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公開最終審査会レポート

2019.2.21 木

2月21日(木)、今回で20回目となるグラフィック「1_WALL」の公開最終審査会が行われました。「1_WALL」は、一次審査、二次審査を通過した6名のファイナリストが個展開催の権利をかけてプレゼンテーションを行い、その場でグランプリが決まるコンペティション。グランプリ受賞者には、個展制作費として20万円が支給されます。はたして今回は、どんなアーティストがグランプリを獲得したのでしょうか。
本レポートでは、第20回グラフィック「1_WALL」公開最終審査会の様子をたっぷりとお伝えします。

FINALISTS
星野陽子、河村真奈美、柳田稜、山内 萌、加藤舞衣、永井せれな
※プレゼンテーション順・敬称略

JUDGES
上西祐理(アートディレクター/グラフィックデザイナー)
菊地敦己(グラフィックデザイナー)
大日本タイポ組合 塚田哲也、秀親
都築潤(イラストレーター)
保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)
※五十音順・敬称略

審査会当日、多数の応募者の中から選ばれた6名のファイナリストが、ガーディアン・ガーデンに集合しました。そして、張り詰めた空気の中で審査員による作品チェックが進んでいきます。続々と一般見学者たちも集まり、今回も会場はいっぱいに。ファイナリストによるプレゼンテーションとともに、審査会スタートです。

プレゼンテーション&質疑応答

星野陽子「FIGURE OUT」

絵を描いて、それを立体にして、さらにまた絵にする。二次元と三次元を行き来する行為を通して、絵の中に起こっていることを可視化する作業を行っていて、鑑賞者にもそれを体験してもらいたいと思い、今回の作品を制作した。床に置かれた鏡だったり、ライトで照らすことによって壁に影ができたりしていて、見る角度や見る場所によっていろんな線やかたちを発見できる。個展では今回の壁面の絵と立体はそのままで、ギャラリー全体にインスタレーションをつくりだすことで、鑑賞者が絵の中に入り込んでいける展示空間にしたい。

Q.秀親:二次審査時点でのプランと、今回の壁の作品は違った印象。壁の絵は、その場に立って即興で描いたように見えるのだが、これはなぜ?
A.星野:壁の絵は途中までは描いてきて、最後の仕上げ部分はこの会場で描いた。この会場に立ったからこそ見えるものを描きたいと思ったので。

Q.上西:「鑑賞者に体験してもらいたい」と言っていたが、その意図は?
A.星野:鑑賞者が鏡の部分を覗き込もうと屈んだりすることを、体験と言っている。個展ではさらに、鑑賞者が作品の間をくぐったり、作品を見上げたりという仕掛けをつくることで、体験をつくり出したい。

Q.菊地:立体物の素材は、絵の要素を立体化しようとするのなら、立体部分も自分でつくってもよさそうだが、なぜ既製品を素材に使ったの?
A.星野: 既製品は、それだけで強さが出るところが好きで選んだ。身近にあり、手にとっていいなと思ったものを使った。

河村真奈美「SCOOT」

普段から、Illustratorのパスを使って描いた作品をつくっている。今回の作品も、その技法がたとえ鑑賞者にわからなかったとしても楽しめるような作品にしたいと思い、展示をした。テーマは、「地球の中を移動する、駆け出す」というもの。個展でも、パスを使って作品をつくるという方法は変えずに、別々の写真からトレースした素材を一つの絵として構成したり、映像を展示したりするなど、新しいチャレンジをするつもりだ。

Q.塚田:右側の女性の作品と宇宙の作品は写真のように見えるが、それに比べると左のチケットの作品は少し粗い印象を受ける。このモチーフを選んだのはなぜ?
A.河村:チケットは、パスで描いていることに気づいてもらいたくて選んだ素材。スキャンした画像ではあのサイズに拡大することはできないので、パスでしかできないことを見せたかった。逆に右の2点は写真のように見せようと思って制作した。

