第10回写真「1_WALL」グランプリ受賞者個展
山下達哉は、福島で行われている除染作業中の表土を撮影した写真と、自分自身が土を掘り起こす除染行為を撮影した作品『Decontamination−(除染)』で、第10回写真「1_WALL」のグランプリを獲得しました。もともと考古学や地層などに興味を持つ山下は、土に触れることで過去の記憶を遡り、時間を表していくことをテーマに制作に取り組んでいます。その中で、福島の原発事故に伴う「除染」という消えないものを消していくような作業に矛盾を感じたことが今回の作品のきっかけとなりました。「1_WALL」の公開審査会では、社会的な事柄を扱いながらもその怒りや想いを個人の問題に引き寄せることで、表現の強度が増していると高い評価を得ました。
本展では新たに福島で追加撮影された作品が加えられ、表土を掘り起こされた土の堆積からは、山下自身の身体性がよりはっきりと現れています。言い換えればその小さな行為が除染を行うべき場所の広大さや、簡単には解決されない問題の根深さを見るものに感じさせます。人々の営みや文明の歪みを地表から見つめる山下の眼差しを、ぜひ会場でご覧ください。
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展示によせて
2011年3月11日に起きた福島第一原子力発電所の事故によって汚染された場所では表土を取り除くなど、除染作業がさかんに行われている。
その光景は積み重なった地層の上に堆積した現代の層を消去していく行為のようにみえる。
人の手によって元に戻すことのできない地の存在や消すことのできない記録や記憶を写真によって深く意識しようとしている。
山下達哉
審査員より
写真には、見えている表面しか写らない。しかし写真家たちはその奥にあるものや、私たちの眼からは隠されている事象を、どうにかして写真に写そうとする。山下達哉は地表にレンズを向ける。地表を写すことによって、彼はそこにある、眼に見えないものについて考えている。より正確に言えば、見えないものとそれをめぐる人間の行為について考え、記録しようとしている。人間の行為の痕跡は、地表に刻まれているからだ。
増田玲(東京国立近代美術館主任研究員)
第10回写真「1_WALL」展
2014年3月24日(月)~ 4月17日(木)
最終公開審査会 4月3日(木)
以下の審査員により、山下達哉さんがグランプリに選出されました。
[審査員]
鷹野隆大(写真家)
土田ヒロミ(写真家)
姫野希美(赤々舎代表取締役、ディレクター)
増田玲(東京国立近代美術館主任研究員)
町口覚(アートディレクター、パブリッシャー)
※五十音順・敬称略
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