清水「ニューファッション」
60年代から70年代のおもちゃや子ども向けアクセサリーに、宣伝文句としてよく書かれている言葉「ニューファッション」。そこには夢や憧れが詰まっていて、そういった思いは時代が変わっても変わらずあって、普遍的なもの。そんな世界がこれからも続いてほしい、という思いを込めて作品を作りました。今回はコンビニで印刷したり、材料は100円均一のものだったりとお金がかかっていないが、個展ではもっといい素材を使って、会場のスペースを活かした展示にしたい。
Q.秀親:こういう世界観を追求するようになったのは、いつから?
A.清水:子どもの頃からこういう雰囲気のものが好きでした。でも、実際に昭和レトロなものを集め始めたのは大学から。就活をして、その後に作品作りを始めました。
Q.菊地:同じ趣味の人がこの作品を見てときめくのは予想できるが、そうではない人に対してはどう考えているの?
A.清水:見ればいいんじゃないかなと思います。
Q.川上:既存の商品を集めることと、新しく作り出すことは違うはず。清水さんが既存の商品を集めるのではなく、新しく作品として作り出す理由は?
A.清水:模写をするとその作品がどう構成されているのかがわかるし、しっかりと観察して新しく作り出すと、「ニューファッション」に対する愛がさらに深まると思っているから。
平田尚也「“Demon” “Space Ship” “Royal Drive”」
ネット空間にある3DCGデータを組み合わせ、それをさらに台座のようなものにのせて、仮想空間上にある彫刻作品を作りました。それは絶対に手で触れられないものですが、確かにそこには空間があって、存在している。だからこそ2Dでは存在できない彫刻作品を作りたい、という意識で作品作りをしています。それは、ある意味サイト・スペシフィックな作品だとも言えると思っています。個展ではこの同じシリーズの作品と、壁掛けの作品、天吊り方式の立体作品など、この空間でしかできない作品を展示したい。
Q.菊地:二次審査のポートフォリオの作品よりも、全体的にシンメトリーな作品が多い印象。これは、なぜ?
A.平田:シンメトリーな方が、自分の好みだから。感覚的に見て、自分が美しいと思える形にしています。
Q.都築:サイト・スペシフィックは、作品が置かれる場所の特性を活かした表現方法として本来使われる言葉。なぜ自分の作品が サイト・スペシフィックだと思うの?
A.平田:僕の作品は3Dデータなので、3D作品とすることもできるが、あえてそうしないで手が届かないようにしている。そういう意味では、サイト・スペシフィックであると考えています。
Q.塚田:ポートフォリオでは有名なキャラクターやロゴなどを作品の中に取り入れていたが、今回展示するにあたってそれは著作権の問題でNGになったと聞いている。個展ではその辺りの問題に関して、どう考えているの?
A.平田:確かに、キャラクターやロゴをおいしいなと思って使っていた部分もありますが、8割方は美しさを基準に素材を選んでいるので、個展でも問題なく作品作りができると思います。
福西想人「とうそうぶんぽうの発動装置」
言葉には力があります。例えば誰かが「死ね」という言葉を使う事で、言われた人が自殺してしまったりと、時に殺傷力を持つものだと思います。だから僕は、グラフィックという見る行為と、詩という読む行為を合わせた作品によって、言葉による革命をしたい。そのことによって鑑賞者の中に分断線のようなものを生み出して、生まれた傷口をもとに考える力を取り戻してほしい、と考えている。「とうそうぶんぽう」とは、そのための方法論であり、造語です。個展では、「権力」をテーマにした展示をしたい。
Q.白根:自分の伝えたいテーマを表現する上で、文字というものが最適だと思っている? それとも、他に表現の方法はあると思う?
A.福西:もともと詩を書いていたことが発端。僕は、文字と言うよりも言葉のボディを追求したいと思っています。なので、個展では文字だけでなく映像作品や音声作品も作って、さまざまな方法で言葉のボディを表現したい。
Q.都築:個展では「権力」をテーマにした作品を作りたいと言っていたが、具体的にはどんな風にする予定なの?
A.福西:「立ち入り禁止」というような命令形の言葉であったり、何か事件が起きた時に無意識にSNSで発せられる言葉であったりをポスターという形で展示したい。そういった権力みたいなものに囲まれている中で、いかに鑑賞者が自由に振る舞えるかを試したいと思っています。
Q.秀親:文字だけでなくデザインも含めた作品を作りたい? デザイン的でないと伝えられないものもあるの?