Q.菊地:二次審査の時の展示プランには、ビルから煙が出ている絵も展示するとあったと思うが、今回の展示にはない。展示しなかったのはなぜ?
A.河村:自分の意図していなかったイメージを連想させてしまうのと、今回のテーマとあまりリンクしていないことから展示するのをやめた。

Q.保坂:ただの写真ではなく、ベクターデータであることをわからなくても楽しめる作品をつくりたいと言いつつ、やはりそこはわかってほしいようだ。それは、なぜ?
A.河村:気づかない人も多いと思うが、気づいてくれたら嬉しい。やっぱり、単なる写真だけを飾った展示だと興味を持ってもらえないと思っているので。

柳田稜「なりそこない」

いいな、好きだなと思うことは誰でもできるが、それをかたちにすることは、なかなかない。そこで今回は、私が好きなアニメやゲームの必殺技を見た瞬間に感じた気分を、かたちにするという作品づくりを行った。そうすることで、同じことをもう一度体験し直すという体験を表現した。その瞬間を1枚の絵に描き、それを徐々につなぎ合わせて全体をつくっていくことで、その瞬間に感じた気分と、実際にかたちにした時の間の距離を埋めようとしている。個展では、その間の距離を感じずに、気持ちを認識してすぐ表現に直結するような作品をつくり、恐竜博物館の標本のように展示をしたい。

Q.菊地:プランではキャラクターの全体がわかるような展示だったが、今回はなぜ、グリッドに並べて展示したの?
A.柳田:二次審査で審査員の方に、なぜバラバラで描いているのか、を一番聞かれて、絵自体というよりもバラバラであることが面白いのかと思い、断片性を強調した展示にした。

Q.秀親:普段ゲームをしないということだが、今はこの必殺技に衝撃を受け、かっこいいと思っているから題材にしているはず。今後、何を題材にして作品づくりをしていくの?
A.柳田:好きなものにこだわって制作したいと思っていて、いまのところ、必殺技しか好きなものがないので、この題材をあつかっている。やりたいことは認識と表現の一致なので、この題材でそれができてから、次の題材については考えたい。

Q.保坂:今回の作品づくりをする上で、柳田さんのルールはあるの?
A.柳田:必殺技の瞬間を何十個も描いているが、その瞬間を描く時のルールは、キャラクターの口から描くこと。

山内 萌「アプローチするグラフィック」

表情がそこに置かれていたら、鑑賞者はどんな反応をするだろう。それを知るための、コミュニケーションの起動スイッチとなる作品をつくった。今回は、コンピューターグラフィックでつくったモチーフを油絵に変換して、安心感を与えるために家具のような素材を使うことで、遠くから見た時には無機質なプラスッチックのような作品群に感じていても、近くで見ると素材感の温度を味わえる展示にした。一つの作品を見ていても他の作品に自然と目がいってしまうという、まさに「アプローチするグラフィック」を体感できる作品になったのではないかと思っている。個展では、自分の家よりもミステリアスで、でも生暖かい空間をつくる予定。具体的にはペイントしたソファをつくったりしたい。

Q.菊地:山内さんの考える「アプローチする」とは、どういう意味なの?
A.山内:相手に何かを働きかける時には、声や言葉を使うだけでなく、言葉にならないコミュニケーションの仕方があるはず。それもアプローチの仕方の一つだと考えている。

Q.都築:壁に飾られた作品の並べ方に、何か意味はあるの?
A.山内:表情があるグラフィックに視線が映される、ということを意識した。実際に家具として並べられる時、使用される時のことをイメージした配置にした。

Q.上西:家具のような配置にしたかったのなら、壁に貼るだけではなく、絵を床に置いても良かったのでは?
A.山内:壁に掛けたのは、緊張感や威圧的なイメージを与えたかったから。ただ、それと同時に家具のような素材を使うことでリラックスする雰囲気も与えたかった。どちらも共存する空間をつくろうとした結果、このような配置になった。

