象を受ける。もう少し客観性を持って自分の作品を見つめ直してみては。」

秀親「彼は、彼にできることを全てやりきれたかと言うと、やりきれていないようだ。少し薄っぺらい印象を受ける。バカだな、というのは褒め言葉。そんな風に言われるものを作っていってほしい。」

角川みなみ「家」について

白根「稚拙さも見られるが、全体的にいい。でも、展示方法、作品点数をもうすこし検討してもよかったのかと思う。個展では架空の街ごと展示するくらいのことをしてくれたら、すごそうだ。」

塚田「二次審査での審査員の意見を受けて、今回の作品を作り直したというその努力は認めるべき。平面と立体どちらも手抜きをせずに丁寧に作っていることで、タイポロジー的な作風がより際立っている。」

秀親「ディテールまできちんと仕上げられていない出品者が多い中、彼女は細部まで手を抜かずに丁寧にもの作りをしている。この細かさに、鑑賞者はハッとさせられるのではないか。」

大原「淡い色合いの彼女らしい色は、照明によってだいぶ見え方が変わってくる。個展をするなら、そこまで計算に入れて作品作りをしてほしい。」

えぐち「彼女の持つ色彩のセンスや、ありそうでない作品のスタイルに惹かれる。でも、まだ自分の持つ力を最大限出し切れていないようだ。」

室賀「色彩やかたちがテレビゲームみたいなんだけれど、リアルさもある。家に住む住人の物語を考えるよりも、色やかたちにもっと焦点を当てて突き詰めていってもいいのかもしれない。」

しげのみゆき「SABAKU COMICS」について

白根「審査員であるこちら側が、試される作品だ。自分の作品を鑑賞者にどう見せたいかという意識が感じられる。今回の展示をやったことで彼女自身発見したものがいろいろありそうなので、今後に期待したい。」

秀親「やっていることはおもしろいし、彼女の感覚もいいし、イラストも好きだ。本人のキャラクターと一緒に売り込むのもありではないか。」

塚田「彼女の作品を一次審査、二次審査、そしてこの最終審査と見続けているうちに、すっかり慣れてしまい当初の新鮮味や新しい発見の気配が薄れてしまった。彼女独自の作風であるとしても、それにすら既視感を感じるのだろう。」

大原「最初に彼女の作品を見た時よりも、レベルがアップしていて展示もいい。このよさを発揮できる場所はなかなかないので、今後がどうなるのか心配な部分もある。」

えぐち「一冊1,000円くらいで作品集を売っていたら、買いたいなと思わせてくれる作品だ。でも、一日中この絵を描き続けていてこれがないとダメ、というようなタイプだと思っていたので、描かない日もあるというのは意外。」

室賀「驚きが感じられないと塚田さんが言うように、同じような作品が今までになかったとは言い切れない。でも、いつの時代もそういう一派みたいなものがあるのが日本のグラフィックデザイン。その中で、自分なりの個性を出していけばいいのでは。」

梅丸いつか「よみよみの國」について

白根「色や質感がとてもきれいだ。主線のラインの処理は惚れ惚れするくらい。曼荼羅を意識したというのであれば、作品の内容、テーマからするともっと”仏教”を前面に出してもいいのかもしれない。」

秀親「宗教的なイメージばかり深く追究していくと、少し心配だけれど、もっとテーマ自体を深掘りしてもいいかもしれない。」

塚田「二次審査で見た、“雲”や“雨”をモチーフにした作品が純粋にグラフィックデザインとして心地良いと思っていたので、今回はそれらがないのが残念。鑑賞者によっては、キャラクターの“よみよみちゃん”に対して好き嫌いが出てきてしまうかも。」

えぐち「私は“よみよみちゃん”が好き。今回の展示もすごくきれいで、惹きつけられた。だからこそ、個展で“よみよみちゃん”をひとつの壁に一体ずつしか配置しないのはもったいない。彼女の世界観が会場中に溢れるところを見てみたい。」

大原「彼女は“死生観”について考えているようだ。それは、この6人の中ではただひとりだけだし、これからも作品作りを続けていってほしい。」

室賀「彼女にとって、これはこれで完成された作品なのかもしれないが、もっと可能性を追い求めて作品を作ってほしかった。それと、“よみよみちゃん”押しなのか、世界観押しなのか、そこをどうしていくのか方針を固めていってほしい。」

審査員の方からの鋭い意見や感想が飛び交いました。そして、いよいよ投票へと移ります。まずは、審査員ごとにファイナリストの中から上位2名を選びます。

投票結果
大原:影山・片岡
えぐち:影山・しげの
室賀:影山・しげの
白根:影山・しげの
大日本:影山・しげの
集計すると、影山 5票/しげの 4票/片岡 1票という結果に。

影山さんが審査員全員からの票を獲得。それに続いてしげのさんも、4票を獲得しました。そこで、片岡さんに票を投じた大原さんに片岡さんの作品に票を入れた理由について語ってもらい、続いて、その他の審査員の方々にも影山さん、しげのさんに票を入れた理由を語ってもらいました。