A.福西:文字がいっぱい並んだポスターばかりだと鑑賞者が飽きるかもしれないので、バリエーション豊富に作りたいと思っています。デザイン的にすることで、メッセージがより伝わることもあると考えています。
中田こぶし「絵本を考える。」
グリッドを引いて、四角の集まりで絵本を作りました。でも、この場合の四角は形としての四角なのではなく、量です。例えばロバが走っているシーンは、ロバの形を伝えるのではなくて、ロバと同じ量のものがページとページの間を移動していることで、ロバが絵本の中にいるということを表しています。個展では、私だからこそ作れる絵本を展示したい。テーマは、「部屋」。朝目がさめると、日が入ることで水色のシーツがクリーム色に見えたりする、そんな日常の中でのちょっとした気づきを絵本にして展示したい。
Q.白根:そもそもなぜ、四角で表現しようと思ったの?
A.中田: 四角でなくても丸でもよかった。でも、なんとなく四角が一番しっくりきたので。ピクセルのような感覚かもしれません。
Q.菊地:四角ではなく、丸っぽいフォルムの絵が出てきたり、中田さんの絵本に対するルールが統一されていない印象。一枚絵なら気にならないが、絵本にするのならルールがないと読みにくい。自分ではどう思う?
A.中田:自分でも気になるし、説明しづらい。素直に言ってしまうと、見ている人が気になるような部分も残したいという本音もあります。
Q.川上:作品の中の上半分は、確かに量の移動で成り立っている。でも、下半分は突然文字が出てきたり不思議な印象。これには、意味があるの?
A.中田:自分でも整理できていない。製作過程でここに文字があったらいいなと思って入れたものもあるし、文字を入れてから、これはやっぱり良くなかったかなと思うものもあります。
モニョチタポミチ「持ってみたの」
おすまし顔の女の子たちがいろいろなものを持ってみた、というのが今回の作品のテーマ。彼女たちは「持ってみた」のプロなので、たとえ持っているものがどんなに重いものでも誰一人辛そうな顔をしていません。持たせるモチーフは、シルエットがわかりやすいもの、意外なものを選びました。個展では、カラフルでポップな女の子たちのチームと、ピンクと黒で統一した大人っぽい雰囲気の女の子のチーム、二つの作品群を対峙させたいと思っています。また、それぞれのチームを代表する立体的な人形も作って展示したい。
Q.白根:モニョチタさんのポップな画風からいくと、プラスチックの素材とかでも相性が良さそう。なぜ、今回はキャンバスにペインティングという手法にしたの?
A.モニョチタ:普段から、いろいろな手法に挑戦するようにしているので。今後は、落書きのようなものにも挑戦してみたい。
Q.都築:女の子のフォルムが、一人一人バラバラな印象。もっと整理できそう?
A.モニョチタ:私の中では女の子を描く時に決まったフォーマットがあって、これはベストな状態。彼女たちに自分ができない髪型をさせたり、着られない服を着せています。
Q.秀親:女の子が手に持っているモチーフの中で、コアラは陰影がはっきり描かれているが、カニはシルエットのみ。この違いは?
A.モニョチタ:わかりやすさを一番重要視した結果、このようになりました。
河村真奈美「リプレゼント」
AdobeのIllustratorでリアルに描いた作品です。手で描いたわけでもなく、CGでもない、そういった他にはない絵を目指しています。今回は、この先思い出すこともないようなありきたりな今だけど、綺麗だと思えるもの。そういうモチーフを、いつもより長い時間をかけて見て、表現するということを心がけました。個展では、今回の展示と同じようなテーマで作品作りをするつもりです。横位置のものや正方形のもの、アニメーション作品にも挑戦したい。
Q.白根:Illustratorで描いているとのことだが、どのようなプロセスで描いているの?
A.河村:実際に撮影した写真を、全部一つずつパスを引いてトレースしていくというプロセスで描いています。
Q.菊地:なぜ、背景を黒にしたの?
A.河村:描いているモチーフがポジティブなものだったり、明るい色のものが多いので、それを際立たせるために背景を黒にしました。
Q.塚田:背景が黒で統一されているけど、元ネタを切り抜いて黒背景に合わせて色調整しているの?
A.河村:少しスポイトで取ってスウォッチを入れ直してはいますが、それ以外は調整していません。
Q.秀親:全体的にアメリカンなものが多いが、描きたいモチーフのテーマは?