加藤舞衣「wall」

いらなくなったものと、それを取り巻く空気や時間を伝えたいと思い、制作を行った。ものにフォーカスしすぎないつくり方で、鑑賞者と作品の間にぼんやりと空気が入り込んでいる感覚を表現したくて、そのためにはリトグラフという方法がしっくりきていると感じている。今回は、私が普段通っている工房の壁に刻まれた人の気配を表現することが目的で、左側の紙の作品群は、壁に貼られていたテープの痕跡をじっくりと眺められるもの。右のビニールの作品群は、ガーディアン・ガーデンの会場の壁も作品の一部に取り込んだ。個展では、架空の街の中に作品を展開し、誰もが気に留めないありふれたものが輝く一瞬を見つけ出せるような展示をしたい。

Q.秀親:リトグラフ作品ということだが、右側に展示されているビニールの作品はどうなっているの?
A.加藤:これも、リトグラフ作品。紙だと壁に壁を貼るという行為がわかりにくい、という二次審査の意見を受けて、ビニールのリトグラフ作品を思いついた。

Q.菊地:左の紙の作品群はそれぞれ離して展示しているが、なぜ、右のビニールの作品群は全部くっつけて展示しているの?
A.加藤:左の作品群は離して展示することで会場の壁が見えるが、右のビニールの作品群は離さなくてもビニールなので、会場の壁が透けて見える。その違いがあるので、展示の方法も変えた。

Q.上西:リトグラフ作品の中で、一か所だけ本物のマスキングテープが貼ってある。これの意図は?
A.加藤:一つだけ本物のマスキングテープを貼ることで、鑑賞者にちょっとした違和感を与え、現実の世界に引き戻すような瞬間をつくりたかった。

永井せれな「私たちのいる意味」

日常生活の中で、自分がここにいる意味や何のためにこんなことをしているのかを考えることがよくある。何度考えてもしっくりくる答えは一向に出ないのに、繰り返し考えてしまう。それに対するもやもやとした感情や、答えの出ないことに対するむかつきをそのまま表現したのが、今回の作品だ。個展では、今回のように人物絵を描き続けることはもちろん、もっと大きなサイズの絵を描きたいとも思っている。

Q.菊地:それぞれの絵に具体的なモデルはいるの?
A.永井:前回までの作品にモデルはいなかったが、全部同じ人に見える、という意見をよくもらうので、今回はすべて違う人の写真をモデルにして描いた。

Q.保坂:もやもやとした感情やむかつきを表現した作品ということだが、それらの感情は、作品をつくることで解消されていくものなの?
A.永井:作品をつくることで、解消される。なので、鑑賞者にも作品を見ることで私と同じようにもやもやとした感情を解消してもらいたいと思っている。

Q.塚田:モデルはそれぞれ違っていても、表情は全て無表情で個性がない。前回の「1_WALL」の展示作品は大小さまざまなサイズの絵があったり、言葉が並べられていたりしたが、なぜ今回はこのようなスタイルにしたの?
A.永井:これまで感覚的に描いて、貼って、ということが多かったが、それでは伝わらないのではと思うようになり、今回の展示作品は違う方法にチャレンジしてみた。

 

 

講評&審議

星野陽子「FIGURE OUT」について

秀親「ポートフォリオの中の作品だと、パイプは直線的でそれ以外は有機的な形で描かれていて、その対比が面白かったのだが、今回はパイプも含め、すべて有機的に描かれている。対比を見られなかったのは、残念だ」

上西「二次元と三次元を行ったり来たり、ということを表現するのには、計画性が必要。そこの部分は、挑戦で終わってしまったような気がする。試み自体は面白いが、鑑賞者にその面白さを提供しきれていない」

保坂「二次元の表現は視覚的で、三次元は触覚的になるのが一般的なのに、彼女の作品は逆になっているのが面白い。ただし、二次元と三次元の継ぎ目の処理が甘い。ライブ感は面白いが、コンセプトとしてどこまで突き詰められているのかが気になるところ」

菊地「ドローイングを描くような感覚で、ものを配置して空間をつくっていくのが面白いと感じていたのだが、今回の作品は絵があることで、立体の位置が固定されてしまい、空間構成が不自由になってしまった印象。思い切って立体作品と平面作品は、分けた方が良さそうだ」