片岡さんについて

大原「客観性がないとの意見もあったが、彼なら今回の審査会でのアドバイスを踏まえて今後変わっていきそうだ。個展でそれを見せてくれるのではと期待して票を入れた。」

影山さんについて

白根「今回、消去法で選んだ結果、影山さんとしげのさんに。この2人は、作品に対する思いを惜しみなくまわりに見せてくれるところがある。特に影山さんは、今までにない作品であること、作品の圧倒的な量や制作スピードを評価した。」

塚田「先にも話したとおり、静止画でありながら、既に一種のアニメーションとしてじゅうぶんに鑑賞に値する完成度の高さを評価している。そしてそれを実際にアニメーションとして動かすとの事で、はたしてどうなるのか、見てみたい。」

秀親「いい意味でも悪い意味でも、ハンドルを回して作品を見させるという仕掛けを設置することで、鑑賞時間を長くしているところがすごい。」

大原「彼女が持つ時間の捉え方が、独特で新しさを感じた。それと、造形的、構造的な意味でもきちんと完成されていて評価できる。」

えぐち「今回の審査基準で言うと、彼女は文句なし。新しいことにも挑戦しているし、作品と真剣に向き合っているし、オリジナリティーも追求している。もしも、海外の美術館とかでこの作品を見たとしても、評価されている作品なんだろうなと思える作品で、圧倒的な存在感を放っていた。」

室賀「いろいろと良い部分がある。特に“時間”というものに対して向き合い、それを表現した作品はこれまで数多くあったが、その中でも“時間”に対しての捉え方が、彼女の作品は頭ひとつ分くらい飛び抜けているのではないかと思う。」

しげのさんについて

えぐち「ひとつひとつのイラストが、どれもツボだった。あまり考えていないと言っていたけれど、それで良い。見た瞬間に欲しいと思えるかどうかが、大事だ。いい意味でも悪い意味でも先が見えず、だからこそ彼女の可能性にかけてみたい。」

秀親「今回のスタイルを、この先続けていけるかどうかというところが心配ではある。でも、おかしなことをやっているのに、全体的にバランスが取れているところはすばらしい。」

白根「似ている作品が他にもあるという指摘があったが、例えば“お弁当”という題材に絞り、“お弁当”のイラストだけを100個描くというようなことをやるだけでも見る人の印象は変わってくると思う。彼女の可能性に期待したい。」

室賀「闇雲にイラストを描いているわけではなく、実はきちんとコンセプトがあり、それが鑑賞者にも伝わってくる良い展示だった。それと、彼女は独特のバランス感覚を持ち合わせていて、そこも評価している。」

審査員が、それぞれ票を入れた出品者の魅力を語ったところで、いよいよ頂上決戦へと移ります。審査員の方々には他の方から出た意見も踏まえて、影山さん、しげのさんのどちらか1人を選んでもらい、会場中が息を飲む中、その名前をひとつひとつ読みあげていきます。影山さん、しげのさん、影山さん、影山さん…そして、最後も影山さんの名前が読みあげられました。

集計すると、影山 4票/しげの 1票という結果になりました。グランプリは、影山さんに決定です!

トロフィーを受け取った影山さんは、「グランプリをとれたのは私だけの力ではないので、いろんな人に感謝したい。親を安心させるためにも、イラストで世の中に出られるようにがんばります」と語り、会場からは笑いと拍手が沸き起こりました。こうして、最後まで白熱した第15回グラフィック「1_WALL」公開最終審査会は無事に終了しました。影山さん、グランプリおめでとうございます! グランプリ受賞者としての個展は、約一年後にガーディアン・ガーデンで開催します。どうぞお楽しみに!

出品者インタビュー

影山紗和子さん グランプリ決定!
グランプリに選ばれた瞬間は、ほんとうにびっくりしたけれど、やっぱりうれしい。今回の審査会では、意外な意見も言ってもらえて、とても新鮮でした。一年後の個展では、鑑賞者をびっくりさせるような展示にしたいと思うので、たくさんの方に来てもらえたらと思っています。

クロカワさん
今まで、このようなコンペに自分の作品を出したことがなかったけれど、社会人になったことをきっかけに何かを変えたいと思い、初めて「1_WALL」に参加しました。ファイナリストに残ることができ、たくさんの意見やアドバイスを聞けて、ほんとうに貴重な体験でした。

片岡亮介さん
「1_WALL」に参加してここまで残ることができて、楽しかった。審査員の方から直接いろんな意見を聞けて、それが痛いほど自分でわかるものもあったり、思ってもみなかった意見もあったりで、ありがたかったです。ここまでがんばった甲斐がありました。

角川みなみさん
いろいろ思うことはあるけれど、今はうまく言葉にできないです。支えてくれた人がたくさんいる分、悔しい気持ちが強いですね。でも、いろいろと審査員の方から受けた意見やアドバイスをバネにして、次はグランプリをめざしたいです。

しげのみゆきさん
投票で接戦になって、最後の最後まで緊張しっぱなしの審査会でした。悔しい気持ちもありますが、普段は聞けないプロからの意見を聞くことができたことが収穫だったなと思います。次回の「1_WALL」も、グランプリめざしてがんばりたいです。

梅丸いつかさん
「1_WALL」に参加してここまで残ることができ、審査員の方の率直で鋭い意見をたくさん聞けておもしろかった。思い切って応募して、ほんとうによかったです。グランプリには選ばれなかったけれど、個人的に個展を開催してこの作品を完成させたいと思います。