A.河村:クラシカルな雰囲気のものが好きなので。
講評&審議
清水「ニューファッション」について
川上「プレゼンの内容もそうだし、何がしたいのかがわかりやすい。でも、展示の完成度に関しては粗さが目立つ。作り込んでいるところとそうでないところがあるので」
白根「展示としては作業に粗さもあるし、コンビニのコピー機でのプリントを使用しているが、それも彼女の一つのプレゼンテーションだと思えば楽しめる」
秀親「自分がこういうことをやりたい、という思いや考えをきちんと人に伝える力を持っていて、そこは好印象。ただ、レトロなものをリメイクしているだけに見える恐れも」
都築「きちんと彼女の考えを知った上で作品を見ればいいのだが、そうでない場合、よくある作品だね、と思われてしまう可能性がある。そこをどうすべきか」
塚田「鑑賞者にはどう響くのか。鑑賞者とどう接点を持つべきかを考えないといけないのかも」
菊地「話していることは明快だし、頭も良いし、客観的にも作品作りができている。腑に落ちることで逆に引っかかりはないが、可能性はあるので作品作りを続けていってほしい」
平田尚也「“Demon” “Space Ship” “Royal Drive”」について
白根「3Dのデータで作品作りをしている人は他にもいるが、そういう人たちが“これなら自分でもできるよ”とか”同じような事自分も考えてたんだよね”とか言わせるような作品かとも思うが、そのアイデアを高い完成度で成立させている」
都築「パッと見た瞬間に面白い。作品として引っかかる部分はわかるが、プレゼンの内容に”ここまで発表していいの?”と感じてしまった」
菊地「彫刻の話をしていたが、彫刻の在り方が再度問われている時代だから、彫刻にこだわらなくてもいい。すごく大きい作品や、逆に小さなものも作ってもよかったのかも」
塚田「ポートフォリオには、モチーフが浮いているものなど、通常の三次元では成立しない作品もありバラエティに富んでいたが、今回展示されている3点は、構図や密度も大体似ており、同じような印象を受けてしまった」
秀親「説明を聞かないと、ただ単に写真を重ねただけの作品に見えてしまう。でも、鑑賞者に説明しすぎるのもかっこ悪い。そこをどうすればいいのか」
川上「三次元ではできない表現をもっとしてほしい。今回の3点だけ見ていると、彼の創作表現の幅が狭く感じてしまう」
福西想人「とうそうぶんぽうの発動装置」について
都築「彼は、ポートフォリオに僕が感じた期待を裏切らなかった。想像通りにかっこいいインスタレーションだ」
白根「文字や文章をメインに構成しているんだけど、本好きや活字好きにはたまらない作品になっているのかな」
菊地「ポスターというメディアを使うのは、ちょっとダサい。でも、それがまた新鮮に見える。構成がとてもうまい、どれも良い」
塚田「インスタレーションという展示方法をとっているが、この作品はエディトリアルデザインでありまさにグラフィックだと思う。だからこそ印刷方法や紙の質を変えるなどの素材にもこだわって表現をしてほしい」
川上「どこを狙っているのか、正直わからなかった。ビジュアル的に見た時も、紙の質や印刷の方法でもっとできることはあったのでは」
中田こぶし「絵本を考える。」について
秀親「作っているものが未完成で、本人自身も迷っている。だから、やっていることも支離滅裂だ。でも、それが彼女の魅力なんだと思う」
塚田「本人の迷いが如実に表われたのか、一作の中で画風が二転三転している。ひとつの絵本として成立させるなら、画風を整理しないと読者は混乱してしまうだろう」
都築「彼女が話している内容と絵が結びつかない。でも、プレゼンはおもしろく聞くことができた」
白根「プレゼンで自分自身の中の迷いに悶えるところが見受けられたが、そういうところも含めて話が聞けてよかったと思う」
菊地「一つ一つの絵がいい。絵本ではなくて、絵を描けばいいのでは? 作品と自分の距離をもう少し取ってみてもいいのかもしれない」
川上「本当はもっとやりたいことがあるんだと思うけれど、うまくまとまっている。全体的にいい雰囲気の作品だ」
モニョチタポミチ「持ってみたの」について
秀親「こういった雰囲気の絵やキャラクターはよく見るし、僕はあまり好きではないが、彼女の作品は相当良いなと思った」
都築「今回よりも前は、もっとアバウトに描いていた印象。それもよかった。彼女なら、柔軟にその時の描き方にも戻すことができそうだし、評価している」
菊地「前回も応募してきた時に見ていいなと思ったけれど、今回も良いなと。デザイン的に洗練されている印象だ」
白根「二次審査の意見を受け入れて進化してきたのが、評価できる」
塚田「パターン化された中にすこしずつ変化が組み込まれた表現が小気味いい。本人も描く絵も一見ゆるふわだけど、これは計算されてるんじゃないかな」
川上「彼女はこれまでも、同じような女の子のキャラクターを描いてきたけど、毎回見え方や印象が違う。いつも新しく感じられるところが良い」
河村真奈美「リプレゼント」について
白根「どのような工程で作られているのかを知らず、“コラージュでしょ”というような人に対して試すような作品にも思える。とても深いところで作品作りをしている」