塚田「2Dと3D、両方の作品を活かすことができず、お互いを殺し合ってしまっている作品に感じる。チャレンジ精神は認めるが、別々に展示した方が良い」

都築「ポートフォリオの写真を見る限り、とてもかっこよかった。本人にとってのこの角度で見て欲しい、というアングルが想定されているようで、そこが少し不安だ」

河村真奈美「SCOOT」について

秀親「技術的な面や仕上がりの面で言えば、圧倒的に上をいく作品。ただ、どうやって描いているんだろうという謎めいた部分や、ここまでやるのか、という衝撃が前回よりも少なくなってしまった印象。もうひとつ、圧倒的な部分がほしかった」

保坂「実際に手を動かす作家ではなく作品を評価する学芸員の立場である僕から見れば、作品の工程などに驚きはない。作品の組み合わせにこそ作家の意図があるはずなのに、感覚で組み合わせてしまっているところがもったいない」

都築「今回はベクターデータでつくっている作品を種明かしなしで展示しているが、個展では映像作品も加えると話していて、面白くなりそうだと感じた。ただ、映像を加えることでどんな意図を込めているのかが気になる」

塚田「もっと作品数を見たい。ここまで描いているのか、と驚きたいという思いがある。女性の作品に関してもサングラスの中だけを拡大した作品にするとか、もっとベクターデータである良さを活かした方向もあるのでは」

上西「不思議なテクスチャーが魅力なので、もっと意識的に追究してほしい。絵の組み合わせ方も意識的ではなく、感覚で選んでいるということだが、その発言にももったいなさを感じた」

菊地「河村さんは、絵に対する感度みたいなものがある。なので、あえて絵の組み合わせやモチーフの選び方に意味がなくていいのではないかと思うし、そこに意味を見出したところで面白くはならなそう」

保坂「しっかりとしたコンセプトがなくても作品がつくれるという現実を目の当たりにして、そういう時代なんだなと。ただ、飛行機のチケットの自分の名前を消したということは、何か意図があったのでは」

柳田稜「なりそこない」について

菊地「展示の仕方も上手だし、作品自体も巧みにつくっているという印象を受けた。ただ、彼の言動は本当なのか、つくっているのかわからないところがある」

都築「手癖があるようでない。手癖が滅却すると、線が見えてくる。この展示方法だと線と面の構成に見えてきて、それがすごくかっこいい。ただ、個展ではどこまでやれるのか、ちょっと確信を持てない」

秀親「ポートフォリオを見た印象では、もっと殴り書きのものが出てくる予想だったが、展示では描き込まれて、展示方法もしっかりしていて、かなり頑張ったなと感じた。プレゼンを聞いて、きちんと自分の考えを話そうとする意欲や、こうしたいという願望をしっかりと言えることに、好感を持てた」

保坂「視点のあり方や、切り取り方が、通常の必殺技のありかたと異なったものを見せてくれた。二次審査からここまで飛躍できたことを考えると、個展でもそれなりの結果を出してくれそう。とはいえ、個展で何をやりたいのかがほとんどわからないので、どちらに転ぶのかは謎だ」

塚田「このカードとこのカードがつながって、というふうに鑑賞者が勝手に考えて、全体を想像していくのもおもしろい。鑑賞者に変に媚びておらず、押し付けない見せ方が良い」

上西「彼の考えはよく分からないし、ポートフォリオを見てもさらに分からなくなる。ただ、この作品が会場全体に飾られるところは見てみたい。これだけ鑑賞者を気にならせる力があることはすごい」

山内 萌「アプローチするグラフィック」について

都築「わりと好きな作品。展示プランでは植木も置かれるということでそれが良いなと思っていたので、なくて残念だったが、プレゼンを聞いたら、改めて今回の展示も良いなと思った」

保坂「スルメのお化けのような絵は、普通の文脈なら描かれないような作品。評価しづらい作品だが、非常に面白い。二次審査の時より進歩しているし、個展でもきちんとした作品をつくってくれるのではないだろうか」

