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展覧会レビュー|渡部千春

2015.4.6 月

渡部千春(デザインジャーナリスト/東京造形大学准教授)

グラフィックデザイナーの溝端貢さんは、書籍や冊子を中心としたデザイン活動を続けている。私が書籍『スーパー!』(飛鳥新社)を依頼した時、ピントの合ってない、サイズもばらっばらな数千枚の写真から選び、パズルのように組み合わせていくという荒技をやってのけた「凄腕のブックデザイナー」ではある。とはいえ、正直に書いてしまうと、個展をやると聞いた際、グラフィックデザイナーの展示にありがちな平面的にのっぺりし、展示スペースががらんとしたものになってしまうのではないか、という懸念もあったのだが、これはまったくもって杞憂だった。
 奥に積み重ねてある、文字遊びも出来る積み段ボールの「Cardboard Puzzle ダンボールパズル」が大きくインパクトを放ち、かと思えばとても小さい動物型型抜きピース積遊び道具(他にないものなのでなんとも表現しがたい)「Building Animals 積み動物」があり、天井からはパーツのどこをひっかけてもモビールになる「Various Mobile 自在モビール」がぶら下がり、床にはふかふかの動物が浮き出る「Hide-and-Seek Lag かくれんぼラグ」や、ポスター「Perforated Line Poster 切り取り線ポスター」の切れ端が散らばる。
 溝端さんは「今回の展示では触れたり遊べたりするものを作りたいと思いました。自分でコントロールしたものより、偶然できたり、できているものの方が美しいなと思ってしまうんです」と言う。溝端さんのコメントを先に聞いていたら、ポスターを千切りまくって思いっきり偶然にできたものを見せつけてやりたかった。どうせ誰も見てないから切り取り線から破いて切り取ってしまっても……、とも思ったのだが、そこは大人、展示を崩してはいかん、と大人しく鑑賞し、その場を去ろうとした時、親子連れ(お子さんは2歳くらい)がやってきた。
 子供は溝端さんが優秀なデザイナーであることや、ガーディアン・ガーデンがエッジの切れた若手アーティストを紹介するためにできたギャラリーなどという背景は知らないわけで、ただシンプルにそこを「遊び場」と認知したようだった。ラグのところに行き「ひつじさーん」と喜んでいる。
 む、悔しい。普段子供に戻りたいなどとは全く思わない私だが、この時ばかりは子供に嫉妬し、子供になりたいと思った。やはりポスターをびりびりにし、段ボールを積み重ねては倒壊させてみたかった。
 話が逸れるが、海外で商品を見る時は、ブランドの立ち位置も分からず、時には商品が何であるかも分からず、値段感覚も曖昧だ。そんな不確かな状況の中で、どうしても気になってしまう商品、ふと手を伸ばしてしまう商品というのが多々ある。文字もブランドも値段感覚も大体把握できてしまう日本では得られない海外での感覚を私は大切にしたいと思っている。バックグラウンドが分からなくても、ほぼ本能的に反応させるもの。溝端さんの展示にはそうした感覚が溢れていた。
 今原稿を書いていて思い出したのだが、溝端さんのブックデザインに注目するようになったきっかけはもふもふした素材感の楽しいビルケンシュトックの冊子だった。もともと、こうした「思わず手を伸ばしたくなる」「触っていたくなる」感覚に鋭い人なのだなあと感じた。

渡部千春
デザインジャーナリスト/東京造形大学准教授。1969年新潟県新潟市生まれ。1993年東京造形大学卒業。1993年から1996年まで、および2012年にロンドンに滞在。1994年よりフリーランスとしてライター/編集の仕事を始め帰国後も継続。国内外の雑誌、書籍に執筆。これまで自著・共著合わせ10冊の書籍を発表。