菊地「作品作りのプロセスを知らなくても、ビジュアルだけ見てもかっこいい作品だなと」
都築「もっと引き伸ばして、大きいサイズの作品も見てみたい。例えば15メートルくらいとか。純粋にビジュアルだけでも楽しめる作品」
川上「都築さんの言う通り、もっと大きなサイズにしたら、パスでやる意味がもっと出そう。今のままだともったいない」
秀親「評価できるのは、人のやらないことをやっているところ。僕だったら、同じことをやれと言われてもできないし、やる気になれない。そのくらい膨大な作業をしていると思う」
こうして、審査員による講評が終了。同じ意見を持つ方、全く違う意見を持つ方など、さまざまな意見が飛び交い、今回も審議はとても盛り上がりました。
続いて、投票へと移ります。審査員の方には、良いと思ったファイナリストを2名選び、挙げてもらいました。
投票結果
川上:中田・モニョチタ
菊地:平田・河村
白根:平田・モニョチタ
大日本:モニョチタ・河村
都築: 平田・モニョチタ
集計すると、モニョチタ 4票/平田 3票/河村 2票/中田 1票と、票が割れる結果となりました。そこで、審査員の方に再度ひと言ずつ選んだポイントを語っていただきました。
平田尚也「“Demon” “Space Ship” “Royal Drive”」について
都築「プレゼンの物腰の良さが評価できた。そういうところからも、個展への期待ができる」
白根「ポートフォリオで見た瞬間から、驚きと新鮮さがあった。個展でも見てみたい」
菊地「ポートフォリオを見た時に圧倒的に良かった。今回はちょっと残念なところもあったけど、新鮮な表現をしてくれそうな期待感を込めて」
中田こぶし「絵本を考える。」について
川上「他の人の作品は、個展でどうなるかが想像できた。でも、彼女は想像できなかった。ここからブラッシュアップして良い作品を作ってくれそう」
モニョチタポミチ「持ってみたの」について
都築「こういう雰囲気の絵を描く人は他にもいるが、彼女の作品は良い。今後も裏切らないのでは、という期待を込めて」
白根「彼女のこれまでの膨大な制作量を知っているので期待できそうだし、伸びしろもある。個展でおもしろいことをやってくれそうだ」
川上「全体的に好きな作品。彼女はいつも新しい作品を見せてくれるので、個展も楽しみだ」
塚田「とにかく構成がとても見事だなと。ポートフォリオの時点では個展プランに対してやや不安もあったが、この調子ならいいものができあがりそうだ」
河村真奈実「リプレゼント」について
菊地「魅力的なのに、河村さんの作品だけ、どこが魅力的なのかがうまく説明できなかった。だからこそ、個展を見てみたい」
秀親「平田くんと迷ったが、ビジュアル的にとてもいいし、こちらの方が見栄えが良いと思った」
審査員にそれぞれ票を投じたファイナリストの魅力を語っていただいたところで、2回目の投票へと移りました。
すると……平田さんが2票、河村さんが2票、モニョチタさんが1票という結果に。
またしても票が割れ、改めて2票獲得した平田さん、河村さんの2人のどちらかを選んでもらうこととなりました。
そして、3回目の投票へ。会場中の視線が集まる中、読み上げられた結果は…平田さん 3票、河村さん 2票。ついに、グランプリは平田さんに決定しました!
平田さん、本当におめでとうございます。
出品者インタビュー
平田尚也さん グランプリ決定!
最後までドキドキの審査会でした。彫刻学科出身ですがチャレンジしてみて良かった。自分がやってきたことを認められた気がして、うれしいです。でも、まだまだ修行中なのでもっと頑張っていきたいですね。個展では、全力で作品作りをしていきたいです。
清水さん
「1_WALL」に挑戦したのは、今回が初めてです。選ばれれば、展示を無料でやれるというところに魅力を感じて応募しました。私は、まだまだ発展途上。今後も元気で楽しく健康的に、作品作りをしていきたいです。
福西想人さん
「1_WALL」に参加できて良かった! すごく楽しかったです。審査員の方の意見を目の前で直接聞けて、そこには観客もいる、という構造は他にはないコンペティションだと思います。応募者の方にアドバイスするとしたら、ポートフォリオの構成をもっと詰めていくといいんじゃないかと言いたいですね。
中田こぶしさん
今回こうしてファイナリストにまで残って展示の機会をいただけて、審査員の方からもいろいろと意見をもらえて、とても勉強になりました。今、自分が出せる力は全部出せたと思います。これからもいい作品、おもしろい作品を作っていきたいです。
モニョチタポミチさん
前回の「1_WALL」から成長していると審査員の方から評価してもらえてうれしかったし、自分でもやりきったなと思っています。さまざまな意見をもらえて、自分の作品を客観的にも見ることができました。これからも、新しい表現に挑戦し続けていきたいと思っています。
河村真奈美さん
今回、「1_WALL」に応募して、いろいろな意見やアドバイスをいただいたことで、大学で制作だけしていてはダメだなと思ったし、プロの方から意見をもらうことの大切さを知りました。今回の作品よりもさらに良いものができたら、また応募したいです!