菊地「他の作品は1枚ずつ単体でバランスが取れているのに、上の方に飾られている三つの黒い点の絵は、あんまりという印象。展示のバランスを取るだけのためにあるように感じる」

塚田「二次審査の時に見た展示プランよりも、理路整然とした展示になっていて面白い。それぞれの絵が心地よく展示されていると感じた」

上西「会場に入ってきた瞬間に気になったので、彼女の意図通りにアプローチされていたようだ。ただ、どんな作品も言ってしまえば“アプローチするグラフィック”なのではないか、とも思ってしまう」

秀親「これらの作品が自分の家にあったらと考えた時、不安感を感じるだろうし、嫌だな、飾りたくないなと思う。そういう意味では彼女の意図通りになっているのかもしれないが、自分の家にほしいかと聞かれれば、ほしくはないなと」

加藤舞衣「wall」について

都築「本人はこれで納得しているというが、そこに不思議な感じがした。ポートフォリオなどを見ると、作品と自分との間に流れる空気を表現した作品もあるので、それらと組み合わせることもありなのかもしれない」

菊地「紙の作品、ビニールの作品、どちらかだけの作品を見たかった。今回の展示に彼女が納得しているのは、引き目で作品を見ることができていないから。もう少し引き目で自分の作品を見てほしい」

保坂「今回の展示作品は、全部で4種類の作品がある。きれいに展示できているかと聞かれれば、そうではない。一つ一つの作品を見ればやりたいことはわかるのに。そこが、もったいない」

秀親「自分が通っている工房の壁にある汚れや、そこに流れてきた空気や時間を表現したいということなら、定点観測をしてほしかった。同じ場所を、時間をかけて観察しながら作品づくりをすることで、彼女の意図がもっと伝わるのではないか。着眼点は面白い」

上西「着眼点が面白いし、ここまで来ているのだから、もっと頑張ってほしかった。個展プランを聞いていると、その面白さからはずれて別の方向に行ってしまうのではないかと、少し心配になった」

塚田「個展ではもっと欲張り精神が出るのでは。版画技法をアピールするよりも、壁に残された人の痕跡というところをもっとアピールすべきなのではないか」

永井せれな「私たちのいる意味」について

都築「今まで見てきた彼女の作品には言葉が必ずあったが、それが今回はない。同じような絵を描いているようで、すごくチャレンジをしていると感じた。大きいサイズの絵もいい」

塚田「彼女のこれまでの作品は、直感で描いているところが魅力だった。そこをあえて消した作品を展示したことに、面白さを感じた」

保坂「直感的に描いているようで、人物の目元などは丁寧に描き込まれている。生首が土台のようなものの上に置かれているという絵の構図も、平面でありながら彫刻的で面白い。新たな発明をしたな、と感じた」

秀親「無表情の中にも、鑑賞者がなんとなく自分の知っている人に似ているなと思うことができ、何かを感じ取ることができる作品。これまでの作風から一変して挑戦していることがすごく良いし、彼女自身何かを得ることができた展示になったのではないか」

菊地「一つ一つの絵を見れば個性は見えてくるが、こんなにも形式化してしまっていいのだろうかとも思ってしまう。ただ、彼女の作品は何とも言いがたい魅力があって、はまる人ははまる作品だ」

上西「リアルな感情を描いているのに、抽象的で幽霊のように感じた。作品の魅力自体はポートフォリオの時の方が感じたが、周りの人からのわかりにくい、という意見を受けて挑戦してきたことが素晴らしい」

こうして、審査員による講評タイムも終了。誰かが発した言葉をきっかけににどんどん議論が深まるという場面が多く見られました。
今回もかなり長丁場の審議となってしまいましたが、いよいよ投票へと移ります。審査員の方には良いと思ったファイナリストを2名選んでいただくことに。

投票結果

上西:山内・加藤
菊地:河村・柳田
大日本タイポ組合:加藤・河村
都築:柳田・永井
保坂:柳田・山内

集計すると、柳田 3票/河村 2票/山内 2票/加藤 2票/永井 1票という結果になりました。そこで、2回目の投票を行う前に、票を入れたファイナリストの作品に対して、それぞれ評価するポイントや個展に期待するところなど、ひと言ずつ語っていただきました。

柳田稜「なりそこない」について

都築「個展で面白いことをしてくれるんじゃないかという賭け。純粋に個展を見てみたい」

保坂「ドローイングの才能がすごいなと。個展はどうなるかわからないが、その才能に賭けてみたい」

菊地「個展は面白くなりそうだし、心配していない。社会の受け皿から漏れるような作品だからこそベットし続けたい」

河村真奈美「SCOOT」について

菊地「今後どうなるんだろうという不安もある反面、ポジティブな可能性を感じる」

秀親「単純に個展を見てみたい。不安もあるが、選ぶべき人なんじゃないかと」

山内 萌「アプローチするグラフィック」について

保坂「6人全員が、個展で頑張ってやってくれそうだなと思ったが、山内さんは絵を起点にコミュニケーションというものを深く考えているところが面白いと感じた」

上西「二次審査からの飛躍がすごくあったので、個展への飛躍も期待している」

加藤舞衣「wall」について

上西「すごく良く考えて作品をつくっているので、可能性を感じた。このテーマで突き詰めた作品を個展で見てみたい」

塚田「誠実さのあるテーマに好感を持てたし、今回のスタイルとこれまでのポートフォリオに載っていた作品のスタイルと、総括した作品が見られるのではと期待している」

永井せれな「私たちのいる意味」について

都築「山内さんと悩んだが、永井さんは個展ではさらに大きな絵を見ることができそうなので、面白そうだ」

 

それぞれ票を投じたファイナリストに対して、審査員から思いを語っていただいたところで、最後にもう一度投票をすることに。結果は、山内 2票/河村 1票/柳田 1票/加藤 1票という結果に。最後まで票が分かれたものの、2票を獲得した山内さんがグランプリに決定です!山内さん、おめでとうございます!

最後まで接戦だった今回の公開最終審査会ですが、山内さんのグランプリが決定し、幕を閉じました。山内さんの個展は、約1年後にガーディアン・ガーデンで開催する予定です。みなさん、ぜひお楽しみに。

出品者インタビュー

山内 萌さん グランプリ決定!
グランプリは、絶対に無理だと思っていたのでびっくりしていますが、嬉しい。グランプリに決まったからには、今回の「1_WALL」展に負けないくらい面白い展示にしたいです。美術に普段から触れている人でなくても、誰もが楽しめる作品をつくるので、いろいろな人に観にきてほしいです。

加藤舞衣さん
今までで一番やりきったなと、思えた展示作品になりました。もうすぐ学校を卒業して社会人になるので、これまでとは違う環境になると思います。今後は自分の中での締め切りを決めて、いろいろなコンペにチャレンジしていきたいです。

河村真奈美さん
前回応募した時もファイナリストまで残ることができて、今回は2度目の「1_WALL」展。アドバイスをもとにチャレンジをして、今回また展示できたことがまずは嬉しかったです。今後も新しいチャレンジを続けながら、作品を発表し続けていきたいです。

永井せれなさん
ファイナリストに選ばれてグループ展をするのは、これが2回目。今回も展示をすることができたことが、まずは嬉しかったです。目の前で審査員の方が熱のある議論を繰り広げる姿を見られたことも、刺激になりました。これからも作品をつくり続けていきます。

星野陽子さん
緊張したけれど、目の前で審査が行われるという場はなかなか経験できないので、勉強になりました。普段、グラフィックデザインの目線から意見をもらえることも少ないので、このコンペに出した甲斐があったなと思います。

柳田綾さん
「1_WALL」に参加して良かったことは、二次審査で審査員の方からアドバイスをもらえたことで、いろいろと資料や本を読んで勉強したり、興味のなかったものにも目を向けたりできたこと。今後も審査員の方のアドバイスをもとに、作品づくりを続けていきます。